今回のテーマは、
「なぜ、半導体づくりでは表面を平らにする工程が要るのか」
答え:段差があると、光で形を描くときにピントが合わず、上に重ねる配線も切れやすくなるからです。そこで、表面を研磨して平らにします。
この記事でわかること
- ① 平らでないと何が困るか
- ② 光で形を描くときのピント
- ③ 配線を重ねるときの段差
- ④ 平らにするとは何か
- ⑤ 平らにする工程が使われる場所
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① 平らでない表面:段差はどうしてできるのか
大事なポイント:ウェハの表面は、膜を付けたり削ったりするたびに、凸凹(段差)ができます。この段差を放っておくと、次の工程がうまくいきません。
ウェハは、半導体の材料(多くはシリコン)でできた薄い円盤です。膜は、その表面に付ける薄い層で、厚さは数nm〜数µmです(1µmは1000nm、1nmは10億分の1メートルです)。配線は、トランジスタなどの部品どうしをつなぐ、細い金属の線です。回路は、膜を付けて、不要な所を削り、また膜を付ける、というくり返しでつくります。
ここで、表面の様子を考えてみます。ウェハの上に、高さ0.3µmの配線を並べたとします。その上に絶縁膜(電気を通さない膜)を付けると、膜は下の形にそって付くため、配線のある所だけ盛り上がります。つまり、表面には配線の高さにあたる約0.3µmの段差が残ります(膜厚や形で変わる、目安の話です)。
1回の段差は小さく見えても、回路づくりでは、これを何十回もくり返します。そのため、段差は、そのままにすると積み重なり、あとの工程の邪魔になります。この講では、邪魔になる理由を2つ(露光のピント、配線の切れ)に分けて学びます。
確認クイズ:ウェハの上に高さ0.3µmの配線を並べ、その上に膜を付けると、表面はどうなりやすいでしょう?
答え:配線のある所だけ盛り上がり、段差が残りやすくなります。
② 露光のピントが合わなくなる
大事なポイント:回路の形を光で描く露光には、ピントが合う範囲があります。表面の段差がその範囲より大きいと、ぼやけた形になります。
露光は、光を当てて、回路の形をレジスト(光に反応する樹脂の膜)に焼き付ける工程です。カメラと同じように、ピントが合う範囲があり、これを焦点深度といいます。回路の線が細くなるほど、この範囲は狭くなります。参考にした資料でも、最新の微細な技術では、必要な平らさが「オングストローム(1オングストロームは0.1nm)」の単位になると書かれています。
表面に段差があるとどうなるでしょうか。高い所にピントを合わせると低い所がぼやけ、低い所に合わせると高い所がぼやけます。段差が焦点深度の範囲に収まれば問題ありませんが、範囲より大きいと、1か所にしかピントが合いません。ぼやけた所では、設計どおりの細い線が描けず、線が太ったり、つながったりします。
そこで、段差を、ピントが合う範囲に収まるまで減らすことが、平らにする大きな目的の1つです。資料でも、研磨でウェハ全体を、露光装置の焦点深度の範囲に入れられると説明されています。
確認クイズ:段差が、ピントが合う範囲より大きいと、どうなりますか?
答え:高い所と低い所の両方にピントを合わせられず、片方がぼやけます。
くわしく見る:仮の数値で、段差と焦点深度を比べる
ピントが合う範囲が0.2µmだと仮定します(理解のための仮の値で、実際の装置の値ではありません)。段差が0.3µmだと、0.3 > 0.2 なので、高い面と低い面を同時には範囲に入れられません。
0.3µm(段差) > 0.2µm(ピントが合う範囲) → 片方がぼやける
研磨で段差を0.05µmまで減らすと、0.05 < 0.2 なので、両方が範囲に入ります。このように、段差の大きさと焦点深度を比べると、平らにする必要があるかどうかが分かります。
③ 配線の積み重ねで、段差が増えていく
大事なポイント:配線は何層も重ねます。段差を放っておくと、層ごとに段差が引き継がれ、配線が切れやすくなります。
現在の回路は、配線を1層だけでなく、何層にも重ねて(多層配線といいます)つくります。参考にした資料では、複雑な回路では15層を超えることもあると書かれています(2018年時点の記述です)。
層を重ねるたびに、段差がそのまま引き継がれると、上へ行くほど表面の高低差が大きくなります。また、金属の配線が段差を乗り越える所では、角で膜が薄くなったり、切れたりしやすくなります(断線)。資料にも、研磨が使われる前は、表面の荒れによる断線を避けるため、上の層ほど配線の幅やすき間を大きく取る決まりがあった、と書かれています。研磨で平らにできるようになって、より細かい配線がつくれるようになりました。
つまり、平らにすることは、配線を細かく、何層にも重ねるための前提です。第3講以降で、この積み重ねの中で配線がどうつくられるかを学びます。
確認クイズ:層ごとに平らにしないで配線を重ねると、配線にはどんな心配がありますか?
