今回のテーマは、
「なぜ半導体に不純物を入れるのか。拡散とイオン注入は何が違うのか」
答え:シリコンは混ぜものがないと電気をあまり通さないため、リンやホウ素を少量入れて、電気の通り方を場所ごとに決めるためです。入れ方には、熱で広げる拡散と、イオンを打ち込む注入があります。
この記事でわかること
- ① シリコンはそのままでは電気を通しにくい
- ② リンとホウ素で電気の通り方を変える
- ③ どれくらい混ぜるのか
- ④ 入れ方は2つある
- ⑤ なぜ場所を選んで入れるのか
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① シリコンは、そのままでは電気をあまり通さない
大事なポイント:純粋なシリコンは、金属ほど電気を通さず、絶縁体ほど通さないという中間の性質をもちます。この性質をそのまま使うのではなく、あとから変えられるところが半導体の強みです。
ウェハは、ほとんどがシリコンという元素でできています。シリコンの結晶では、原子どうしが、外側にある4個の電子を出し合って手をつないでいます。電子はすべて結びつきに使われているため、電気を運べる自由な電子がほとんどありません。そのため、純粋なシリコンは、室温では電気を流しにくい物質です。
半導体という名前は、「導体(電気をよく通す)」と「絶縁体(通さない)」のあいだの性質をもつことに由来します。ただし、この中間という点は出発点にすぎません。大事なのは、ほんの少し別の元素を混ぜるだけで、電気の通りやすさを大きく変えられることです。この混ぜる操作をドーピングといい、混ぜる元素を不純物またはドーパントと呼びます。
ここでいう不純物は、「汚れ」という悪い意味ではありません。目的をもって、量と場所を決めて入れる材料です。逆に、意図せず入ってしまう金属などは、本講の対象ではありません。
よくある疑問:電気の通り道には、金属の配線を使います。それなのに、なぜ、わざわざシリコンに不純物を入れて、電気を「少しだけ」通す状態をつくるのでしょうか。理由は、配線とトランジスタで、役目が違うからです。金属の配線は、電気をいつも通す「道」です。一方、トランジスタは、電気を流したり止めたりする「スイッチ」です。金属はいつも電気を通してしまうので、スイッチにはなりません。シリコンなら、不純物の種類と量で、電気の通りやすさを選べます。この、通りやすさを選ぶ作業が、不純物を入れる工程です。そして、場所ごとに正確に入れる方法が、イオン注入です。
確認クイズ:純粋なシリコンが電気を流しにくいのは、なぜでしょう?
答え:自由に動ける電子がほとんどなく、外側の電子がすべて結びつきに使われているからです。
② リンとホウ素で、n型とp型をつくる
大事なポイント:リンを混ぜると電子が増えるn型に、ホウ素を混ぜると電子の抜けあと(正孔)が増えるp型になります。
シリコン原子の外側の電子は4個です。ここに、外側の電子が5個あるリン(P)が混ざると、結びつきに使われない電子が1個余ります。この電子は動き回れるので、電気を運びます。このように電子が主役になる半導体をn型といいます(nは「負」を意味する英語negativeの頭文字です)。リンのように電子を差し出す不純物をドナーと呼びます。
反対に、外側の電子が3個のホウ素(B)が混ざると、結びつきに電子が1個足りない場所ができます。この電子の抜けあとを正孔(ホール)といいます。となりの電子が正孔へ移ると、正孔が反対向きに動くように見えるため、正孔は+の電気を運ぶ粒として働きます。正孔が主役の半導体をp型(positiveの頭文字)といい、ホウ素のように電子を受け取る不純物をアクセプタと呼びます。
シリコン向けの代表的な不純物として、ホウ素はp型、リンとヒ素はn型に使われる、と覚えておけば十分です。
ここで、なぜ2種類をつくり分けたいのかを説明します。トランジスタやダイオードは、n型とp型を隣り合わせにすることで、電気を一方向にだけ流したり、電気のオンとオフを切り替えたりします。片方の型しかなければ、ただの抵抗になってしまい、スイッチとしては働きません。電気を一方向に流す仕組みなど、半導体の電気の流れ方は、デバイス基礎3級の講座で順に学べます。ここでは「2種類が必要」とだけ覚えておけば、先へ進めます。
確認クイズ:外側の電子が3個で、正孔を増やす不純物は、リンとホウ素のどちらでしょう?
答え:ホウ素です。p型になります。
③ どれくらい入れるのか:ごく少量で十分
大事なポイント:混ぜる量は、シリコン原子に対して、ごく少ない割合です。一例として、5,000万個に1個ほどから、500個に1個ほどまでの範囲があります。
シリコンの結晶1立方センチメートルには、およそ5×1022個の原子があります。これに対して、不純物の濃さは、1立方センチメートルあたり1015個から1020個ほどの範囲が、一例としてよく使われます。幅が大きいのは、役目によって必要な濃さが違うからです。
たとえば、1立方センチメートルあたり1017個の不純物を入れた場合、シリコン原子およそ50万個に対して不純物が1個という割合になります。それだけでも、電気の通りやすさは、純粋なシリコンとは大きく変わります。ごく少量で性質が大きく変わるので、入れる量を正確に決めることが、半導体づくりの腕の見せどころになります。
濃さの単位「個/cm3」は、後の講でも使います。1 cm3は、1辺1cmの立方体の体積です。
確認クイズ:不純物の量を、正確に決めることが大事なのは、なぜでしょう?
