今回のテーマは、
「イオン注入装置は、どのようにイオンをつくり、選び、速くして、ウェハへ打ち込むのか」
答え:ガスをイオンにして取り出し、磁石で目的のイオンだけを選び、電圧で加速して、ウェハ全体に当てます。深さはエネルギーで、量はドーズ量で決めます。
この記事でわかること
- ① 装置の全体の流れ
- ② イオンをつくる(イオン源)
- ③ 磁石で選ぶ(質量分離)
- ④ 加速して、全体に当てる(走査)
- ⑤ ドーズ量とエネルギー
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① イオン注入装置は、5つの部分でできている
大事なポイント:イオン源でイオンをつくり、磁石で選び、加速し、走査してウェハに当てます。どの部分が欠けても、狙いどおりには入りません。
イオン注入の装置は、大きく5つの部分に分けて考えると分かりやすくなります。それぞれに、「なぜ必要か」があります。
- イオン源:不純物の原子をイオンにします。電気を帯びていないと、電圧で動かせないからです。
- 質量分離:つくったイオンから、目的の1種類だけを選びます。ほかの粒が混ざると、意図しない元素が入ってしまうからです。
- 加速:電圧でイオンを速くします。エネルギーが足りないと、浅い所で止まってしまうからです。
- 走査:細いイオンのビームを、ウェハ全体に動かして当てます。ビームは細く、ウェハは広いので、動かさないと一部にしか当たらないからです。
- ウェハ:最後に、イオンが打ち込まれる場所です。
装置全体は、空気を抜いた真空の中にあります。空気の分子があると、イオンがぶつかって、進む向きや速さが変わってしまうからです。
確認クイズ:細いビームを、ウェハ全体に動かして当てる部分を、何というでしょう?
答え:走査です。
② イオン源:ガスから、イオンをつくる
大事なポイント:不純物を含むガスなどに電子をぶつけて、+のイオンにし、電圧で外へ引き出します。
イオン源では、不純物を含む物質を、イオンにします。よく使われる材料には、ホウ素用の三フッ化ホウ素(BF3)、リン用のホスフィン(PH3)、ヒ素用のアルシン(AsH3)といったガスがあります。固体の材料を熱して使う方式もあります。ガスは、流量を調整しやすく、装置へ送りやすい利点があります。
イオンをつくる方法は、次のとおりです。まず、装置の中で、電子を飛ばして、気体の分子や原子にぶつけます。ぶつかった衝撃で、原子から電子が弾き飛ばされると、電子を失った原子は、+の電気を帯びたイオンになります。こうして、気体の一部がイオンと電子に分かれた状態(プラズマ)ができます。
イオンは、電気を帯びているので、電圧をかけると、その向きに動きます。そこで、イオン源の出口に電圧をかけ、イオンを外へ引き出して、ビームにします。ただし、この時点では、さまざまな種類のイオンが混ざっています。たとえば、BF3からは、ホウ素のイオンだけでなく、フッ素を含むイオンなども一緒にできます。
確認クイズ:イオン源で、気体の原子を+のイオンにするため、何をぶつけるのでしょう?
答え:電子です。
③ 質量分離:磁石で、目的のイオンだけを選ぶ
大事なポイント:磁石の中では、イオンの質量などで曲がり方が変わります。そのため、すきまを通れるイオンだけを選べます。
イオンが磁石の中を通ると、進む向きが曲がります。曲がり方は、イオンの質量と電気の量、速さ、磁石の強さで決まります。同じ速さで同じ電気の量なら、軽いイオンほど大きく曲がり、重いイオンは曲がりが小さくなります。
そこで、磁石の出口に、すきま(スリット)を置きます。磁石の強さを調整すると、狙ったイオンだけがすきまを通り、軽すぎるイオンも重すぎるイオンも、板に当たって止まります。これが質量分離です。
たとえば、ホウ素は、自然の状態で、質量が少し違う2種類(ホウ素10と、ホウ素11)が、およそ2割と8割で混ざっています。質量分離を使うと、これらを区別して選べます。実際の工程では、狙った元素のイオンだけを選ぶことで、意図しない元素が入るのを防ぎます。
確認クイズ:質量分離で、軽すぎるイオンや重すぎるイオンは、どうなるのでしょう?
答え:すきまを通れず、板に当たって止まります。
④ 加速と走査:速くして、全体へ当てる
大事なポイント:電圧で加速するほど、イオンのエネルギーは大きくなり、深くまで入ります。ビームは細いので、動かして全体へ当てます。
イオンは、電圧で加速されます。+1価(電気が1つ分)のイオンが、50キロボルト(50 kV)の電圧で加速されると、50キロ電子ボルト(50 keV)のエネルギーをもちます。電子ボルトは、イオンなどのエネルギーを表す単位で、「1価のイオンが、1ボルトで加速されたとき」が1電子ボルトです。
イオン注入のエネルギーは、一般に、数keVから数百keV、さらに大きいMeV(100万電子ボルト)の装置まで、広い範囲があります。浅く入れたいときは小さく、深く入れたいときは大きくします。
もう1つの課題は、全体へ均一に当てることです。ビームの断面は、ウェハ全体に比べて、とても小さくなります。そこで、ビームを電気の力や磁石で左右に振り、ウェハを機械で上下に動かす、といった方法を組み合わせて、全面に当てます。当たりむらがあると、場所によって不純物の量が変わり、回路の性能がばらつきます。
確認クイズ:50 kVの電圧で加速された、+1価のイオンのエネルギーは、いくらでしょう?
