最先端の半導体をつくる工場には、欠かせない機械があります。その機械をつくっているのが、オランダの会社、ASML(エーエスエムエル)です。ASMLの始まりは、1984年の、雨漏りする小屋でした。
小さな会社は、一度、存続が危うくなるところまで追い込まれます。それでも、約40年で、半導体づくりを支える装置をつくる会社になりました。この記事では、ASMLの歩みと、「EUV(イーユーブイ)」という特別な光の装置が生まれるまでを、順に説明します。
この記事の公式の出来事と年号は、ASMLの公式ページと、ASMLが公表したプレスリリースにもとづいています。写真は、AI生成のイメージで、実際の場所や人物ではありません。
この記事でわかること
- この記事の目的:ASMLが、何をつくる会社で、どのように今の姿になったのかを理解する
- 前半:ASMLの仕事と、創業から最初の危機まで
- 後半:EUVの光のつくり方と、顧客が出資した2012年の決断

- ASMLの始まりは、雨漏りする小屋
- 1984年、オランダのアイントホーフェン
- ここから、露光装置の会社が始まった
博士、ASMLって、チップをつくる会社なんですか?
いいや。チップをつくる機械、露光装置をつくる会社じゃ。始まりは、雨漏りする小屋じゃった。
そこから、どうやって大きくなったんですか?
存続の危機を越えて、EUVという特別な光の装置を作り上げたんじゃ。順に、見ていこう。
ASMLは、回路の絵を焼きつける機械の会社
ASMLの公式ページでは、ASMLは、リソグラフィ(露光)の機械をつくる会社で、その機械は、半導体づくりに欠かせない部分だと説明されています。ASMLの装置は、光を使って、現代のチップの中にある回路の、とても細かいパターンを焼きつけます。ASMLは、チップそのものではなく、チップに回路を焼きつける機械をつくる会社です。
半導体のチップは、ウェハという、シリコンの薄い板の上につくられます。ウェハに回路の絵を光で焼きつける工程を、露光といいます。露光をする機械が、露光装置です。写真のフィルムに像を焼きつける作業に、少し似ています。
確認クイズ:ASMLがつくっているのは、チップでしょうか、それともチップをつくる機械でしょうか?
答え:チップをつくる機械です。回路を焼きつける露光装置をつくっています。
1984年、雨漏りする小屋で
ASMLの公式の沿革ページによると、1984年に、電機大手のフィリップスと、半導体装置の会社ASMI(エーエスエムアイ)が、新しい会社をつくりました。会社の名前は、ASM Lithography(エーエスエム・リソグラフィ)です。場所は、オランダのアイントホーフェンにある、フィリップスの事務所のとなりの、雨漏りする小屋でした。同じ年に、最初の製品、PAS 2000という露光装置を出しています。
1985年には、約100人の社員で、フェルドホーフェンに新しくつくった事務所と工場に引っ越しました。1986年には、PAS 2500を発売し、レンズをつくる会社の、カール・ツァイスと、協力関係を結びました。ASMLは、雨漏りする小屋から、露光装置の会社として歩み始めました。

- 1984年に創業
- 80年代後半に存続の危機
- 最後の融資とPAS 5500で立ち直った
確認クイズ:ASMLの最初の製品は、何という装置でしょうか?
答え:1984年に出した、PAS 2000という露光装置です。
存続の危機と、最後の融資
しかし、競争が激しく、供給する会社も多い市場の中で、無名の小さな会社は、なかなか顧客をつかめませんでした。ASMLの公式の沿革ページによると、1980年代の後半に、出資していたASMIが、投資を続けられず、手を引くことを決めます。電子産業全体の景気も悪くなり、フィリップスも、大きな経費の削減を発表しました。会社の命は、ぎりぎりの状態になったと説明されています。
ここで、フィリップスの取締役、ヘンク・ボット氏が、ほかの取締役を説得して、最後の融資を実現させました。その後、ASMLは、PAS 5500という装置を出します。この装置は、生産性と解像度が高く、利益を出すために必要だった、重要な顧客を引き寄せました。1995年には、アムステルダムとニューヨークで上場し、完全に独立した会社になります。最後の融資と、PAS 5500が、ASMLを立ち直らせました。
確認クイズ:存続が危うくなったあと、ASMLを支えた装置は、何でしょうか?
答え:1990年代に出した、PAS 5500です。
2つの台と、水を使う液浸
ASMLの公式の沿革ページによると、2001年に、ASMLは、TWINSCAN(ツインスキャン)という装置を出しました。ウェハを載せる台を2つにして、1つのウェハを露光しているあいだに、次のウェハを測り、位置を合わせます。待ち時間が減るので、生産性と精度が高まります。
2003年には、最初の液浸装置が登場しました。液浸は、レンズとウェハのあいだに水の層をつくって、光を通す方法です。これにより、さらに小さな回路の形をつくれるようになります。2006年には、量産向けの最初の液浸装置、XT:1700iが出ました。液浸は、レンズとウェハのあいだに水を入れる方法です。
確認クイズ:液浸では、レンズとウェハのあいだに、何を入れるでしょうか?
答え:水の層です。
EUV:光のつくり方と、約10年の挑戦
次の壁が、EUV(極端紫外線)です。TRUMPF(トルンプ)の公式ページによると、ASMLと、ツァイス、TRUMPFの3社は、波長13.5ナノメートルのEUVの光を、工業用につくる技術を、力を合わせて開発しました。真空の容器の中で、スズの小さな滴を、毎秒5万個打ち出し、それぞれにレーザーのパルスを当てて、プラズマにします。このとき、EUVの光が出ます。
Electro Optics誌の記事(2015年)によると、空気を含め、すべての物質は、EUVを吸収します。だから、この過程は、真空の中で行われます。光は、レンズではなく、真空の中に並んだ、一連の鏡を通って、ウェハに導かれます。

