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イオン注入装置の仕組みとは?イオン源・質量分離・加速・ドーズ量をわかりやすく解説【イオン注入・熱処理3級・第2講】

SEMICON CAMPUS 無料講座イオン注入・熱処理コース3級 入門 ・ 第2講
イオンが進む順(左から右へ)イオン源ガスをイオンにする質量分離磁石で1種類を選ぶ加速電圧で速くする走査ウェハ全体に当てるウェハ打ち込まれる装置全体は、空気を抜いた真空の中にあります装置によって、加速と質量分離の順番が前後することがあります
簡易のブロック図です。実際の装置は、もっと多くの部品でできています。

今回のテーマは、

「イオン注入装置は、どのようにイオンをつくり、選び、速くして、ウェハへ打ち込むのか」

答え:ガスをイオンにして取り出し、磁石で目的のイオンだけを選び、電圧で加速して、ウェハ全体に当てます。深さはエネルギーで、量はドーズ量で決めます。

黄色のマーカー = この講座のテストに出す重要ポイント

この記事でわかること

  • ① 装置の全体の流れ
  • ② イオンをつくる(イオン源)
  • ③ 磁石で選ぶ(質量分離)
  • ④ 加速して、全体に当てる(走査)
  • ⑤ ドーズ量とエネルギー

※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。

① イオン注入装置は、5つの部分でできている

大事なポイント:イオン源でイオンをつくり、磁石で選び、加速し、走査してウェハに当てます。どの部分が欠けても、狙いどおりには入りません。

イオン注入の装置は、大きく5つの部分に分けて考えると分かりやすくなります。それぞれに、「なぜ必要か」があります。

  1. イオン源:不純物の原子をイオンにします。電気を帯びていないと、電圧で動かせないからです。
  2. 質量分離:つくったイオンから、目的の1種類だけを選びます。ほかの粒が混ざると、意図しない元素が入ってしまうからです。
  3. 加速:電圧でイオンを速くします。エネルギーが足りないと、浅い所で止まってしまうからです。
  4. 走査:細いイオンのビームを、ウェハ全体に動かして当てます。ビームは細く、ウェハは広いので、動かさないと一部にしか当たらないからです。
  5. ウェハ:最後に、イオンが打ち込まれる場所です。

装置全体は、空気を抜いた真空の中にあります。空気の分子があると、イオンがぶつかって、進む向きや速さが変わってしまうからです。

確認クイズ:細いビームを、ウェハ全体に動かして当てる部分を、何というでしょう?

答え:走査です。

② イオン源:ガスから、イオンをつくる

大事なポイント:不純物を含むガスなどに電子をぶつけて、+のイオンにし、電圧で外へ引き出します。

イオン源では、不純物を含む物質を、イオンにします。よく使われる材料には、ホウ素用の三フッ化ホウ素(BF3)、リン用のホスフィン(PH3)、ヒ素用のアルシン(AsH3)といったガスがあります。固体の材料を熱して使う方式もあります。ガスは、流量を調整しやすく、装置へ送りやすい利点があります。

イオンをつくる方法は、次のとおりです。まず、装置の中で、電子を飛ばして、気体の分子や原子にぶつけます。ぶつかった衝撃で、原子から電子が弾き飛ばされると、電子を失った原子は、+の電気を帯びたイオンになります。こうして、気体の一部がイオンと電子に分かれた状態(プラズマ)ができます。

イオンは、電気を帯びているので、電圧をかけると、その向きに動きます。そこで、イオン源の出口に電圧をかけ、イオンを外へ引き出して、ビームにします。ただし、この時点では、さまざまな種類のイオンが混ざっています。たとえば、BF3からは、ホウ素のイオンだけでなく、フッ素を含むイオンなども一緒にできます。

確認クイズ:イオン源で、気体の原子を+のイオンにするため、何をぶつけるのでしょう?

答え:電子です。

③ 質量分離:磁石で、目的のイオンだけを選ぶ

大事なポイント:磁石の中では、イオンの質量などで曲がり方が変わります。そのため、すきまを通れるイオンだけを選べます。

向き:左から右へ飛ぶイオンが、磁石の中で曲がる磁石(磁場)すきま(スリット)イオン源軽すぎる:曲がりすぎる選ばれた1種類重すぎる:曲がらず板に当たる
質量と電気の量で曲がり方が決まります。図の曲がり方は、模式的に描いたものです。

イオンが磁石の中を通ると、進む向きが曲がります。曲がり方は、イオンの質量と電気の量、速さ、磁石の強さで決まります。同じ速さで同じ電気の量なら、軽いイオンほど大きく曲がり、重いイオンは曲がりが小さくなります。

そこで、磁石の出口に、すきま(スリット)を置きます。磁石の強さを調整すると、狙ったイオンだけがすきまを通り、軽すぎるイオンも重すぎるイオンも、板に当たって止まります。これが質量分離です。

たとえば、ホウ素は、自然の状態で、質量が少し違う2種類(ホウ素10と、ホウ素11)が、およそ2割と8割で混ざっています。質量分離を使うと、これらを区別して選べます。実際の工程では、狙った元素のイオンだけを選ぶことで、意図しない元素が入るのを防ぎます。

確認クイズ:質量分離で、軽すぎるイオンや重すぎるイオンは、どうなるのでしょう?

