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イオン注入の深さと分布とは?チャネリング・損傷・非晶質をわかりやすく解説【イオン注入・熱処理3級・第3講】

SEMICON CAMPUS 無料講座イオン注入・熱処理コース3級 入門 ・ 第3講
向き:上から下へ、イオンが入るウェハの表面平均同じ条件で打っても、止まる深さは1つずつ違い、平均のまわりに散らばる
簡易の図です。点が止まった位置で、青い点線は平均の深さです。

今回のテーマは、

「打ち込んだイオンは、ウェハの中でどこに止まり、結晶をどのくらい傷つけるのか」

答え:イオンは、原子にぶつかりながらエネルギーを失い、平均の深さのまわりに散らばって止まります。結晶の通り道に入ると深く届き、ぶつかった分だけ結晶は傷つきます。

黄色のマーカー = この講座のテストに出す重要ポイント

この記事でわかること

  • ① イオンが止まるまで
  • ② 深さと分布の形
  • ③ 結晶の通り道に入る現象(チャネリング)
  • ④ 結晶の傷み(損傷)
  • ⑤ 分布を考えて注入する

※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。

① イオンは、ぶつかりながら止まる

大事なポイント:イオンは、ウェハの中の電子や原子核にぶつかって、少しずつエネルギーを失い、やがて止まります。止まる深さは、1つずつ少し違います。

表面から入ったイオンは、ウェハの中で、シリコン原子の電子や、原子の中心にある原子核にぶつかります。電子との衝突は、進む向きをあまり変えずに、エネルギーを少しずつ奪います。一方、原子核との衝突は、向きを大きく変え、衝突された原子を、もとの位置から弾き飛ばします。

どちらの衝突も、1個1個のイオンで、起きる回数や場所が少しずつ違います。そのため、同じ条件で打ち込んでも、止まる深さは、イオンごとに違ってきます。

ここで、2つの言葉を決めます。止まった深さの平均を射影飛程(しゃえいひてい、Rp)といい、散らばりの幅を標準偏差(ΔRp、「ストラッグリング」とも呼びます)といいます。簡単にいえば、Rpは「平均でどれだけ深く入るか」、ΔRpは「どれだけ散らばるか」です。

確認クイズ:イオンが止まる深さの平均を、何というでしょう?

答え:射影飛程(Rp)です。

② 深さと分布の形:エネルギーとイオンの重さで決まる

大事なポイント:エネルギーが大きいほど、またイオンが軽いほど、深くまで入ります。分布は、表面より少し深い所に山がある形になります。

止まる深さの分布は、おおまかに、山の形(ガウス分布、釣り鐘型)で表せます。山の頂上が、平均の深さ(Rp)の位置で、山の幅が散らばり(ΔRp)です。第1講の図で、イオン注入では、濃さのピークが表面より少し深い所にくる、と見たのは、この理由です。

深さを決める要素は、2つあります。1つ目はエネルギーです。エネルギーが大きいほど、深くまで入り、散らばりも大きくなります。2つ目はイオンの重さです。同じエネルギーなら、軽いイオン(ホウ素)のほうが深く入り、重いイオン(ヒ素)は浅い所で止まります。浅い層をつくりたいときに、ヒ素のような重い元素が使われるのは、こうした理由です。

具体的な深さの値は、教科書の表や計算ソフトで調べます。本講では、傾向を押さえてください。濃さの最大値は、ドーズ量を散らばりの幅で割った値に近くなります。ドーズ量が多いほど、散らばりが小さいほど、山は高くなります。

確認クイズ:同じエネルギーで、ホウ素とヒ素のうち、浅い所で止まりやすいのは、どちらでしょう?

答え:重いヒ素です。

くわしく見る:山の高さの、おおよその計算

山の形をガウス分布とみなすと、濃さの最大値 Np は、ドーズ量を Φ、散らばりを ΔRp として、

Np ≒ 0.4 × Φ ÷ ΔRp

で、近似できます(0.4は、1÷√(2π) ≒ 0.399 から出た値です)。Φ = 1014 個/cm2、ΔRp = 0.02 µm の場合、単位をそろえて、0.02 µm = 2×10−6 cm なので、

Np ≒ 0.4 × 1014 ÷ (2×10−6) = 2×1019 個/cm3

です。検算として、山の面積を考えると、2×1019 × 2.5 × 2×10−6 ≒ 1014 となり、ドーズ量と合います。この計算は、理解のための仮の値で、実際の分布は、イオンとエネルギーで変わります。

③ チャネリング:結晶の通り道に入ると、深く届く

大事なポイント:結晶の原子の列のすき間にイオンが入ると、ぶつかりにくく、予定より深くまで届きます。これを防ぐため、ウェハを少し傾けます。

結晶の通り道に沿って入る少し傾けて入れる原子にぶつからず、深くまで届く原子にぶつかり、浅い所で止まる
灰色の丸がシリコン原子です。原子の列のすき間をまっすぐ進むと、深くまで届きます。

シリコンは、原子が規則正しく並んだ結晶です。決まった向きから見ると、原子の列のあいだに、すき間(通り道)が見えます。イオンが、この通り道に沿って入ると、原子にあまりぶつからず、深くまで届きます。この現象をチャネリングといいます。

チャネリングが起きると、分布の奥に、予定よりも深い所まで続く「すそ」ができます。すそは、接合が深くなりすぎる原因になります。しかも、通り道に沿って入るイオンの数は、少しの角度のずれで大きく変わるため、毎回同じ結果を得にくくなります。

対策は、いくつかあります。もっとも基本的なのは、ウェハを、イオンの向きから数度傾けることです。傾けると、イオンが、通り道ではなく原子の列にぶつかります。資料でも、ほとんどの注入は、結晶の向きから数度ずらして行う、と書かれています。傾き角は、約7度がよく使われる、との説明もあります(装置や工程で変わります)。ほかに、表面に薄い酸化膜を置いてイオンの向きをばらけさせる方法や、先に結晶をわざと壊してから注入する方法もあります。

確認クイズ:チャネリングを減らすための、もっとも基本的な方法は何でしょう?

