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半導体のPVDとは?真空蒸着とスパッタの違いをわかりやすく解説【成膜3級・第2講】

半導体のPVDとは?真空蒸着とスパッタの違いをわかりやすく解説【成膜3級・第2講】 お知らせ
SEMICON CAMPUS 無料講座成膜コース3級 入門 ・ 第2講
真空の容器の中(空気をぬいてある)ターゲット(材料の板、−の電圧)++++① アルゴンのイオン(+)が、ターゲットへ当たる② たたき出された材料の原子が飛ぶ③ ウェハ(膜が付く)図の粒の数や大きさは、しくみを示すためのもので、実際とは異なります
アルゴンの+イオンがターゲットに当たり、たたき出された原子がウェハに付いて膜になります。

今回のテーマは、

「PVDでは、どうやって固体の金属を、ウェハの上の薄い膜にするのか」

答え:真空の中で材料を蒸気にして飛ばし、ウェハの上で固体に戻します。飛ばし方は、加熱して蒸発させる蒸着と、イオンをぶつけてたたき出すスパッタの2つが代表です。

黄色のマーカー = この講座のテストに出す重要ポイント

この記事でわかること

  • ① PVDの基本の流れ
  • ② なぜ真空が必要か
  • ③ 蒸着(加熱して飛ばす)
  • ④ スパッタ(ぶつけて飛ばす)
  • ⑤ スパッタの工夫と使いどころ

※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。

① PVDは、「出す・飛ばす・付ける」の3ステップ

大事なポイント:PVDは、固体の材料から原子を出し、真空の中を飛ばして、ウェハの上で固体に戻す方法です。

前の講で、PVDは「固体の材料を蒸気にして、ウェハの上で固体に戻す方法」だと学びました。流れを、手順にして確かめましょう。

  1. 出す:材料のかたまり(ソース、またはターゲット)から、原子を飛び出させます。
  2. 飛ばす:空気を抜いた容器の中を、原子がウェハへ向かって飛びます。
  3. 付ける:ウェハの表面に原子が付いて、固まり、膜になります。

ステップ①の「出し方」で、方法が分かれます。熱して蒸発させるのが蒸着、イオンをぶつけてたたき出すのがスパッタです。この2つが、PVDの代表です。

PVDは、化学反応を使うCVDなどに比べて、低い温度でできる方法がある、という特徴があります。このため、熱に弱い部分があるときにも使いやすい方法です。

① 出す材料から原子を出す② 飛ばす真空の中を飛ぶ③ 付けるウェハで固まる①のやり方が、蒸着とスパッタで異なります
3つのステップは、蒸着でもスパッタでも共通です。
確認クイズ:PVDで、原子の「出し方」にあたる2つの代表的な方法は何でしょう?

答え:蒸着(熱して蒸発させる)と、スパッタ(イオンをぶつけてたたき出す)です。

② なぜ真空が必要か:原子がぶつからずに飛べるように

大事なポイント:空気が多いと、飛ぶ原子が空気の分子にぶつかります。空気を抜いて、ウェハまで届くようにします。

ふだんの空気の中は、窒素や酸素の分子でいっぱいです。この中で原子を飛ばしても、すぐ分子にぶつかって、ウェハに届きません。そこで、容器の空気をポンプで抜き、真空にします。

ぶつからずに飛べる距離の平均を、平均自由行程といいます。蒸着の説明では、圧力が10−4 Pa(パスカル。大気圧の約10億分の1)のとき、0.4nmの粒の平均自由行程は約60mとされています。装置の容器が1m前後なら、その60倍ですから、途中でぶつかることはほとんどありません。

空気が多いと、困ることがほかにもあります。たとえば、アルミニウムを酸素のあるところで飛ばすと、酸化アルミニウムになってしまいます。また、ぶつかるとウェハに届く量が減るため、厚さの調整もむずかしくなります。

空気が多い(真空が悪い)分子にぶつかって、進めない高真空(空気をぬいた)ほとんどぶつからず、ウェハまで届く
灰色の丸は空気の分子、青い丸は飛ぶ原子です。数や位置は、イメージです。
確認クイズ:原子が、ぶつからずに飛べる距離の平均を何というでしょう?

