今回のテーマは、
「なぜ、半導体づくりには『削る』工程が要るのか」
答え:レジストにつくった形を、最後まで残る膜に写すためです。削り方には、薬液で溶かす方法(ウェット)と、気体を使う方法(ドライ)があり、細かい形には、縦にだけ削れるドライが向いています。
この記事でわかること
- ① エッチングとは何か
- ② なぜ削るのか
- ③ ウェットとドライ
- ④ 等方性と異方性
- ⑤ 削る量と後始末
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① エッチングとは、レジストの形を膜に写す工程
大事なポイント:レジストで守られていない部分の膜を削り、レジストの形を、下の膜に写します。
この講で最初に出てくる3つの用語から、説明します。ウェハは、半導体の材料(多くはシリコン)でできた、薄い円盤です。膜は、ウェハの表面につくる薄い層で、厚さは数nm〜数µmです(1µm=1000nm、1nmは10億分の1メートルです)。レジストは、光に反応する樹脂の膜で、削りたくない部分を守る「ふた」の役目をします。このような覆いを、一般にマスクと呼びます。
エッチングは、次の手順の3番目にあたります。
- ウェハの上に、削りたい膜(たとえば酸化膜)をつけます。
- その上にレジストを全面に塗ります。次に、露光(光を当てて、形を焼きつける)と現像(薬液で、不要な部分を洗い流す)を行い、残したい形にします。
- エッチングで、レジストのない所の膜だけを削ります。
- 役目を終えたレジストを取り除きます。
露光と現像は、フィルム写真に近い考え方です。写真は、フィルムに光を当てて(露光)、薬液で絵を浮かび上がらせます(現像)。レジストでも、光が当たった部分(種類によっては当たらない部分)が薬液に溶けるようになり、現像でその部分だけが洗い流されて、形が残ります。くわしくは、露光の講座で学びます。
エッチングは、膜を化学的に取り除く工程です。レジストがある所は守られて膜が残り、ない所は削られます。その結果、レジストにつくった形が、そのまま膜の形になります。
身近なたとえでは、型紙(ステンシル)を置いて、その上からスプレーを吹き、型紙のない所だけ色をつける作業に似ています。エッチングは、色をつける代わりに、型紙のない所の膜を取り除く作業です。型紙が正確なら、できあがる形も正確になります。そのため、エッチングでは、レジストの形をどれだけ正しく膜に写せるかが、いちばんの課題になります。
確認クイズ:エッチングで、削られずに残るのは、どの部分の膜でしょう?
答え:レジストで覆われている部分の膜です。
② なぜ「削る」工程が要るのか
大事なポイント:レジストの形は、一時的なものです。回路の部品にするには、その形を、残る膜に写す必要があります。
前の工程で、レジストに形を描きました。しかし、レジストは最後に取り除かれる仮のふたで、回路の部品にはなりません。回路として使われるのは、絶縁のための酸化膜や、電気を通す膜など、最後まで残る膜です。その膜に形をつけるのが、エッチングです。
たとえば、二酸化ケイ素(SiO2、酸化膜)は、ウェットではバッファードフッ酸(BHF)という薬液で、ドライではCHF3というガスで削られます。窒化シリコン(Si3N4)も、CHF3で削れます。シリコンそのものは、SF6というガスで削れます。このように、膜の種類ごとに、削る方法が決まっています。具体的な方法は、第2講から順に学びます。
回路は、膜をつけて、削って、また別の膜を重ねて、削る、というくり返しでできています。そのため、エッチングは、半導体づくりの中で何度も出てくる、基本の工程です。
もう1つ大事なのは、「削ってよい膜」と「削ってはいけない膜」が、ウェハの上には同時にあることです。たとえば、酸化膜を削りたいときに、その下のシリコンまで削ってしまっては困ります。そのため、エッチングは、ただ削るだけでなく、削る相手を選べることが重要です。この「選べる度合い」は、第4講で選択比として学びます。
確認クイズ:レジストの形は、エッチングのあと、回路の部品として残りますか?
