第5講で、金属の汚れを測る方法として、TXRFを見ました。「X線を当てて、出てくる光から、金属の種類と量を調べる」という説明でしたが、なぜ、ウェハの表面の、ごくわずかな汚れだけを、見つけられるのでしょうか。
この補講では、TXRFの仕組みと、どのくらい少ない量まで、見つけられるのかを、数字で見ていきます。
この記事でわかること
- 蛍光X線とは何か
- X線をごく浅い角度で当てる理由(全反射)
- TXRFの検出下限(どのくらい少ない量まで、見つけられるか)
- TXRFの得意・不得意(軽い元素)
① TXRFは、何をしている装置か
第5講で、金属の汚れを測る方法として、TXRFを見ました。日本語では、全反射蛍光X線分析(ぜんはんしゃけいこうエックスせんぶんせき)といいます。名前が長いので、仕組みを、順番に見ていきましょう。
物質にX線を当てると、その物質に含まれる元素が、元素ごとに決まった光(蛍光X線)を出します。この光の種類から「何の元素か」、強さから「どれだけあるか」が、わかります。これが「蛍光X線分析」の基本です。
確認クイズ:蛍光X線から、何がわかりますか?
答え:元素の種類(光の種類から)と、量(光の強さから)です。
② 「全反射」で、表面だけを見る
ウェハの汚れは、表面にだけ、ごくわずかに、のっています。ところが、X線を、ふつうに当てると、ウェハの奥深くまで入りこみ、シリコンの中からも、強い信号が出てしまいます。そうなると、表面の、わずかな汚れの信号は、かき消されてしまいます。
そこで、TXRFでは、X線を、ウェハの表面に、ごく浅い角度で当てます。ある角度(臨界角)より浅くすると、X線は、ほとんど反射して、ウェハの中に入りません。これが、全反射です。入らないので、ウェハの中の信号は、出にくくなり、表面の汚れだけが、よく見えるようになります。
アメリカのSSRL(スタンフォード放射光研究所)の紹介ページには、入射角を0.085度という、全反射する浅い角度にして、シリコンウェハ上の、ごく微量の不純物を測る例が載っています。
0.085度は、1度の約12分の1(1 ÷ 0.085 ≒ 11.8)です。1度でも、地面にほとんど平行に見えるくらいの、浅い角度です。その、さらに約12分の1という、ごく浅い角度で、X線を当てています。
確認クイズ:TXRFで、X線を、ごく浅い角度で当てるのは、なぜですか?
答え:X線がウェハの中に入らず(全反射)、表面の汚れの信号だけが、よく見えるようにするためです。
③ どのくらい、少ない汚れまで見つけられるか
第5講で、TXRFの検出下限は、1平方センチメートルあたり10の9乗〜10の10乗個と書きました。資料によって、数字には幅があります。たとえば、次のようなものがあります。
- ある解説(Rigakuの雑誌)の表では、ふつうのTXRFが10の9乗個、VPD-ICP-MSが10の7乗個(いずれも、1平方センチメートルあたり)
- 1989年の論文を紹介するページでは、ふつうの装置で、10の11乗個まで
- 放射光(とても強いX線)を使うSSRLの例では、ニッケルで、8×10の7乗個(1,000秒の測定)
TXRF(10の9乗個)とVPD-ICP-MS(10の7乗個)を比べると、10の9乗 ÷ 10の7乗 = 10の2乗 = 100倍。VPD-ICP-MSのほうが、100倍少ない量まで、見つけられる計算です。
第5講で、シリコン原子は1平方センチメートルに約7×10の14乗個ありました。金属が10の9乗個なら、7×10の14乗 ÷ 10の9乗 = 7×10の5乗、つまり、シリコン原子約70万個に、金属1個の割合です。
国際規格のISO 14706:2014は、TXRFで、シリコンウェハの表面の汚れを測る方法を決めています。規格によると、測れる元素は、原子番号16(硫黄)〜92(ウラン)、範囲は、1平方センチメートルあたり10の10乗〜10の14乗個です。さらに、VPD(気相分解)という、前処理をすると、より少ない量も、測れるようになります。(VPDは、一般に、ウェハ表面の汚れを、小さな液のしずくに集めて、濃くしてから測る方法です)
規格が、硫黄(原子番号16)以上を対象にしているように、硫黄(原子番号16)より軽い元素は、TXRFでは、うまく測れません。そのため、第5講で見たとおり、軽い元素は、別の方法(SIMS)で測ります。
TXRFの測定の様子や、図は、SSRL(スタンフォード放射光研究所)の紹介ページで見られます。
SSRL「Looking at Trace Impurities on Silicon Wafers Using Synchrotron Radiation」
確認クイズ:TXRFが、うまく測れないのは、どんな元素ですか?
答え:軽い元素です(規格の対象は、原子番号16の硫黄から)。軽い元素は、SIMSなどで測ります。
TXRFは、X線をごく浅い角度で当てて全反射させ、ウェハの表面の金属だけを調べる方法。元素ごとの蛍光X線から、種類と量がわかる。検出下限は、1平方センチメートルあたり10の9乗個前後が目安(資料によって幅がある)。軽い元素は苦手で、別の方法で測る。
この講座の「3級 入門」は、ここまでです。5つの講と、それぞれの補講で、洗浄の目的・汚れ・RCA洗浄・課題・測り方を、ひと通り見てきました。確認テストで、理解をたしかめてみましょう。
ことばのおさらい
蛍光X線:物質にX線を当てたとき、元素ごとに決まった光(X線)が出る現象、またその光です。
全反射:光やX線が、ごく浅い角度で当たると、ほとんど反射して、中に入らない現象です。
臨界角:全反射が起きる、境目の角度です。
検出下限:測定で、見つけられる、いちばん少ない量です。
VPD(気相分解):ウェハ表面の汚れを集めて、濃くしてから測るための前処理です。
よくある誤解
Q. TXRFは、ウェハを、こわして測りますか?
いいえ。第5講で見たとおり、ウェハを壊さずに測れます。
Q. TXRFの検出下限は、1つの決まった数字ですか?
いいえ。資料や装置、測る元素、使うX線の種類(放射光かどうか)、前処理の有無で、数字に幅があります。この記事では、資料ごとの数字を、そのまま並べました。