答え:すきまを通れず、板に当たって止まります。

④ 加速と走査:速くして、全体へ当てる

大事なポイント:電圧で加速するほど、イオンのエネルギーは大きくなり、深くまで入ります。ビームは細いので、動かして全体へ当てます。

イオンは、電圧で加速されます。+1価(電気が1つ分)のイオンが、50キロボルト(50 kV)の電圧で加速されると、50キロ電子ボルト(50 keV)のエネルギーをもちます。電子ボルトは、イオンなどのエネルギーを表す単位で、「1価のイオンが、1ボルトで加速されたとき」が1電子ボルトです。

イオン注入のエネルギーは、一般に、数keVから数百keV、さらに大きいMeV(100万電子ボルト)の装置まで、広い範囲があります。浅く入れたいときは小さく、深く入れたいときは大きくします。

もう1つの課題は、全体へ均一に当てることです。ビームの断面は、ウェハ全体に比べて、とても小さくなります。そこで、ビームを電気の力や磁石で左右に振り、ウェハを機械で上下に動かす、といった方法を組み合わせて、全面に当てます。当たりむらがあると、場所によって不純物の量が変わり、回路の性能がばらつきます。

確認クイズ:50 kVの電圧で加速された、+1価のイオンのエネルギーは、いくらでしょう?

答え:50 keVです。

くわしく見る:エネルギーと電圧の関係

イオンのエネルギーは、「電気の価数 × 電圧」で求めます。+1価のイオンなら、価数は1なので、

1 × 50 kV = 50 keV

です。+2価のイオンの場合は、同じ電圧でも価数が2なので、

2 × 50 kV = 100 keV

となります。このため、2価のイオンを使うと、同じ電圧で、2倍のエネルギーが得られます。この式は、一般的な物理の関係です。

⑤ ドーズ量とエネルギー:2つのつまみで決める

大事なポイント:入れる量は「ドーズ量」、入る深さは「エネルギー」で決めます。この2つが、注入の基本の設定です。

量(ドーズ量)を2倍にするエネルギーを大きくする表面からの深さ →濃さ表面からの深さ →濃さ同じ深さで濃さが上がる深くなる灰色が元の分布です。量を増やすと高く、エネルギーを上げると深く、広くなります
簡易の図です。数値は含みません。

ドーズ量は、ウェハの1平方センチメートルあたりに打ち込んだイオンの数で、単位は「個/cm2」です。たとえば、1015 個/cm2 のように書きます。1回の注入で入れる量の目安で、深さごとの濃さ(個/cm3)とは、別のものです。

ドーズ量は、ビームの電流を測って決めます。イオンは電気を帯びているので、流れた電気の量(電流 × 時間)を、1個あたりの電気の量で割れば、打ち込んだイオンの数が分かります。装置は、電気の量を測りながら、決めた数に達したら、注入を止めます。

このように、量はドーズ量、深さはエネルギーで決めます。深さが同じで量を変えたいときは、ドーズ量だけを変え、量が同じで深さを変えたいときは、エネルギーだけを変えます。2つを独立に調整できることが、イオン注入の大きな利点です。

確認クイズ:入る深さを決める設定は、ドーズ量とエネルギーのどちらでしょう?

答え:エネルギーです。

くわしく見る:ドーズ量から、注入時間を計算する

直径300 mmのウェハの面積は、半径15 cmなので、

3.14 × 152 ≒ 707 cm2

ドーズ量が1015 個/cm2のとき、必要なイオンの総数は、

1015 × 707 ≒ 7.07 × 1017 個

+1価のイオン1個の電気の量は、1.602 × 10−19 C(クーロン)です。総量は、

7.07 × 1017 × 1.602 × 10−19 ≒ 0.113 C

ビーム電流が1 mA(0.001 A)なら、電流 = 電気の量 ÷ 時間 より、時間は、

0.113 ÷ 0.001 ≒ 113 秒(約1.9分)

検算として、電流を2 mAにすると、時間は半分の約57秒です。この計算は、理解のための仮の値です。実際の装置の電流や、ビームの当たり方で、時間は変わります。

安全のひとこと:イオン注入装置では、毒性のあるガス(ヒ素、リン、ホウ素の化合物など)、数十kVから数百kV以上の高電圧、そして運転中に発生しうるX線に注意が必要です。装置は、専用の遮蔽と安全装置で管理され、立ち入りや保守にも決まりがあります。取り扱いは、必ず職場の決まりとSDS(安全データシート)に従います。

この講のまとめ

この講のポイント

イオン注入装置は、イオン源、質量分離、加速、走査の順にイオンを整えて、ウェハへ当てます。
磁石の質量分離で目的のイオンだけを選び、電圧で加速して、エネルギーを決めます。
入れる量はドーズ量(個/cm2)、入る深さはエネルギー(keV)で決まり、2つを独立に調整できます。

次の講では、打ち込まれたイオンが、ウェハの中でどのように止まり、どんな分布になるのか、そして結晶にどんな傷が残るのかを説明します。

ことばのおさらい

  • イオン源:不純物をイオンにして、ビームとして引き出す部分です。
  • 質量分離:磁石で、目的のイオンだけを選ぶことです。
  • keV(キロ電子ボルト):イオンのエネルギーの単位です。1 keVは、1,000電子ボルトです。
  • 走査:ビームやウェハを動かして、全面に当てることです。
  • ドーズ量:1 cm2あたりに打ち込んだイオンの数(個/cm2)です。
  • ビーム電流:イオンのビームが運ぶ電流です。ドーズ量を測るために使います。

よくある誤解

Q. イオン源でつくったイオンは、そのままウェハへ当てるのですか?

いいえ。いろいろな種類のイオンが混ざっているので、磁石で目的の1種類だけを選んでから、加速して当てます。

Q. ドーズ量が同じなら、深さも同じですか?

いいえ。ドーズ量は量で、深さはエネルギーで決まります。同じドーズ量でも、エネルギーが違えば、入る深さは変わります。

参考にした公式情報

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