今回のテーマは、
「CVDでは、ガスから、どうやって固体の膜ができるのか」
答え:原料のガスが、熱やプラズマのエネルギーでウェハの表面に反応・分解して、固体の膜になります。余分な気体は、ガスの流れで外へ出します。
この記事でわかること
- ① ガスが表面で膜になる
- ② 膜ごとの反応の例
- ③ 圧力による分け方(APCVDとLPCVD)
- ④ プラズマで低い温度にする(PECVD)
- ⑤ 付き回りと膜の質
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① CVDは、ガスをウェハの表面で反応させる
大事なポイント:CVDでは、ガスの原料(前駆体)が、ウェハの表面で反応して固体になります。できた余分な気体は、排気されます。
前の講のPVDは、固体を蒸気にして飛ばしました。CVD(化学気相成長)は、ちがいます。原料を最初からガスの形で送り込み、ウェハの表面での化学反応で、固体の膜をつくります。原料のガスを前駆体(ぜんくたい)といいます。
手順は、次のとおりです。
- 反応室(ウェハを入れる容器)に、前駆体のガスを流し込みます。
- ガスが、ウェハの表面に届きます。
- 熱などのエネルギーで、前駆体が分解したり、別のガスと反応したりします。
- 反応でできた固体が、ウェハの表面に付いて、膜になります。
- 同時にできた気体の余り(副生成物)は、ガスの流れで外へ運び出されます。
PVDでは、飛んでくる向きがほぼ決まっていました。CVDでは、ガスが容器の中に広がるため、ウェハの表面にまわりこみやすく、凹凸に沿って膜が付きやすい特徴があります。
確認クイズ:CVDで、膜になる原料のガスを、何というでしょう?
答え:前駆体です。
くわしく見る:化学反応式の読み方(シランからシリコン)
CVDの代表的な反応を、式で書くと、次のようになります。
SiH4 → Si + 2 H2
SiH4(シラン)は、シリコン1個と水素4個からできたガスです。これが分解して、シリコン1個(固体の膜になる)と、水素の分子2個(H2、気体で排気される)になります。原子の数を数えると、左が「Si 1個・H 4個」、右も「Si 1個・H 2×2=4個」で、一致します。式は、このように左右で原子の数が合います。
② 膜ごとに、反応のしかたが決まっている
大事なポイント:膜の種類ごとに、使うガスと温度が決まっています。ここでは、ポリシリコン、酸化膜、窒化膜の例を見ます。
代表的な3つの膜を見ます。温度や圧力は、例として、資料に出ているものです。
- ポリシリコン(シリコンの膜):シランが分解して、シリコンの膜になります。600〜650℃、25〜150 Paの条件で、1分間に10〜20nm付く、とされています。
- 二酸化ケイ素(酸化膜、絶縁膜):シランと酸素を反応させる方法は、300〜500℃です。TEOS(テオス、シリコンを含む液体の原料)を使う方法は、650〜750℃です。
- 窒化ケイ素(窒化膜、絶縁膜):シランとアンモニア(NH3、窒素と水素の化合物)から、つくります。
膜の種類と原料ガスの組み合わせで、できる膜の質が変わります。たとえば、シランの酸化膜は、TEOSなどからつくる膜より、品質が低めです。また、原料ガスによって、膜に残る不純物も変わり、シランでは水素、ジクロロシラン(塩素を含むガス)では塩素が混ざります。
確認クイズ:シランと酸素を反応させると、どんな膜ができるでしょう?
答え:二酸化ケイ素(酸化膜)です。
くわしく見る:反応式の原子の数を、確かめる
窒化膜の式で、左右の原子の数が合うかを、数えます。
3 SiH4 + 4 NH3 → Si3N4 + 12 H2
左:Si は 3 個、N は 4 個、H は 3×4 + 4×3 = 12 + 12 = 24 個。右:Si は 3 個、N は 4 個、H は 12×2 = 24 個。すべて一致します。
酸化膜の式 SiH4 + O2 → SiO2 + 2 H2 も、左は Si 1・H 4・O 2、右は Si 1・O 2・H 4 で、合っています。
③ 圧力で分ける:大気圧のAPCVDと、低い圧力のLPCVD
大事なポイント:CVDは、反応室の圧力で分けられます。圧力を下げるLPCVDは、ウェハの中のむらが小さくなるため、よく使われます。
反応室の圧力で、CVDは次のように分けられます。
- APCVD:大気圧(ふだんの空気の圧力)で行います。
- LPCVD:大気圧より低い圧力で行います。ガスどうしが空中で勝手に反応してしまう(気相反応)のが減り、ウェハ全体で膜が均一になりやすい、とされています。
- UHVCVD:10−6 Pa以下の、とても高い真空で行います。
現在のCVDの多くは、LPCVDか、UHVCVDだと説明されています。先ほどのポリシリコンの25〜150 Paも、LPCVDの例です。
LPCVDの弱点は、600〜650℃のような高い温度が必要な膜があることです。すでに作った部品や配線が、熱で傷む場合は使えません。この問題を解決するのが、次の節のPECVDです。
確認クイズ:LPCVDは、大気圧と比べて、圧力が高いでしょうか、低いでしょうか?