答え:残りません。レジストは取り除かれ、形を写された膜が残ります。
③ ウェットとドライ:液体で溶かすか、気体で削るか
大事なポイント:エッチングは、薬液で溶かす「ウェット」と、プラズマで削る「ドライ」の2種類に大きく分かれます。
ウェットエッチングは、酸やアルカリなどの薬液に、ウェハを浸して、膜を溶かす方法です。身近な例では、錆びた金属を酸で溶かすのと、考え方は同じです。
では、なぜウェットは横にも広がるのでしょうか。薬液は液体なので、決まった向きを持たず、膜に触れた所ならどこでも、同じ化学反応で溶かします。上から溶かして穴ができると、その穴の側面(かべ)にも薬液が触れるため、側面も溶けて、横へ広がります。レジストの縁の下に薬液がしみこむことでも、食い込みは進みます。これに対してドライは、電気の力で、イオン(電気を帯びた粒)を縦方向に加速してウェハにぶつけられるため、縦に削りやすくなります。くわしくは、第3講と第4講で学びます。
ドライエッチングは、真空の容器の中に、ガスを入れ、電気の力でプラズマ(電気を帯びた粒が混ざった、光る気体)にして、膜を削る方法です。プラズマについては、第3講でくわしく学びます。
歴史を振り返ると、ウェットは1980年代後半に、ドライのプラズマエッチングに置きかえられていきました。現在の、非常に細かい回路をつくる工程では、ウェットはほとんど使われず、ドライが中心です。その理由は、次の節の「削られる形」にあります。ただし、ウェットが役に立つ場面は、今も残っています。その例は、第2講で説明します。
2つの違いを、先に大まかにまとめます。ウェットは、装置が単純で、薬液に浸すだけなので、始めやすい方法です。一方で、削られる形が、横にも広がりやすい欠点があります。ドライは、装置が大がかりですが、削る向きや強さを、電気の力で調整できます。
確認クイズ:1980年代後半以降、細かい回路づくりの中心になったのは、ウェットとドライのどちらでしょう?
答え:ドライ(プラズマエッチング)です。
④ 等方性と異方性:削られた形が、どう違うか
大事なポイント:横にも削れるのが等方性、縦にだけ削れるのが異方性です。細かい回路には、異方性が向いています。
等方性は、「どの方向にも同じ」という意味で、エッチングでは、全方向に同じ速さで削れることです。異方性は、「方向によって違う」という意味で、ここでは、縦方向だけ(ウェハに垂直な方向)に削れることです。
等方性のエッチングでは、膜は下へ削られるだけでなく、横にも削られます。すると、レジストの下の膜にも、横から食い込みが入ります。この食い込みをアンダーカット(バイアスとも呼ぶ)といいます。レジストで形を描いたのに、膜がそれより細くなってしまうわけです。
薬液を使うウェットエッチングは、ふつう等方性で、厚い膜ほど、このずれが大きくなります。プラズマを使うドライは、等方性にも異方性にもできます。そのうえで、現在のエッチングは、鋭く、制御しやすい形をつくれる異方性が好まれます。回路の線は細く、すき間も狭いので、横に食い込まれると、設計どおりの太さにならないためです。
確認クイズ:マスクの下へ、横から食い込んで削れることを、何というでしょう?
