半導体の工場というと、光を当てたり、膜をつけたりする工程が目立ちます。でも、じつは「洗う」工程も、何度も何度も出てきます。
この記事では、「なぜ、そんなに洗うのか」を、研究や公開資料の数字をもとに、理由まで順に説明します。
この記事でわかること
- 洗浄は、どれくらい多いのか(工程の約5分の1)
- どれくらい小さな汚れで不良になるのか(線の幅の約4分の1)
- 洗い方の基本は、どう生まれたのか(1970年のRCA洗浄)
① 洗浄は、工程の中で何度も出てくる
ノースイースタン大学の解説では、0.18マイクロメートル世代のCMOSで、約400ある工程のうち約80が洗浄だったと紹介されています。64メガビットDRAMでも、洗浄は60〜70回ありました。つまり、洗浄は、およそ5工程に1工程の割合で出てくる工程です。
ノースイースタン大学の研究センターの解説(2013年更新)。先端ICでは、全工程の少なくとも3分の1が洗浄だとする、電気化学会の会報の記述もあります。
膜をつけたり、削ったり、光を当てたりする工程のたびに、ウェハには、ごみや薬品のあとが残ります。そのまま次の工程へ進むと、汚れがチップの中に閉じこめられてしまいます。だから、工程と工程のあいだに、こまめに洗うのです。
洗浄の割合 = 80 ÷ 400 = 0.2、つまり 20%(5工程に1つ)。
もし洗浄を1回やめると、400工程のうち1工程が減るだけに見えます。でも、その1回で残った汚れは、あとの工程すべてに影響します。回数の多さは、それだけ汚れが入りやすい場面が多いということです。
確認クイズ:0.18マイクロメートル世代のCMOSで、洗浄は、約400工程のうち、いくつほどだったでしょう?
答え:約80工程です。
② ごく小さな汚れでも、不良になる
同じ解説では、「最小の線の幅の約4分の1より大きな粒子は、致命的な不良を起こすことがある」と述べられています。
回路は、細い線がすき間をあけて並んでいます。そこに粒が1つ落ちると、線と線をつないでショートさせたり、線をふさいで断線させたりします。回路が細くなるほど、不良になる粒の大きさも小さくなります。
0.18マイクロメートル世代なら、最小の線の幅は約0.18マイクロメートル = 180ナノメートルです(1マイクロメートル=1000ナノメートル)。
不良になる粒子の目安 = 180 ÷ 4 = 45ナノメートル。髪の毛の太さ(約70マイクロメートル=70,000ナノメートル)の、およそ1500分の1です。
線の幅が90ナノメートルの世代なら、90 ÷ 4 = 22.5ナノメートル。回路が細くなるほど、気にする粒子はさらに小さくなります。
確認クイズ:どれくらいの大きさの粒子が、不良の原因になるでしょう?
答え:最小の線の幅の、約4分の1より大きな粒子です。
③ 不良の多くは、汚れが原因と考えられた
同じ解説は、「汚れ(コンタミネーション)が、集積回路の歩留まり低下の75%を占める」という研究者の推定を紹介しています。歩留まりとは、つくったチップのうち、良品だった割合です。
ノースイースタン大学の解説より。ただし、このページには「一部の情報が古い」という注記があります。75%は、昔の推定として受け取るのが安全です。
チップは、1枚のウェハから何百個もつくります。汚れで不良が増えるほど、同じ材料と時間でつくれる良品が減り、1個あたりのコストが上がります。洗浄は、品質だけでなく、お金にも直結する工程です。
歩留まり = 良品の数 ÷ つくった数 × 100。たとえば、1枚のウェハから400個のチップをつくり、良品が320個なら、320 ÷ 400 × 100 = 80%です。
ここで汚れの不良が減って良品が360個になれば、360 ÷ 400 × 100 = 90%。同じウェハ1枚から、良品が40個(12.5%)も増えます。(数字は考え方を示すための例です)
確認クイズ:この数字は、どう受け取るのが安全でしょう?
答え:情報が古いという注記があるため、「昔の推定」として受け取ります。
④ 洗い方の基本:RCA洗浄
電気化学会(ECS)の会報で、ペンシルベニア州立大学のルジロ教授は、洗浄の基本になった方法を次のように紹介しています。ヴェルナー・カーンとパイノーネンが1970年の論文で、過酸化水素水をもとにした洗浄法を示しました。はじめにアルカリ性の液、つぎに酸性の液で処理する、二段階の方法です。これが「RCA洗浄」です。
The Electrochemical Society Interface 2010年春号。ルジロ教授の解説で、元の論文は W. Kern and D. A. Puotinen, RCA Review, 31, 187 (1970) です。
汚れには、粒子、有機物、金属など、性質のちがうものがあり、1つの液で全部は落としにくいからです。RCA洗浄のアルカリ性の液は、もともと有機物の膜や金属を落とすためのものでしたが、粒子を落とすのにもとても効果的だとわかり、今も洗浄の土台になっています。
洗浄は、工程の約5分の1を占める。小さな粒でも不良になる。洗い方の基本は、1970年のRCA洗浄で、性質のちがう液を順に使う。
確認クイズ:RCA洗浄は、アルカリ性の液と酸性の液を、どの順に使う方法でしょう?
答え:はじめにアルカリ性の液、つぎに酸性の液です。
次の記事では、落とす対象の「汚れの種類」を、詳しく見ていきます。
ことばのおさらい
- 洗浄:ウェハの表面から、汚れを取りのぞく工程です。
- 粒子(パーティクル):ウェハの表面についた、ごく小さなごみの粒です。
- 歩留まり:つくったチップのうち、良品だった割合です。
- RCA洗浄:1970年の論文で示された、基本の洗浄方法です。
よくある誤解
Q. 洗浄は、工程の合間の、おまけの作業ですか?
いいえ。洗浄は、工程の約5分の1を占める、品質を支える工程です。
Q. 汚れは、目で見えるほど大きなものですか?
いいえ。回路の線の幅の約4分の1より大きければ、目に見えない粒でも不良の原因になります。