答え:ウェハを、イオンの向きから数度傾けることです。

④ 損傷:イオンが通ったあとは、結晶が傷つく

大事なポイント:イオンが原子を弾き飛ばすと、結晶が乱れます。量が多いと、規則正しい並びが失われ、非晶質になります。

整った結晶傷ついた結晶非晶質(乱れきった状態)イオンがぶつかるたびに、原子がもとの位置から弾き出されます
簡易の模式図です。実際の傷み方は、イオンの重さや量で変わります。

イオンが原子核にぶつかると、シリコン原子が、もとの位置から弾き出されます。弾き出された原子が、さらに別の原子を弾くこともあり、1個のイオンで、たくさんの原子が動かされます。その結果、結晶の中に、抜けた場所(空孔)や、余分な場所にいる原子ができ、結晶が乱れます。これを損傷といいます。

打ち込むイオンの量が増えると、乱れた部分が重なり、最後には、並びが失われた非晶質(アモルファス)という状態になります。資料でも、損傷の量が十分だと、表面が完全に非晶質になりうる、と説明されています。同じドーズ量でも、重いイオンほど、1個あたりの損傷は大きくなります。

損傷した結晶には、2つの問題があります。1つ目は、電気を運ぶ電子や正孔が、乱れた場所で捕まり、うまく流れないことです。2つ目は、打ち込んだ不純物が、結晶の正しい位置に入っていないことです。どちらも、次の講で学ぶ熱処理(アニール)で直します。

確認クイズ:結晶の規則正しい並びが失われた状態を、何というでしょう?

答え:非晶質(アモルファス)です。

⑤ 分布を設計する:エネルギーを選び、マスクを考える

大事なポイント:目的の深さと濃さを決め、エネルギーとドーズ量を選びます。マスクは、イオンを止められる厚さが必要です。

実際の工程では、狙う深さと濃さから、逆にエネルギーとドーズ量を決めます。浅い層なら、低いエネルギーと、重いイオン。深い層なら、高いエネルギーを使います。1回の注入で足りないときは、エネルギーを変えて、何回か打ち、分布を重ねることもあります。

注入しない場所を守るマスクは、イオンを止められるだけの厚さが必要です。薄いと、イオンが突き抜けて、守りたい場所に入ってしまいます。また、イオンはマスクの端のあたりで、少し横にも広がって止まります。細かい回路では、この広がりも考えて設計します。

ほかに、ウェハの表面が、イオンで削られる(スパッタ)現象や、絶縁膜の上に電気がたまる帯電も、注意する点です。これらは、2級以降で詳しく学びます。▶ 2級でくわしく

確認クイズ:マスクが薄すぎると、何が起きるでしょう?

答え:イオンが突き抜けて、守りたい場所に入ってしまいます。

くわしく見る:マスクの厚さの、おおまかな目安

マスクの中でも、イオンの止まり方は、山の形で散らばります。そこで、マスクの厚さを、「平均の深さ+散らばりの3倍」より大きくする、という考え方があります(一般的な目安です)。たとえば、マスクの中でのRpが0.20 µm、ΔRpが0.05 µmとすると、

0.20 + 3 × 0.05 = 0.35 µm

より厚くします。実際のマスクの厚さは、さらに余裕を見て決め、材料やエネルギーで変わります。この計算は、理解のための仮の値です。

安全のひとこと:注入では、毒性のあるガス(ヒ素、リン、ホウ素の化合物など)、高電圧、運転中に発生しうるX線を扱います。取り扱いは、必ず職場の決まりとSDS(安全データシート)に従います。

この講のまとめ

この講のポイント

イオンは、原子にぶつかりながら止まり、平均の深さ(Rp)のまわりに、山の形に散らばります。
エネルギーが大きいほど、また軽いイオンほど深く入り、結晶の通り道に入る(チャネリング)と、深くまで届くので、ウェハを少し傾けます。
イオンがぶつかった結晶は乱れ(損傷)、量が多いと非晶質になるため、あとで熱処理で直す必要があります。

次の講では、この傷んだ結晶を直し、不純物を働かせる熱処理(アニール)を、説明します。

ことばのおさらい

  • 射影飛程(Rp):イオンが止まる深さの平均です。
  • ΔRp(標準偏差):止まる深さの散らばりの幅です。
  • チャネリング:結晶の原子の列のすき間に沿って、イオンが深くまで届く現象です。
  • 損傷:イオンの衝突で、結晶の原子が弾き出されて乱れることです。
  • 非晶質(アモルファス):原子の規則正しい並びが失われた状態です。
  • マスク:注入しない場所を守る覆いです。

よくある誤解

Q. イオン注入の深さは、全部のイオンで同じになりますか?

いいえ。1個ずつ止まる深さが違い、平均の深さのまわりに、山の形に散らばります。

Q. 結晶を傷つけるので、イオン注入は使えないのですか?

いいえ。傷は、あとで熱処理で直せます。傷むことを前提に、熱処理とセットで使います。

参考にした公式情報

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