答え:段差の角で配線が細くなったり切れたり(断線)しやすくなります。
くわしく見る:段差の積み重ねを、単純に足し算する
1層ごとに0.1µmの段差が引き継がれ、平らにしないまま5層重ねたとします(単純化した目安です。実際の高さは形や膜で変わります)。
0.1 × 5 = 0.5 µm
1層では0.1µmで済む段差が、5層では約0.5µmになります。前の節の例(ピント範囲0.2µm)と比べると、大きく超えてしまいます。層ごとに平らにすれば、段差は毎回ほぼ0に戻ります。
④ 「平らにする」とは、どういうことか
大事なポイント:目的は、鏡のようにすることではなく、次の工程が許す範囲まで、ウェハ全体の高さをそろえることです。そのために研磨が使われます。
平らにすることを、平坦化(へいたんか)といいます。表面を平らにする方法には、いくつかあります。その中で、ウェハ全体を研磨する方法が、CMP(化学機械研磨、Chemical Mechanical Polishing)です。CMPは、薬液で表面を変化させる化学の作用と、細かい粒で削る機械の作用を、組み合わせた方法です。くわしくは、次の第2講で学びます。
ここで大切なのは、ただ表面を磨くのではなく、「高い所を選んで削る」ことです。資料には、CMPは凸凹のある表面をならして、ウェハを平らにし、次の回路の要素を重ねる準備をする、と書かれています。また、全体を焦点深度に収めるだけでなく、場所によって材料を選んで除くこともできます。
平らさに終わりはありません。次の工程(たとえば露光)が必要とする平らさに入れば、目的は果たせます。必要以上に削ると、時間も材料も無駄になり、次の講以降で学ぶ不良の原因にもなります。
確認クイズ:CMPとは、何と何を組み合わせた方法でしょう?
答え:薬液による化学の作用と、細かい粒で削る機械の作用です。
⑤ 平らにする工程が使われる場所
大事なポイント:CMPは、素子を分ける溝の酸化膜、層の間の絶縁膜、タングステンの栓、銅配線など、回路のいろいろな所で使われます。
参考にした資料では、CMPは、酸化膜、タングステン、銅などに対して開発された、と説明されています。代表的な使い道を、3つ挙げます。
- 素子分離(STI):トランジスタどうしを電気的に分ける壁を、シリコンに溝を掘って、酸化膜で埋めてつくります。溝を埋めると、表面には酸化膜が余って残ります。CMPで、その余りを削り、活性領域(トランジスタをつくる部分)の高さに合わせます。
- 層間絶縁膜:配線と配線のあいだを埋める絶縁膜です。段差が残らないよう、膜を付けたあとで研磨して平らにします。第4講で学びます。
- 銅配線:銅は削って形をつくるのが難しく、溝に銅を埋めて、あふれた分をCMPで除く方法が使われます。第3講で学びます。
このように、CMPは、回路の多くの層で何度も使われる、基本の工程です。研磨で表面が平らになるおかげで、次の層の露光が正しく行えます。
確認クイズ:素子分離の溝を酸化膜で埋めたあと、表面に余った酸化膜は、どうやって除かれますか?
答え:CMP(研磨)で除かれます。
この講のまとめ
膜を付けたり削ったりすると表面に段差ができ、そのままだと次の工程の邪魔になります。
段差が焦点深度より大きいと露光のピントが合わず、配線を重ねるときは断線の原因になります。
表面を研磨して平らにする工程がCMPで、素子分離、層間絶縁膜、銅配線など、多くの層で使われます。
次の講では、CMPの装置と、研磨パッド、研磨液(スラリー)、圧力と回転のはたらきを学びます。
ことばのおさらい
- ウェハ:半導体の材料でできた、薄い円盤です。
- 膜:ウェハの表面に付ける、薄い層です。
- 配線:部品どうしをつなぐ、細い金属の線です。
- 段差:表面の高い所と低い所の高さの違いです。
- 焦点深度:ピントが合う範囲の幅です。
- 多層配線:配線を何層にも重ねた構造です。
- 平坦化:表面を平らにすることです。
- CMP:化学機械研磨。化学の作用と機械の作用を組み合わせて、表面を研磨して平らにする工程です。
よくある誤解
Q. 平らにするのは、見た目をきれいにするためですか?
いいえ。露光のピントを合わせ、上に重ねる配線の断線を防ぐためです。必要な平らさに入れば目的は果たせます。
Q. CMPは、銅配線だけに使われるのですか?
いいえ。素子分離の酸化膜、層間絶縁膜、タングステンなど、いろいろな膜に使われます。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Chemical-mechanical polishing」(平坦化の目的、焦点深度、STI、銅・タングステン・酸化膜への使用)
- Wikipedia「Interconnect (integrated circuits)」(多層配線の層数、研磨前の配線ルールの制約)
段差0.3µm、焦点深度0.2µm、0.1µm×5層などの数値は、理解のために置いた仮の値です。膜が下の形にそって付く、配線が段差の角で細くなる、という説明は、一般的な知識にもとづく目安です。図は、記事用に描いた簡易の図です。
