今回のテーマは、
「プラズマとは何で、なぜ細かい形を縦に削れるのか」
答え:プラズマは、気体の一部が電子とイオンに分かれた状態です。そのイオンを電圧で下へ引き寄せ、ほぼ垂直に当てるので、縦に削れます。
この記事でわかること
- ① プラズマとは
- ② 電子、イオン、ラジカル
- ③ なぜ真空の容器の中で削るのか
- ④ ドライエッチングの3つのタイプ
- ⑤ イオンを縦に引き寄せるしくみ
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① プラズマとは、電気を帯びた粒が混ざった気体
大事なポイント:プラズマは、気体の一部が電子とイオンに分かれて、電気をよく通すようになった状態です。
水は、冷やすと氷(固体)になり、温めると水蒸気(気体)になります。気体をさらに強いエネルギーで刺激すると、分子や原子から電子が飛び出し、電子と、電子を失って+の電気を帯びたイオンに分かれます。このような状態をプラズマといい、固体、液体、気体に続く、「第4の状態」と呼ばれます。
プラズマには、大事な特徴が2つあります。1つ目は、電気をよく通すことです。電子とイオンが動き回れるからです。2つ目は、全体としては、+と−の量がほぼ釣り合っていることです。そのため、プラズマの塊が、強く電気を帯びるわけではありません。
半導体の工場で使うプラズマは、気体のごく一部だけが電離した、「弱く電離した」プラズマです。この場合、イオンの温度は室温に近いままで、電子だけが数千K(ケルビン、絶対温度)にもなることがあります。軽い電子は動きやすく、エネルギーを受け取りやすいので、電子だけが熱くなるのです。ウェハが熱くなりすぎない理由は、ここにあります。
確認クイズ:プラズマの2つの特徴のうち、1つ目として本文で挙げたのは何でしょう?
答え:電気をよく通すことです。
② プラズマの中の3つの粒:電子、イオン、ラジカル
大事なポイント:電子が気体の分子にぶつかると、反応しやすい粒(ラジカル)と、イオンができます。これが膜を削ります。
プラズマの中では、速く動く電子が、気体の分子や原子にぶつかります。ぶつかると、分子が光を出す(励起)、分子がこわれて、かけらになる(分解)、電子が弾き飛ばされて、イオンになる(電離)、のどれかが起きます。
ここで、新しい言葉を2つ説明します。ラジカルは、分子がこわれてできた、電気を帯びていない原子や分子のかけらです。ふつうの分子と違い、相手と結びつきやすい性質があります。イオンは、電子を失って+の電気を帯びた粒です。
エッチングに使われるのは、この2つです。プラズマエッチングの反応に関わる粒は、「イオン」の場合も、「中性の原子やラジカル」の場合もあります。たとえば、フッ素を含むガスを使うと、フッ素のラジカルができ、それがシリコンと結びつきます。このとき、室温でも気体になる物質(揮発性の生成物)ができると、膜は気体として運び去られます。プラズマを使わなければ、同じ反応を起こすには、もっと高い温度が必要です。
確認クイズ:プラズマの中でできる、電気を帯びていないが反応しやすい粒を、何というでしょう?
答え:ラジカルです。
③ なぜ真空の容器の中で削るのか
大事なポイント:プラズマは、圧力を下げた容器の中で、安定して光り続けます。圧力は、削り方にも関わります。
ドライエッチングは、ウェハを入れた容器の空気を抜いて、圧力をとても低くします。そのあとで、少量の反応ガスを入れて、削ります。圧力を表す単位には、Pa(パスカル)やTorr(トール)があり、1 Torr ≈ 133 Paです。大気圧は、約760 Torr(約10万Pa)です。
参考資料の数字は、記事によって範囲が違います。プラズマエッチングの記事は、低圧プラズマの圧力を100 Pa未満としています。別の記事は、一般的なプラズマエッチングを0.1〜5 Torr(約13〜670 Pa)、後で出る、イオンとラジカルを組み合わせた方式(RIE)を0.001〜0.1 Torr(約0.13〜13 Pa、数mTorr〜数百mTorr)としています。方式や装置によって、圧力は変わります。どれも、大気圧の約150分の1(5 Torr)以下という、とても薄い気体の中で削ります。
圧力を低くする理由の1つは、粒がぶつかる回数を減らし、プラズマを安定して保つためです。もう1つは、イオンが、途中で他の粒にぶつからず、ウェハまで飛んでくるようにするためです。圧力が低いほど、イオンはまっすぐ飛びやすくなります(この点は一般的な考え方で、第5節で使います)。
確認クイズ:本文では、低圧プラズマの圧力は、およそ何Pa未満とされていますか?
