今回のテーマは、
「半導体の回路の細かい形は、どうやってウェハの上につくるのか」
答え:光で形を写し取ります(露光)。マスク(回路の形が描かれた原版)の形を、レジストという感光する膜に光で写し、その形を型にして下の層を加工します。この1サイクルを、ウェハ1枚に何度もくり返します。
この記事でわかること
- ① 回路は層の重なり
- ② 露光の1サイクル(7手順)
- ③ マスク(原版)
- ④ 光の利点とポジ型・ネガ型
- ⑤ どれだけ細かく写せるか
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① 回路は、形の違う層を重ねてつくる
大事なポイント:半導体の回路は、形の違う層を重ねてできていて、各層の「形」をつくる工程が露光です。
半導体チップは、ウェハ(シリコンでできた、薄い円盤)の上につくります。ウェハの上にトランジスタや配線をつくるには、まず、膜を付けます。次に、いらない部分を削ったり(エッチング)、不純物を打ち込んだり(イオン注入)して、形をつくります。このとき、「どこを削るか、どこを守るか」を決める型が必要です。その型を、光でつくる工程が、露光(フォトリソグラフィ、略してリソグラフィ)です。
先ほど出てきた2つの用語について、説明します。まず、エッチングは、薬品やガスで、むき出しの部分を削る工程です。次に、イオン注入は、不純物の原子を加速して、ウェハに打ち込む工程です。どちらも、レジストで覆われた部分には届きません。このため、レジストは、下の層を守る壁の役目をします。
回路は、1回で完成しません。形の違う層を、下から順に重ねます。そのたびに、型をつくり直します。複雑なICでは、露光を含む1サイクルを、最大で50回ほどくり返すことがあるとされます。このように、露光は、チップづくりの中で何度も登場する、中心的な工程です。
たとえば、建物をつくるとき、階ごとに、間取りの図面が必要になります。ウェハの上でも、層ごとに図面(型)が必要で、露光は、その図面を、層ごとにウェハへ写す作業にあたります。
層を重ねるとき、上の層は下の層と、ぴったり位置を合わせる必要があります。 ▶ 2級でくわしく
確認クイズ:露光(リソグラフィ)は、何のための工程でしょう?
答え:削る場所や守る場所を決める「型」を、光でつくるための工程です。
くわしく見る:1サイクルあたりの手順数を、数で見る
次の節で見る手順は7つです。50サイクルをくり返すとすると、手順の数は次のとおりです。
7 × 50 = 350(回)
この数は、あくまで目安です。実際の手順の数は、工程や層によって変わります。それでも、同じような手順を何百回も重ねることで、1枚のウェハの回路ができあがると考えられます。
② 露光の1サイクルは、7つの手順
大事なポイント:露光は単独の作業ではなく、前処理から除去までの一連の流れの、真ん中にあります。
露光の1サイクルは、次の順に進みます。
- 前処理:ウェハを洗い、水分を飛ばして、レジストがつきやすい状態にします。
- レジスト塗布:光で性質が変わる膜(フォトレジスト、略してレジスト)を、ウェハ全面に薄く塗ります。
- ベーク:熱で、膜を安定させます。
- 露光:マスクを通した光を、レジストに当てます。
- 現像:液体(現像液)で、溶ける所を洗い流し、形を浮かび上がらせます。
- エッチングかイオン注入:残ったレジストを型にして、下の層を削ったり、不純物を入れたりします。
- レジスト除去:役目を終えたレジストを、薬液や酸素のプラズマで取り除きます。
6のエッチングやイオン注入は、別のコースで学びます。このコースでは、1〜5を中心に、5回の講で順に学びます。
ここで大切なのは、露光が単独の作業ではないことです。レジストの塗り方が不十分だと、どれだけ良い光を当てても、形はきれいに写りません。逆に、露光が上手でも、現像が不十分だと、形が崩れます。各手順は、前後の手順に支えられています。
確認クイズ:エッチングやイオン注入の直前にある手順は、何でしょう?