答え:低いです(大気圧より低い圧力で行います)。
くわしく見る:25〜150 Paは、大気圧の何分の1か
大気圧を、約101,300 Pa(一般的な値)とします。
101,300 ÷ 150 ≈ 675 〜 101,300 ÷ 25 ≈ 4,050
つまり、大気圧の約1/700〜1/4,000です。かなり空気をぬいた状態ですが、PVDの高真空(前の講の10−4 Paなど)と比べると、まだ圧力は高いことがわかります。
④ プラズマで反応を助け、低い温度にする(PECVD)
大事なポイント:PECVDは、プラズマで前駆体を分解して、熱だけに頼る方法より低い温度で膜を付けます。
PECVD(プラズマCVD)は、ガスに高周波の電気を加えて、プラズマにします。プラズマの中の電子は、とても軽いため、まわりの分子とエネルギーをやりとりしにくく、分子はほぼ室温のままでも、電子だけが高いエネルギーを持てます。この電子が、前駆体の分子にぶつかって、分子を壊し、反応しやすい状態にします。
その結果、熱だけで反応させる方法よりも、低い温度で膜が付きます。このため、温度に弱い部品や金属の層が入ったウェハにも、膜を付けられます。窒化ケイ素や二酸化ケイ素が、この方法で付けられます。
弱点もあります。PECVDの窒化膜には、水素がかなり含まれます。水素の量は、膜の安定さや電気の性質に影響します。また、付く速さは速い方法ですが、そのぶん、均一さが犠牲になることもある、とされています。
確認クイズ:PECVDが、熱だけの方法より低い温度で膜を付けられるのは、何のおかげでしょう?
答え:プラズマの電子が、前駆体の分子を壊して、反応しやすくするためです。
⑤ CVDの膜は付き回りが良いが、膜の質には注意
大事なポイント:CVDの膜は、凹凸に沿って付きやすい(付き回りが良い)一方、原料や条件で、膜の質や割れやすさが変わります。
PVDの膜は一方向から付くため、向きがそろった付き方でした。これに対して、CVDなどの化学的な方法は、凹凸に沿った膜(コンフォーマルな膜)になりやすいとされます。コンフォーマルとは「形に沿った」という意味です。
ただし、CVDなら必ず付き回りが良い、というわけではありません。シランを使う酸化膜は、付き回りが良くない(非コンフォーマル)です。これに対して、オゾン(酸素の仲間のガス)とTEOSを350〜500℃で使う酸化膜は、付き回りがとても良い反面、水分を吸いやすい、とされています。
膜の割れやすさにも、注意が必要です。LPCVDの窒化膜は、引っぱる向きの力(応力)が強く、200nmより厚くすると、ひびが入ることがあります。
確認クイズ:LPCVDの窒化膜を、200nmより厚くすると、どうなることがあるでしょう?
答え:ひびが入ることがあります(引っぱる向きの応力が強いため)。
安全のひとこと:CVDで使うシラン、アンモニア、ジクロロシランは、燃えやすさ、毒性、腐食性などの危険があるガスです。工場では、専用の設備と決まりで厳重に管理されます。取り扱いは、必ず職場の決まりとSDS(安全データシート)に従います。
この講のまとめ
CVDは、前駆体のガスをウェハの表面で反応させて、固体の膜をつくり、副生成物は排気します。
圧力を下げるLPCVDは均一さがよく、プラズマを使うPECVDは、低い温度で膜を付けられます。
CVDの膜は付き回りが良いとされますが、原料や条件で、膜の質や、割れやすさが変わります。
次の講では、さらに薄く、均一に、穴の中まで膜を付けるALDを見ていきます。
ことばのおさらい
- 前駆体:CVDやALDで、膜になる原料のガスです。
- 副生成物:反応でできる、膜にならない余分な気体です。
- LPCVD:大気圧より低い圧力で行うCVDです。
- PECVD:プラズマで反応を助けて、低い温度で行うCVDです。
- コンフォーマル:凹凸に沿って、同じような厚さで付く、という意味です。
- 応力:膜がもつ、引っぱる力や押す力のことです。強いとひびが入ります。
よくある誤解
Q. CVDなら、必ず付き回りが良いのですか?
いいえ。原料や条件で変わります。シランの酸化膜は付き回りが良くないとされます。
Q. プラズマを使うと、膜の質も必ず良くなりますか?
いいえ。低い温度にできる一方、窒化膜に水素が多く入るなど、質に影響が出ることがあります。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Chemical vapor deposition」(CVDのしくみ、APCVD・LPCVD・UHVCVD、ポリシリコン・酸化膜・窒化膜の反応と条件、付き回り、応力)
- Wikipedia「Plasma-enhanced chemical vapor deposition」(PECVDのしくみ、低温でできる理由、水素の含有、速さと均一さ)
- Wikipedia「Thin film」(化学的な方法は付き回りが良くなりやすい、という説明)
大気圧の値(約101,300 Pa)と、反応式の原子数の確認は、一般的な知識にもとづく目安です。図は、記事用に描いた簡易の図です。