答え:平均自由行程です。

くわしく見る:圧力を上げると、距離はどう変わるか(目安の計算)

平均自由行程は、おおよそ圧力に反比例する、と考えられます(粒の種類と温度が同じ場合の目安で、厳密ではありません)。10−4 Paで約60mとすると、

10−2 Pa(圧力が100倍):60 m ÷ 100 = 0.6 m
1 Pa(圧力が10,000倍):60 m ÷ 10,000 = 0.006 m = 6 mm

となります。圧力が高いと、飛べる距離が、装置のサイズより短くなり、原子がぶつかりながら進むことになります。なお、本文で出典があるのは「10−4 Paで約60m」の部分だけです。

③ 蒸着:材料を熱して、蒸発させる

大事なポイント:蒸着は、材料を熱して蒸発させ、その蒸気をウェハの上で固めます。蒸気はほぼ一方向から来るため、段差の陰には付きにくくなります。

蒸着では、材料を熱します。熱し方は、おもに2つです。

  1. 抵抗加熱:電気を流して熱くした容器(ボート)の中で、金属をとかして蒸発させます。
  2. 電子ビーム:電子を高いエネルギーで材料に当てて、熱します。

蒸発した材料は、ほとんどまっすぐ飛び、冷たいウェハの上で固まります。ここで、1つ注意があります。蒸気が1つの方向から来るため、ウェハに高い段差があると、その陰には蒸気が届きにくくなります。この現象を「影になる(シャドウイング)」、または「段差の付き回りが悪い」といいます。ウェハを2つの軸で回して、影を減らす装置もあります。

蒸気は、ほぼ一方向から来る(図では斜め)段差の右側の陰では付きにくい蒸気が来る向きの反対側(陰)には、ほとんど付かない
図の黄色が膜です。蒸気が当たる面には付きますが、陰になる所には付きにくくなります。
確認クイズ:蒸着で、段差の陰に膜が付きにくいのは、なぜでしょう?

答え:蒸気が、ほぼ一方向から来るためです。

くわしく見る:影の長さを見積もる(目安の計算)

高さ h の段差に、蒸気が真上から角度θ(シータ)だけ傾いて来るとします。陰の長さ L は、図形の関係から、

L = h × tanθ

と表せます。段差の高さ100nmのとき、θ=45°(tan45° = 1)なら L = 100 nm、θ=60°(tan60° ≈ 1.73)なら L ≈ 173 nm です。傾きが大きいほど、陰が長くなります。

実際の装置の角度や、段差の形はもっと複雑です。ここでは、考え方をつかむための簡単な計算です。

④ スパッタ:イオンをぶつけて、たたき出す

大事なポイント:スパッタは、プラズマの中のアルゴンイオンを材料の板(ターゲット)にぶつけて、原子をたたき出す方法です。

スパッタの手順は、次のとおりです。

  1. 容器を真空にしてから、アルゴンというガスを少しだけ入れます。アルゴンは、他の物質と反応しにくい気体(不活性ガス)です。
  2. ターゲット(材料の板)に、マイナスの電圧をかけます。すると、ガスの一部が、+の電気をもつ粒(イオン)と電子に分かれた状態になります。これがプラズマです。
  3. アルゴンの+イオンは、−のターゲットに引き寄せられて、勢いよくぶつかります。
  4. ぶつかった勢いで、ターゲットの原子がたたき出されます。
  5. たたき出された原子が飛んで、ウェハに付き、膜になります。

ビリヤードで、手球が玉に当たって玉が飛び出すのと似た考え方です。

スパッタには、次の特徴があります。

  • 融点がとても高い材料でも、膜にできます(熱でとかす蒸着では、むずかしい材料です)。
  • 膜の成分が、ターゲットの成分に近くなります。
  • 蒸着の膜より、ウェハへの付着(密着)が良いのが普通です。
  • 弱点として、アルゴンが、膜の中に不純物として少し入ることがあります。
1真空にしてアルゴンを入れる2電圧をかけてプラズマにする3+イオンがターゲットへ当たる4原子がたたき出される5ウェハに付いて膜になる1つの粒を、順に追う手順です。実際には、とても多くの粒が同時に動いています
番号の順に、スパッタが進みます。
確認クイズ:スパッタで、ターゲットにぶつけるのは何でしょう?