答え:ごく少量でも電気の通りやすさが大きく変わるからです。
くわしく見る:割合の計算
シリコン原子の数を5×1022個/cm3、不純物を1017個/cm3とします。シリコン原子の数を不純物の数で割ると、
(5×1022) ÷ 1017 = 5×105 = 50万
したがって、シリコン原子50万個に不純物1個です。これは、100万個あたり約2個(2 ppm)にあたります。
この計算は、理解のための例です。原子の数の値は一般的な目安です。
④ 入れ方は2つ:熱拡散とイオン注入
大事なポイント:熱拡散は、高温で表面から不純物をしみこませる方法、イオン注入は、不純物をイオンにして電気の力で打ち込む方法です。
1つ目の熱拡散は、高温の炉の中で、不純物を含むガスなどをウェハの表面にふれさせ、不純物が結晶の中へ広がるのを待つ方法です。コーヒーに入れた砂糖が、かき混ぜなくても少しずつ広がるのと似ています。拡散は、濃い所から薄い所へ広がる現象なので、表面がいちばん濃く、深くなるほど薄くなる分布になります。
2つ目のイオン注入は、不純物の原子を、電気を帯びた粒(イオン)にして、電圧で加速し、ウェハへ打ち込む方法です。深さはイオンのエネルギーで、量は打ち込んだイオンの数で決まります。そのため、図のように、表面より少し深い所に濃い部分をつくることができます。
現在の量産では、量と深さを正確に決めやすいイオン注入が広く使われています(シリコンの不純物の入れ方として、イオン注入のほうが大規模な生産で一般的だと、資料にも書かれています)。ただし、打ち込むと結晶が傷つき、不純物もまだ働かない状態になるため、あとで熱をかけて直す工程が必要です。それが第4講で学ぶ、熱処理(アニール)です。
確認クイズ:表面がいちばん濃く、深くなるほど薄い分布になるのは、熱拡散とイオン注入のどちらでしょう?
答え:熱拡散です。
⑤ なぜ、場所を選んで入れるのか
大事なポイント:n型の領域とp型の領域を、必要な場所だけにつくるために、レジストなどで覆って、むき出しの所にだけ入れます。
半導体の回路では、同じウェハの上に、n型の部分とp型の部分を、細かく並べてつくります。そこで、不純物を入れたくない所を、マスク(覆い)で守ります。マスクには、これまでの講座で学んだレジストのほか、酸化膜などが使われます。
イオン注入では、レジストのマスクを使い、むき出しの所にだけイオンが入ります。このとき、イオンは、マスクの厚みで止められます。マスクが十分に厚いことが、前提です。
n型とp型が接する面をpn接合といいます。ダイオードやトランジスタの基本になる部分で、入れる深さと濃さで、性能が変わります。次の講から、イオン注入の仕組みを、順に説明します。
確認クイズ:入れたくない場所を守る覆いのことを、何というでしょう?
答え:マスクです。レジストや酸化膜などが使われます。
安全のひとこと:不純物を入れる工程では、ヒ素、リン、ホウ素を含むガスや固体を使うことがあり、毒性や可燃性をもつものがあります。また、高い電圧や高温の装置も使います。工場や実習では、専用の設備と決まりで管理されます。取り扱いは、必ず職場の決まりとSDS(安全データシート)に従います。
この講のまとめ
シリコンは、そのままでは電気を通しにくく、リンやホウ素をごく少量入れて、n型とp型をつくり分けます。
不純物の入れ方には、熱で広げる拡散と、イオンを打ち込む注入があり、現在はイオン注入が広く使われます。
入れる場所はマスクで選び、n型とp型が接する面(pn接合)が、ダイオードやトランジスタの基本になります。
次の講では、イオン注入の装置が、どのようにイオンをつくり、選び、加速し、ウェハへ届けるのかを説明します。
ことばのおさらい
- ドーピング:不純物を意図して少量入れ、電気の通りやすさを変えることです。
- ドーパント:ドーピングで入れる不純物の元素です。
- n型・p型:電子が主役の半導体をn型、正孔が主役の半導体をp型といいます。
- 正孔(ホール):電子が抜けたあとの空き。+の電気を運ぶ粒として働きます。
- 熱拡散:高温で、不純物を表面から結晶の中へ広げる方法です。
- イオン注入:不純物をイオンにして加速し、ウェハへ打ち込む方法です。
- pn接合:p型とn型が接する面です。
よくある誤解
Q. 不純物を入れると、半導体の質が悪くなるのですか?
いいえ。ここでの不純物は、目的をもって量と場所を決めて入れる材料です。意図せず混ざる汚れとは、区別して考えます。
Q. 不純物は、たくさん入れるほどよいですか?
いいえ。濃さは役目によって決まり、濃すぎても性能が悪くなることがあります。入れる量を正確に決めることが大切です。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Doping (semiconductor)」(ドーピングの定義、ドナーとアクセプタ、濃さの目安、入れ方の種類。実際に読んだ)
- Wikipedia「Ion implantation」(イオン注入の概要、エネルギーの範囲。実際に読んだ)

