今回のテーマは、
「半導体チップの工程で、なぜ薄い膜を何度も重ねるのか」
答え:チップは、電気を通す膜と通さない膜を、順に重ねてできているからです。その膜をつくる工程が成膜で、材料を飛ばして付ける方法と、ガスの化学反応でつくる方法に、大きく分かれます。
この記事でわかること
- ① チップは膜の積み重ね
- ② 膜の4つの役目
- ③ 膜はどれほど薄いか
- ④ 成膜の大きな分け方(飛ばして付ける方法・ガスの反応でつくる方法)
- ⑤ 成膜に求められる条件
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① チップは、薄い膜の積み重ねでできている
大事なポイント:成膜とは、ウェハの上に、薄い膜を付ける工程です。チップは、この膜を何層も重ねてできています。
まず、言葉の確認です。ウェハとは、半導体チップの土台になる、シリコンの薄い円盤です。直径は最大300mm(約12インチ)のものが使われています。このウェハの上に、材料をごく薄く付けたものが膜です。膜を付ける工程を成膜といいます。
チップの中には、電気を通さない材料(絶縁体)、電気を少し通す材料(半導体)、電気をよく通す材料(導体)の層が重なっています。この層の1枚1枚が、成膜でつくる膜です。たとえば、建物に床や壁や配管があるように、チップにも「隔てる膜」と「電気の通り道になる膜」があります。
最新のチップでは、金属の配線の階が11以上あり、全体で300以上の工程を順に行う、と説明されています。成膜は、その途中で何度もくり返されます。つまり、成膜は半導体づくりの中で、とても出番の多い工程です。
確認クイズ:成膜とは、何をする工程でしょう?
答え:ウェハの上に、薄い膜を付ける工程です。
くわしく見る:ウェハ全面に付ける膜は、どれくらいの量か
直径300mmのウェハの面積を、円の面積の式で計算します。半径は150mmなので、
π × 1502 ≈ 3.14 × 22,500 ≈ 70,700 mm2 = 約707 cm2
ここに厚さ100nmの膜を付けます。100nm = 10−5 cm なので、膜の体積は
707 cm2 × 10−5 cm ≈ 7.1×10−3 cm3 = 約7 mm3
小さじ1杯(5mL = 5,000 mm3)の約700分の1です。広い面積に、ごく少ない量を、むらなく広げているのがわかります。
② 膜には、4つの役目がある
大事なポイント:膜の役目は、おもに「隔てる」「電気を通す」「スイッチ部分の絶縁」「金属の広がりを防ぐ」の4つです。
1つめは、隔てる膜です。電気を通さない絶縁膜は、配線どうしや、トランジスタ(電気を流したり止めたりするスイッチの部品)どうしを、電気的に分けます。昔から二酸化ケイ素(シリコンと酸素の化合物)などが使われてきました。なぜ必要か:隔てる膜がないと、となりあう配線どうしで電気が行き来して、回路がショートし、チップが動かなくなるからです。
2つめは、電気を通す膜です。チップの中の電気の通り道(配線)は、金属の膜でつくります。かつてはアルミニウムが、いまは銅が主役です。なぜ必要か:配線がないと、たくさんのトランジスタを回路としてつなげず、1つ1つの部品が役に立たないからです。また、上下の配線をつなぐ縦の柱(プラグ)にタングステンが使われ、これはCVDという方法で付けます。
3つめは、ゲート絶縁膜です。トランジスタのスイッチ部分(ゲート)の下に敷く、とても薄い絶縁膜です。なぜ必要か:ゲートの電圧でシリコンの中の電気の流れを操作するには、ゲートとシリコンのあいだを、電気が直接流れない状態にしておく必要があるからです。薄くしすぎると、電気がしみ出してしまうため(トンネル電流といいます)、いまは酸化ハフニウムのような、電気をためやすい材料に置きかえる工夫がされています。 ▶ 2級でくわしく
4つめは、バリア膜です。銅は、まわりの材料やシリコンの中へ広がると、部品の性能を悪くします。そこで、銅を窒化タンタルなどの膜で包んで、広がらないようにします。なぜ必要か:銅が広がると部品の性能が悪くなり、せっかくつくった配線が、チップを傷める原因になるからです。
つまり、4つの役目は、チップを「ショートさせず」「電気をつなぎ」「スイッチを動かし」「汚さない」ために、どれも欠かせません。
確認クイズ:銅の配線を、窒化タンタルなどのバリア膜で包むのは、何のためでしょう?