答え:現像です(レジストの形を浮かび上がらせてから、削ったり注入したりします)。
くわしく見る:手順の順番を入れ替えると、どうなるか
たとえば、現像の前にエッチングをしたらどうなるでしょう。レジストには、まだ形が浮かび上がっていません。守る所と削る所が決まっていないので、狙った形になりません。このように、手順の順番には、それぞれ理由があります。
この手順は、一般的な流れを示したものです。実際には、露光の後に加熱する「露光後ベーク」が入るなど、ふえることがあります(第3講で学びます)。
③ マスクは、光を通す所と止める所を決める原版
大事なポイント:マスクは、回路の形が描かれた透明な板です。通った光だけが、ウェハに届きます。
マスクは、写真でいうフィルムのような、形の原版です。つくりは、透明な石英ガラスの板の上に、クロムなどの光を止める膜で形を描いたものです。膜のある所では光が止まり、ない所では光が通ります。半導体の工場では、マスクをレチクルと呼ぶこともあります。
マスクの形は、そのままの大きさではウェハに写しません。多くの装置は、レンズで4〜5倍に縮めて投影します。たとえば、マスク上の100nmの形は、ウェハ上では25nmになります。nm(ナノメートル)は、1mの10億分の1の長さです。縮めて写すので、マスクの形は、実際のチップより大きく描けて、つくりやすくなります(この理由は、一般的な説明です)。
マスクの形は、ウェハ上のすべてのチップに写ります。マスクにゴミや傷があると、その欠けた形が、すべてのチップに写ってしまいます。そのため、マスクは、きれいに保つ必要があります(一般的な説明です)。また、マスクは、層ごとに別のものを使います。第1層には第1層用のマスク、第2層には第2層用のマスク、という具合です。
確認クイズ:縮小比が4倍のとき、マスク上の100nmの形は、ウェハ上で何nmになるでしょう?
答え:25nmです(100 ÷ 4 = 25)。
くわしく見る:縮小比から、長さと面積を計算する
ウェハ上の長さは、マスク上の長さを縮小比で割って求めます。
ウェハ上の長さ = マスク上の長さ ÷ 縮小比
逆に、ウェハ上に16nmの線をつくりたいときは、マスク上では 16 × 4 = 64nm の線が必要です。
面積で考えます。マスク上で100mm四方の領域は、4倍縮小でウェハ上では25mm四方になります。面積は、10,000mm² から 625mm² になり、625 ÷ 10,000 = 1/16 です。長さが1/4になると、面積は1/16になります。
縮小比が4倍か5倍かは、装置によって異なります。ここでは4倍の例で計算しました。
④ 光で写す利点と、ポジ型・ネガ型
大事なポイント:光を使うと、ウェハ全面の形を一度に写せます。レジストには、ポジ型とネガ型があります。
光を使った露光の利点は、ウェハ全面にまたがる形を、1つのステップで写せることです。1つずつ線を描くのではなく、マスクを通した光で、まとめて写します。ただし、実際の装置は、1回に写せる範囲を、ウェハの上で順にずらしながら露光するのが一般的です(一般的な説明です)。 ▶ 2級でくわしく
次に、レジストの種類です。光が当たった所の変わり方で、2つに分かれます。
- ポジ型:光が当たった所が、現像液に溶けるようになります。現像後は、光が当たらなかった所が残ります。最も一般的な種類とされます。
- ネガ型:光が当たった所が、現像液に溶けなくなります。現像後は、光が当たった所が残ります。
同じマスクを使っても、ポジ型とネガ型では、残る形が逆になります。写真の「ポジ(ふつうの写真)」と「ネガ(フィルム)」に近い関係です。レジストの中身は、第2講で説明します。
ポジ型とネガ型のどちらを使っても、露光の流れは同じです。違いは、現像で、どの部分が溶けるかだけです。どちらを選ぶかは、つくりたい形や、レジストの性質で決まります。
確認クイズ:ポジ型のレジストで、光が当たった部分は、現像後にどうなるでしょう?