- スズの滴にレーザーを当てる
- プラズマからEUVの光が出る
- すべて真空の中で行われる
ASMLの公式の沿革ページによると、2010年に、最初のEUV試作機、NXE:3100を出荷しました。2013年には、光源の会社、サイマーを買収して、EUVの開発を速めます。2016年には、顧客が、量産向けの最初の機種、NXE:3400を、まとめて発注し始めました。そして、2020年の初めに、EUVは量産に入り、EUV装置の出荷は、100台に達しました。試作機の出荷から量産まで、約10年かかったことになります。EUVは、試作機から量産まで、約10年かかりました。
確認クイズ:EUVの光の装置が、真空の中に置かれるのは、なぜでしょうか?
答え:空気を含め、すべての物質が、EUVを吸収するからです。
顧客が出資した、2012年の決断
EUVの開発には、大きなお金が必要でした。ASMLの2012年のプレスリリースによると、ASMLは、顧客の半導体メーカーが開発に出資する「顧客共同投資プログラム」を、2012年7月に発表しました。インテル、TSMC、サムスンの3社が、次世代の露光技術、特にEUVの研究開発費を出す仕組みです。研究開発費の目標は、合計13.8億ユーロで、サムスンは、5年間で2.76億ユーロを出すと決めました。
さらに、3社は、ASMLの株を、あわせて約23%、38.5億ユーロで取得する形をとりました。これらの株には、特別な場合を除いて、議決権がありません。装置の使い手が、作り手の開発に出資した、2012年の異例の仕組みです。

- インテル、TSMC、サムスンが出資
- 次世代の露光技術、特にEUVの開発費
- 使い手が、作り手を支えた
確認クイズ:2012年に、ASMLの開発費を出した顧客は、どの3社でしょうか?
答え:インテル、TSMC、サムスンです。
そして、High NAへ
ASMLの公式の沿革ページによると、2023年に、ASMLは、次世代のEUV装置の第1号を出荷しました。開口数(NA)を0.55に上げた「High NA(ハイエヌエー)」と呼ばれる装置で、機種名は、EXEです。新しい光学の設計と、大幅に速くなった台を備えています。下の画像は、こうした装置が置かれる、現代のクリーンルームのイメージです。

- 現代のクリーンルームのイメージ
- 大きな露光装置のそばで作業する
- AI生成の画像で、実際の場所ではない
製造の全体像は、半導体の製造工程の全体像で紹介しています。なお、設備の調整や復旧は、製造する工場やメーカーの正式な手順と、資格のある人の判断のもとで行います。この記事は、企業の歩みの紹介で、設備の操作を指示するものではありません。
ことばのおさらい
- 露光:回路の絵を、光でウェハに焼きつける工程です。
- 露光装置:露光をする機械です。
- ウェハ:半導体の材料になる、シリコンの薄い板です。
- 液浸:レンズとウェハのあいだに、水の層をつくる方法です。
- EUV:波長13.5ナノメートルの、極端紫外線です。
- High NA:開口数を0.55に上げた、次世代のEUV装置です。
よくある誤解
Q. ASMLは、チップをつくっている会社ですか?
いいえ。ASMLは、チップをつくる工場が使う、露光装置などをつくる会社です。
Q. EUVの光は、どうやってつくりますか?
真空の容器の中で、毎秒5万個のスズの滴にレーザーを当てて、プラズマにして、EUVの光を出します。
まとめ
ASMLは、1984年に、雨漏りする小屋で始まった、露光装置の会社で、1980年代の後半に、存続が危うくなりましたが、最後の融資で、立ち直りました。
EUVは、試作機の出荷から量産まで、約10年かかり、2012年には、インテル、TSMC、サムスンが、開発費を出しました。
2023年には、次世代のHigh NA装置の第1号が、出荷されました。
参考にした公式情報
- ASML「Our history」(公式の沿革ページ)
- ASML Form 6-K Exhibit 99.1(2012年8月27日、顧客共同投資プログラムの完了)
- TRUMPF「EUV Drive Laser」
- Electro Optics「EUV ready for volume production?」(2015年)
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