答え:アルゴンのイオン(+の電気をもつ粒)です。

⑤ 磁石でスパッタを速くする(マグネトロン)と、使いどころ

大事なポイント:磁石で電子をターゲットのそばに閉じこめると、イオンが増えて、速く付きます。配線に使う金属の膜によく使われます。

ふつうのスパッタは、付く速さがあまり速くありません。そこで、ターゲットの裏に磁石を置くマグネトロンスパッタが広く使われます。磁石の力で、電子がターゲットの表面近くを、ぐるぐる回るように動きます。電子がガスのアルゴンに何度もぶつかるので、アルゴンイオンが増え、そのぶん、たたき出される原子も増えて、付く速さが上がります。また、圧力が低くても、プラズマを保てます。

スパッタは、半導体の工程で、金属の膜を付けるのに、広く使われています。たとえば、銅の配線では、めっきで銅を埋める前に、薄い銅の下地(シード層)をPVDで付けます。

スパッタの弱点も確認しておきます。原子はまっすぐ飛ぶだけでなく、まわりにも広がって飛ぶので、蒸着のようなくっきりした影はできにくく、段差への付き回りは蒸着より良くなります。ただし、深く細い穴の底まで均一に付けるのは、次の講以降で学ぶCVDやALDのほうが得意です。

ターゲットNSN電子(緑)は、磁力線(橙)にそって、ターゲットのそばを回る→ アルゴンに何度もぶつかる → イオンが増える → 速く付く磁石は、ターゲットの裏側(図では下)に置く磁力線の描き方は、しくみを示す簡易のものです
磁石の上で電子が回り、イオンが増えます。
確認クイズ:マグネトロンスパッタで、ターゲットの裏に磁石を置くと、付く速さはどうなるでしょう?

答え:上がります(電子がターゲットのそばに閉じこめられ、イオンが増えるため)。

くわしく見る:付ける時間を見積もる(仮の数字)

毎分30nm付く条件があるとします(これは仮の数字です。実際の速さは、材料、電力、圧力などで大きく変わります)。100nmの膜に必要な時間は、

100 nm ÷ 30 nm/分 ≈ 3.3分(約3分20秒)

です。第1講の考え方(厚さ ÷ 速さ)と同じです。

この講のまとめ

この講のポイント

PVDは、「出す・飛ばす・付ける」の3ステップで、材料を蒸気にしてウェハで固める方法です。
空気が多いと原子がぶつかるため、真空にします。蒸着は熱して飛ばし、スパッタはアルゴンイオンをぶつけて飛ばします。
どちらもほぼ一方向から付くので、段差の陰には付きにくく、深い穴の底への付き回りには、限りがあります。

次の講では、ガスの化学反応で膜をつくるCVDが、この付き回りの弱点をどう補うのかを見ていきます。

ことばのおさらい

  • 蒸着:材料を熱して蒸発させ、ウェハの上で固めるPVDの方法です。
  • スパッタ:イオンをぶつけて、ターゲットの原子をたたき出すPVDの方法です。
  • ターゲット:スパッタで、原子をたたき出される材料の板です。
  • 平均自由行程:粒が、ぶつからずに飛べる距離の平均です。
  • プラズマ:ガスの一部が、+のイオンと電子に分かれた状態です。
  • マグネトロンスパッタ:磁石を使って、付く速さを上げたスパッタです。

よくある誤解

Q. 真空にするのは、きれいにするためだけですか?

いいえ。原子がぶつからずにウェハへ届くようにし、空気との反応を防ぐためでもあります。

Q. スパッタは、材料を熱してとかす方法ですか?

いいえ。熱でとかすのは蒸着です。スパッタは、イオンをぶつけてたたき出します。

参考にした公式情報

圧力と平均自由行程の比例関係、影の長さの式、付く速さの数字(毎分30nm)は、一般的な知識または仮の数字による目安です。「CVDやALDのほうが穴の底に付けやすい」は、一般的な知識で、次の講以降で出典つきで説明します。図は、記事用に描いた簡易の図です。

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