答え:現像液に溶けて、なくなります。
くわしく見る:一つずつ描く場合との手間のちがい(仮の数字)
仮に、素子1億個を、1個ずつ描くとします。1個に1ミリ秒(1/1000秒)かかるとすると、
108 × 10−3 秒 = 105 秒 ≈ 27.8 時間(105 ÷ 3,600)
です。光でまとめて写せば、この時間を大きく減らせます。ただし、これは考え方を示すための仮の数字です。実際の装置の速さや、描画方式の速さを表したものではありません。
⑤ 露光の腕の見せどころは、どれだけ細かく写せるか
大事なポイント:光の波長を短くすると、細かい形を写しやすくなります。露光の歴史は、波長を短くしてきた歴史です。
回路を細かくしたいと思ったら、露光では、まず光の波長を見直してきました。波長は、光の波の、山から山までの長さです。ふつう、nmで表します。これまでに、次の光が使われてきました。
- 水銀ランプの光:g線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)。g、h、iは、水銀ランプの光の線につけられた名前です。
- エキシマレーザーの光:KrF(248nm)、ArF(193nm)。紫外線を出すレーザーの一種で、KrFとArFは、中に入れるガスの組み合わせの名前です(この説明は一般的なものです)。
- EUV(極端紫外光):13.5nm
波長が短いほど、細かい形を写しやすくなります。ただし、波長だけで決まるわけではありません。レンズの性能や、レジストの性質にも左右されます。これらは第4講以降で、順に学びます。第2講から第3講でレジストとその前後の手順、第4講で光学系、第5講でEUVを扱います。
写真のピントが合っていないと、細かい文字は読めません。露光でも、光が広がってぼやけると、細かい形は写せません。波長を短くすると、ぼやけの原因になる光の広がりを、小さくできます(くわしい理由は第4講で学びます)。なお、g線は紫に近い、目に見える光ですが、i線以降は、人の目には見えない紫外線の仲間です(一般的な説明です)。
確認クイズ:次の光のうち、波長が最も短いものはどれでしょう?(g線、KrF、ArF、EUV)
答え:EUV(13.5nm)です。
くわしく見る:波長の差を、倍率で見る
g線(436nm)とEUV(13.5nm)を比べます。
436 ÷ 13.5 ≈ 32.3(倍)
g線の波長は、EUVの約32倍です。ArF(193nm)とEUVでは、
193 ÷ 13.5 ≈ 14.3(倍)
です。この倍率は、波長の比です。写せる最小の大きさが、そのまま同じ倍率になるわけではありません(第4講で学びます)。
この講のまとめ
露光は、マスクの形を光でレジストに写し、削る場所や守る場所の「型」をつくる工程です。
1サイクルは、前処理、塗布、ベーク、露光、現像、エッチングか注入、除去の流れで、ウェハ1枚に何度もくり返します。
光の波長を短くするほど、細かい形を写しやすく、歴史的にg線からEUVへと短くしてきました。
次の講では、型の材料である「フォトレジスト」が、光でどのように変わるのかを学びます。
ことばのおさらい
- ウェハ:シリコンなどでできた、薄い円盤です。この上に回路をつくります。
- 露光(リソグラフィ):マスクを通した光で、形をレジストに写す工程です。
- フォトレジスト(レジスト):光で、現像液への溶けやすさが変わる膜です。
- 現像:液体で、溶ける部分を洗い流し、形を浮かび上がらせる手順です。
- マスク(レチクル):回路の形が描かれた、透明な板の原版です。
- 波長:光の波の、山から山までの長さです。nmで表します。
よくある誤解
Q. 露光は、ウェハに回路をそのまま描く工程ですか?
いいえ。露光でつくるのは、エッチングやイオン注入のための「型」(レジストの形)です。回路そのものは、そのあとの工程でできます。
Q. マスクの形は、ウェハ上で同じ大きさになりますか?
いいえ。多くの装置は、4〜5倍に縮めて写します。マスク上の形は、ウェハ上より大きく描かれています。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Photolithography」(露光サイクルの手順、50回のくり返し、ポジ型とネガ型、波長の一覧)
- Wikipedia「Photomask」(マスクの材料、縮小比、レチクルの呼び名)
縮小比4倍の例、nmの説明、層の図、手順の7つへの整理は、一般的な知識や、記事用に描いた簡易の図です(「縮めるとつくりやすい」という理由も一般的な説明です)。実際の手順や層の数は、工程によって異なります。