答え:50 keVです。
くわしく見る:エネルギーと電圧の関係
イオンのエネルギーは、「電気の価数 × 電圧」で求めます。+1価のイオンなら、価数は1なので、
1 × 50 kV = 50 keV
です。+2価のイオンの場合は、同じ電圧でも価数が2なので、
2 × 50 kV = 100 keV
となります。このため、2価のイオンを使うと、同じ電圧で、2倍のエネルギーが得られます。この式は、一般的な物理の関係です。
⑤ ドーズ量とエネルギー:2つのつまみで決める
大事なポイント:入れる量は「ドーズ量」、入る深さは「エネルギー」で決めます。この2つが、注入の基本の設定です。
ドーズ量は、ウェハの1平方センチメートルあたりに打ち込んだイオンの数で、単位は「個/cm2」です。たとえば、1015 個/cm2 のように書きます。1回の注入で入れる量の目安で、深さごとの濃さ(個/cm3)とは、別のものです。
ドーズ量は、ビームの電流を測って決めます。イオンは電気を帯びているので、流れた電気の量(電流 × 時間)を、1個あたりの電気の量で割れば、打ち込んだイオンの数が分かります。装置は、電気の量を測りながら、決めた数に達したら、注入を止めます。
このように、量はドーズ量、深さはエネルギーで決めます。深さが同じで量を変えたいときは、ドーズ量だけを変え、量が同じで深さを変えたいときは、エネルギーだけを変えます。2つを独立に調整できることが、イオン注入の大きな利点です。
確認クイズ:入る深さを決める設定は、ドーズ量とエネルギーのどちらでしょう?
答え:エネルギーです。
くわしく見る:ドーズ量から、注入時間を計算する
直径300 mmのウェハの面積は、半径15 cmなので、
3.14 × 152 ≒ 707 cm2
ドーズ量が1015 個/cm2のとき、必要なイオンの総数は、
1015 × 707 ≒ 7.07 × 1017 個
+1価のイオン1個の電気の量は、1.602 × 10−19 C(クーロン)です。総量は、
7.07 × 1017 × 1.602 × 10−19 ≒ 0.113 C
ビーム電流が1 mA(0.001 A)なら、電流 = 電気の量 ÷ 時間 より、時間は、
0.113 ÷ 0.001 ≒ 113 秒(約1.9分)
検算として、電流を2 mAにすると、時間は半分の約57秒です。この計算は、理解のための仮の値です。実際の装置の電流や、ビームの当たり方で、時間は変わります。
安全のひとこと:イオン注入装置では、毒性のあるガス(ヒ素、リン、ホウ素の化合物など)、数十kVから数百kV以上の高電圧、そして運転中に発生しうるX線に注意が必要です。装置は、専用の遮蔽と安全装置で管理され、立ち入りや保守にも決まりがあります。取り扱いは、必ず職場の決まりとSDS(安全データシート)に従います。
この講のまとめ
イオン注入装置は、イオン源、質量分離、加速、走査の順にイオンを整えて、ウェハへ当てます。
磁石の質量分離で目的のイオンだけを選び、電圧で加速して、エネルギーを決めます。
入れる量はドーズ量(個/cm2)、入る深さはエネルギー(keV)で決まり、2つを独立に調整できます。
次の講では、打ち込まれたイオンが、ウェハの中でどのように止まり、どんな分布になるのか、そして結晶にどんな傷が残るのかを説明します。
ことばのおさらい
- イオン源:不純物をイオンにして、ビームとして引き出す部分です。
- 質量分離:磁石で、目的のイオンだけを選ぶことです。
- keV(キロ電子ボルト):イオンのエネルギーの単位です。1 keVは、1,000電子ボルトです。
- 走査:ビームやウェハを動かして、全面に当てることです。
- ドーズ量:1 cm2あたりに打ち込んだイオンの数(個/cm2)です。
- ビーム電流:イオンのビームが運ぶ電流です。ドーズ量を測るために使います。
よくある誤解
Q. イオン源でつくったイオンは、そのままウェハへ当てるのですか?
いいえ。いろいろな種類のイオンが混ざっているので、磁石で目的の1種類だけを選んでから、加速して当てます。
Q. ドーズ量が同じなら、深さも同じですか?
いいえ。ドーズ量は量で、深さはエネルギーで決まります。同じドーズ量でも、エネルギーが違えば、入る深さは変わります。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Ion implantation」(装置の構成、質量分離の磁石、エネルギーの範囲。実際に読んだ)
- Wikipedia「Doping (semiconductor)」(不純物の種類。実際に読んだ)