答え:銅が、まわりの材料へ広がって、部品の性能を悪くするのを防ぐためです。
③ 膜は、とても薄い(ナノメートルの世界)
大事なポイント:薄膜の厚さは、原子1層に満たない厚さから、数マイクロメートルまでです。作業時間は、「厚さ÷付く速さ」で見積もれます。
単位の確認です。1マイクロメートル(μm)は、1ミリメートルの1000分の1です。1ナノメートル(nm)は、1μmのさらに1000分の1です。つまり、1μm = 1000nmです。
薄膜は、「原子1層に満たない厚さ(1nmより薄い)から、数μmまで」の層をさします。チップの中の膜の多くは、数nmから数百nmです。髪の毛の太さは、約80μm(一般的な目安)なので、100nmの膜は、髪の毛の約800分の1の厚さになります。
膜を付ける時間は、厚さを付く速さで割れば、おおよそわかります。速さは、方法や条件で大きく変わります。
確認クイズ:1 μmは、何nmでしょう?
答え:1000nmです。
くわしく見る:時間を見積もる(ポリシリコンの例)
ポリシリコン(結晶の向きがそろっていないシリコン)を、600〜650℃で付ける方法では、1分間に10〜20nm付くとされています。200nmの膜に必要な時間は、
200 nm ÷ 20 nm/分 = 10分 〜 200 nm ÷ 10 nm/分 = 20分
です。速さがおよそ2倍ちがえば、時間もおよそ2倍ちがいます。この速さは、あくまでも1つの例です。別の膜や装置では、大きく変わります。
④ 成膜の大きな分け方:PVDとCVD(とALD)
大事なポイント:成膜は、材料を「物理的に運ぶ」PVDと、「化学反応でつくる」CVD、ALDに分かれます。
PVD(物理気相成長)は、固体の材料を蒸気(バラバラの原子)にして、ウェハの上で再び固体に戻す方法です。空気を抜いた真空の容器の中で行います。水蒸気が冷たいガラスに水滴として付くのと、似たイメージです。材料は、ほぼ一方向から飛んでくるため、膜は向きのそろった付き方になります。
CVD(化学気相成長)は、ガスどうしを反応させて、ウェハの表面で固体の膜をつくる方法です。原料のガス(前駆体)が、ウェハの表面で反応して分解し、膜になります。ガスは、表面に沿って広がるため、凹凸にも沿って膜が付きやすい特徴があります。反応でできる余分なもの(副生成物)は、ガスの流れで外へ運び出します。
反応させるガスは、1種類のことも、数種類のこともあります。たとえば、シリコンの膜は、シランというガス1種類を熱で分解してつくります(SiH4 → Si + 2H2)。二酸化ケイ素の膜は、シランと酸素の2種類を反応させてつくります。
反応すると固体の膜ができるのは、反応でできる物質のうち、膜になる物質(シリコンなど)が、その温度では気体にならず、固体のまま表面に残るからです。膜にならない物質(水素など)は気体のままなので、ガスの流れで外へ出ていきます。 ▶ 2級でくわしく
ALD(原子層堆積)は、CVDの仲間で、ガスを1種類ずつ入れて、原子の層を1枚ずつ重ねる方法です。とても薄く、均一な膜に向きます。これらのほかに、銅の配線の埋め込みには、電気を使った「めっき」も使われます。
確認クイズ:ガスを表面で反応させて、膜をつくる方法は、PVDとCVDのどちらでしょう?