答え:100 Pa未満です。
くわしく見る:圧力の換算と、大気圧との比
1 Torr ≈ 133.3 Pa として、単位を換算します。RIEの圧力が100 mTorrのとき、100 mTorr = 0.1 Torr なので、
0.1 × 133.3 ≈ 13.3 Pa
数mTorrなら、10 mTorr = 0.01 Torr = 約1.3 Pa です。大気圧(760 Torr)と、100 mTorr(0.1 Torr)の比は、
760 ÷ 0.1 = 7,600 倍
です。検算として、大気圧 101,325 Pa ÷ 13.3 Pa ≈ 7,600 と、同じ値になります。
④ ドライエッチングの3つのタイプ
大事なポイント:ドライは、ラジカルで削るタイプ、イオンで削るタイプ、両方を組み合わせた方式(RIE)に分けて考えられます。
ラジカルは電気を帯びていないので、電気の力で向きをそろえられず、あちこちへ飛びます。そのため、ラジカルだけで削ると、横にも削れる、等方的になりがちです。
イオンは電気を帯びているので、電圧をかけて、向きをそろえることができます。イオンミリング(スパッタエッチング)は、イオンをウェハにぶつけて、膜を物理的に弾き飛ばす方法です。圧力は10−4 Torrほどにも下げて行い、非常に異方的です。ただし、削る相手を選ぶ度合い(選択比)が低いことが、欠点です。
この2つを組み合わせたのが、反応性イオンエッチング(RIE)です。縦に飛ぶイオンと、反応しやすいラジカルが、一緒にはたらきます。圧力は0.001〜0.1 Torrで、縦に削れて、相手も選びやすいので、現在の細かい回路づくりの中心です。
削る膜に合わせて、ガスを選びます。参考資料では、シリコンにはSF6、酸化膜と窒化膜にはCHF3、レジストの除去には酸素のプラズマ、が挙げられています。
▶ 外部の参考ページ:反応性イオンエッチング装置の例と、使うガスの種類(大学の共用施設のページ・英語)
確認クイズ:イオンをぶつけて物理的に弾き飛ばす方法を、何というでしょう?
答え:イオンミリング(スパッタエッチング)です。
⑤ RIEは、イオンを縦に引き寄せて削る
大事なポイント:RIEは、電圧でイオンを下へ引き寄せ、ほぼ垂直にウェハへ当てます。そのため、縦に削れます。
反応性イオンエッチング(RIE)のしくみは、次の順に進みます。
- 真空の容器に、反応ガスを入れます。
- 周波数13.56MHzの高周波を、数百Wかけて、ガスをプラズマにします。
- ウェハを置いた電極に、電子がたまり、負の電圧(自己バイアス)が、数百Vほど生まれます。
- +のイオンが、この負の電圧に引き寄せられ、ウェハへほぼ垂直に当たります。
- イオンが当たった底の部分で、ラジカルによる反応が進み、膜が削れます。
これが、RIEが縦に削れる理由です。イオンは、真上から飛んでくるので、側面にはほとんど当たりません。参考資料にも、「ほぼ垂直にイオンが届くので、とても異方的な形になる」と書かれています。ウェットのような、丸く広がる形にはなりません。
▶ 外部の参考ページ:反応性イオンエッチングの原理と、ICPエッチング装置の例(大学のクリーンルーム装置案内・日本語)
なお、誘導結合プラズマ(ICP)という方式では、とても高い密度のプラズマをつくれますが、形は等方的になりやすくなります。そこで、ICPを「イオンをつくる部分」として使い、別にウェハの電極へ電圧をかけて、異方性を確保する方式もあります。 ▶ 2級でくわしく
確認クイズ:RIEで、イオンがウェハへほぼ垂直に当たるのは、何の電圧に引かれるからでしょう?