答え:アンダーカットです。
くわしく見る:アンダーカットの大きさを、簡単に見積もる
等方性で、縦と横が同じ速さで削れる、と単純に考えます(理想化した目安で、実際はもう少し複雑です)。膜厚が0.3µm、レジストの線の幅が1.0µmのとき、線の両側から0.3µmずつ食い込まれるので、膜に残る線の幅は、次のようになります。
1.0 − 0.3 × 2 = 0.4 µm
設計の1.0µmが、0.4µmまで、半分以下になります。異方性なら、横の食い込みはほぼ0なので、1.0µmのままです。線と線のすき間が0.5µmなら、等方性では、すき間が 0.5 + 0.3 × 2 = 1.1µm に広がります。
なお、実際には、膜を削りきったあとも少し長く削る(第4講のオーバーエッチ)ため、食い込みはこの値より大きくなります。
⑤ どれだけ削るか、そして後始末
大事なポイント:削る量は、エッチレート×時間で決まります。削り終えたら、レジストを取り除きます。
エッチレートは、1分あたり何nm削れるか、という速さです(単位はnm/分)。膜厚が300nmで、エッチレートが100nm/分なら、300 ÷ 100 = 3分で削りきれます。時間を決めて止める方法は、いちばん単純なやり方です。ただし、エッチレートが変わったり、膜厚にばらつきがあったりすると、止めるタイミングがずれます。この問題は、第4講と第5講で扱います。
削り終わったら、レジストを取り除きます。方法の1つは、酸素のプラズマを使うものです。酸素のプラズマが、レジストと結びついて灰のようになり、真空ポンプで排気されます。これをアッシング(灰化)といいます。
次の講からは、この3番目の工程の中身を、ウェット(第2講)、ドライ(第3講)の順に学びます。
確認クイズ:膜厚450nmの膜を、エッチレート150nm/分で削ると、削りきるのに何分かかるでしょう?
答え:3分です(450 ÷ 150 = 3)。
くわしく見る:単位をそろえて計算する
膜厚が0.5µm、エッチレートが250nm/分のとき、単位をそろえます。0.5µm = 500nmです。
500 ÷ 250 = 2 分
単位をそろえずに「0.5 ÷ 250」としてしまうと、答えが1000倍ずれます。計算の前に、nmかµmのどちらかに、そろえてください。
膜厚が10%厚い(550nm)ときは、同じ2分で止めると、550 − 250 × 2 = 50nm の膜が残ります。目安の計算ですが、止める時間の決め方が大事な理由が分かります。
この講のまとめ
エッチングは、レジストで守られていない部分の膜を削り、形を膜に写す工程です。
薬液で溶かすウェットと、プラズマで削るドライがあり、現在の細かい回路ではドライが中心です。
横にも削れる等方性ではアンダーカットが出るため、細かい形には縦に削れる異方性が向きます。
次の講では、ウェットエッチングで、薬液がどのように膜を削り、どんな形ができるのかを学びます。
ことばのおさらい
- ウェハ:半導体の材料でできた、薄い円盤です。
- 膜:ウェハの表面につくる、薄い層です。
- レジスト・マスク:削りたくない部分を守る覆いです。レジストは、光に反応する樹脂の膜です。
- エッチング:膜を削って、レジストの形を膜に写す工程です。
- 等方性・異方性:全方向に同じ速さで削るのが等方性、縦だけ削るのが異方性です。
- アンダーカット:マスクの下に、横から食い込んで削れることです。
- エッチレート:1分あたりに削れる膜厚(nm/分)です。
よくある誤解
Q. エッチングで、レジストは回路の部品になるのですか?
いいえ。レジストは削るあいだ膜を守る仮のふたで、あとで取り除かれます。回路になるのは、形を写された膜です。
Q. ウェットは古くて、今はまったく使われないのですか?
いいえ。細かい回路をつくる工程の中心はドライですが、ウェットが役に立つ場面も残っています。その例は、第2講で説明します。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Etching (microfabrication)」(目的、マスク、ウェットとドライ、等方性と異方性、BHFやCHF3など)
- Wikipedia「Isotropic etching」(等方性、アンダーカット)
- Wikipedia「Plasma ashing」(酸素プラズマによるレジスト除去)
- Wikipedia「Photoresist」(マスクとしてのレジスト)
- Wikipedia「Reactive-ion etching」(SF6がシリコンに使われること)
エッチレートの計算、nmとµmの換算、アンダーカットの見積もりの式は、一般的な知識にもとづく目安です。「SF6でシリコンを削る」は参考資料の記載にもとづきます。図は、記事用に描いた簡易の図です。数値の計算例は、説明用の仮の値です。