答え:CVDです(PVDは、固体の材料を蒸気にして付ける方法です)。
⑤ 成膜に求められる5つの条件
大事なポイント:膜は、付けば良いわけではありません。厚さ、むら、付き方、きれいさ、温度の5つを満たす必要があります。
成膜の方法を選ぶとき、次の5つを見ます。
- 厚さ:狙いの厚さに、きちんと合わせます。
- 均一さ:ウェハの全面で、厚さが同じになるようにします。
- 付き回り:段差や、穴の側面や底にも、膜が付くようにします。
- 純度:余計な原子(不純物)が、少ない膜にします。
- 温度:すでに作ってある下の部品を、傷めない温度で付けます。
たとえば、PVDは低い温度でも付けられるのが利点です。一方、CVDは凹凸に沿って付きやすいのが利点です。ALDは最も薄く均一に付けられますが、時間がかかります。どれか1つが万能なのではなく、膜の目的に合わせて使い分けます。次の講から、方法ごとに順に見ていきます。
確認クイズ:すでに部品が入っているウェハに、膜を付けるとき、温度について何に気をつけるでしょう?
答え:下にある部品を傷めない温度で付けることです。
くわしく見る:「均一さ」を数字で見る
100nmを狙ったウェハで、場所によって±2%(プラスマイナス2パーセント)のばらつきがあるとします。
100 nm × 0.02 = 2 nm(→ 98nm〜102nm)
となります。10nmの膜で同じ2nmのずれがあれば、ずれの割合は20%にもなります。薄い膜ほど、同じ大きさのずれが、目立つのがわかります。
なお、「±○%」の数え方は会社や装置で少しずつ違うため、ここでの割合は、考え方をつかむための目安です。
安全のひとこと:成膜に使うシランなどのガスは、空気に触れると燃えたり、毒性があったりします。工場では、専用の設備と決まりで厳重に管理されます。取り扱いは、必ず職場の決まりとSDS(安全データシート)に従います。
この講のまとめ
チップは、絶縁する膜と電気を通す膜を重ねてできていて、その膜をつくる工程が成膜です。
膜の厚さは、原子1層に満たない厚さから数μmまでで、物理的に付けるPVD、化学反応でつくるCVD、1層ずつ重ねるALDに分かれます。
膜は、厚さ・均一さ・付き回り・純度・温度の5つを満たす必要があり、目的に合わせて方法を選びます。
次の講では、PVDのうち、真空蒸着とスパッタについて、どのように膜を付けるのかを見ていきます。
ことばのおさらい
- ウェハ:チップの土台になる、シリコンの薄い円盤です。
- 成膜:ウェハの上に、薄い膜を付ける工程です。
- PVD:固体の材料を蒸気にして、ウェハの上で固体に戻す方法です。
- CVD:ガスの化学反応で、ウェハの表面に固体の膜をつくる方法です。
- ALD:ガスを1種類ずつ入れて、原子の層を1枚ずつ重ねる方法です。
- バリア膜:銅などが、まわりへ広がるのを防ぐ膜です。
よくある誤解
Q. 成膜は、ペンキを塗るようなものですか?
似ている点もありますが、ちがいます。膜の厚さをnm単位で合わせ、ウェハ全面でむらなく付ける必要があります。
Q. 膜は、厚ければ厚いほど良いのですか?
いいえ。膜が厚すぎると、割れたり、時間がかかったりします。目的に合う厚さがあります。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Thin film」(薄膜の厚さの範囲、PVDとCVDの分類)
- Wikipedia「Semiconductor device fabrication」(成膜の役割、配線の階数、ウェハの直径、膜の種類)
- Wikipedia「Copper interconnects」(銅のバリア膜)
- Wikipedia「Chemical vapor deposition」(CVDのしくみ、ポリシリコンの成膜速度)
- Wikipedia「Physical vapor deposition」(PVDの定義)
- Wikipedia「Atomic layer deposition」(ALDの定義、酸化ハフニウム)
- Wikipedia「High-κ dielectric」(ゲート絶縁膜が薄いと電気がしみ出すこと)
髪の毛の太さ、小さじの量、単位の換算、図の層構成は、一般的な知識や記事用の簡易な目安です。図は、記事用に描いた簡易の図です。