答え:ウェハを置いた電極にたまる、負の電圧(自己バイアス)です。
くわしく見る:高周波の1周期と、イオンのエネルギー
周波数13.56MHz = 13.56 × 106 回/秒です。1周期は、
1 ÷ (13.56 × 106) ≈ 7.37 × 10−8 秒 ≈ 74 ナノ秒
です(1ナノ秒=10億分の1秒)。非常に速い振動です。
自己バイアスが300Vのとき、+1個分の電気をもつイオンが、この電圧で加速されると、最大で約300 eV(電子ボルト)のエネルギーをもちます。実際には、途中で他の粒にぶつかり、これより小さくなります。式の形は、一般的な物理の目安です。
安全のひとこと:ドライエッチングでは、毒性や腐食性のある反応性ガスを使います。工場では、専用の設備と決まりで厳重に管理されます。取り扱いは、必ず職場の決まりとSDS(安全データシート)に従います。
この講のまとめ
プラズマは、気体の一部が電子とイオンに分かれた状態で、電気をよく通し、ラジカルやイオンが膜を削ります。
ドライは、低い圧力の容器で行い、ラジカル型、イオンミリング、両方を組み合わせたRIEがあります。
RIEは、自己バイアスでイオンを垂直に引き寄せるため、縦に削れて、現在の細かい回路づくりの中心です。
次の講では、縦に削る度合い(異方性)と、削りたい膜だけを削る度合い(選択比)が、どう決まるのかを学びます。
ことばのおさらい
- プラズマ:気体の一部が、電子とイオンに分かれた状態です。
- ラジカル:電気を帯びていないが、反応しやすい原子や分子のかけらです。
- イオン:電子を失って、+の電気を帯びた粒です。
- RIE:反応性イオンエッチング。イオンとラジカルの両方で削る方法です。
- 自己バイアス:電子がたまって、ウェハの電極に生まれる負の電圧です。
- Torr・Pa:圧力の単位です。1 Torr ≈ 133 Paです。
よくある誤解
Q. プラズマは、高温で、ウェハが熱くなるのですか?
いいえ。工場で使う弱電離のプラズマでは、イオンの温度は室温に近く、電子だけが高温です。
Q. ドライは、必ず異方性ですか?
いいえ。ラジカルだけで削ると等方的になりやすく、ICPも等方的になりやすいことがあります。異方性は、イオンの向きをそろえることで生まれます。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Plasma (physics)」(プラズマの定義、電子とイオンの温度の違い)
- Wikipedia「Plasma etching」(分子との衝突、イオンとラジカル、圧力100Pa未満、13.56MHz)
- Wikipedia「Reactive-ion etching」(RIEのしくみ、自己バイアス、圧力、ICP、SF6)
- Wikipedia「Etching (microfabrication)」(各方式の圧力、CHF3、酸素プラズマ、イオンミリング)
- Wikipedia「Plasma ashing」(酸素プラズマによるレジスト除去)
- Stanford Nano Shared Facilities「反応性イオンエッチング装置」のページ(RIE装置とガスの例)
- 東京大学 武田先端知スーパークリーンルーム「装置案内(膜加工・エッチング)」(RIEとICPエッチングの説明)
圧力の換算、周期とエネルギーの計算、「フッ素のラジカルがシリコンと結びつく」「ラジカルは向きがそろわず等方的になりやすい」「圧力が低いほどイオンがまっすぐ飛ぶ」は、一般的な知識にもとづく目安です。図は、記事用に描いた簡易の図です。数値の計算例は、説明用の仮の値です。

