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半導体のイオン注入とは?原子を打ち込む理由と、アニールで傷を直す工程

半導体製造工程
学習レベル★☆☆☆☆初級

きれいな水は、電気をほとんど通しません。ところが、塩をほんの少し溶かすだけで、電気を通すようになります。混ぜるものが少しでも、電気の通り方は、がらりと変わるのです。

半導体の工場でも、似たことをします。ウェハ(半導体を作る、丸い板)の決まった場所に、ほかの原子を、ほんの少し打ち込んで、電気の通り方を変えます。この工程が「イオン注入」です。先に答えを言うと、イオン注入は、トランジスタの電気の通り道を作る工程で、打ち込んだあとの熱処理「アニール」で、仕上げます。

塩水の例が当てはまるのは、「少し混ぜると、電気の通り方が変わる」という点だけです。塩水と、シリコンのウェハは、仕組みがまったく違います。

この記事でわかること

  1. この記事の目的:イオン注入で何をして、なぜ必要なのかを、アニールとあわせて、つかむこと
  2. 前半:イオン注入の目的と、原子を打ち込む装置の仕組み
  3. 後半:打ち込むと結晶が傷つく理由と、アニールで直す工程
クリーンルームに並ぶ、長いビームラインを持つ大きなイオン注入装置と、その横に立つ技術者のイメージ
イオン注入装置のイメージ。実際の装置や人物ではありません。 EP111 記事用画像(AI生成)。生成画像を縮小し、JPEGに最適化。
図の要点

  • 原子を打ち込む、大きな装置
  • ビームの通り道が、長く続く
  • 電気の通り道を作る工程で使う
助手

博士、ウェハに原子を打ち込むって、どういうことですか?

博士

電気を通しにくい基板に、ほかの原子を少し混ぜて、電気の通り方を変えるんじゃ。

助手

打ち込んだら、それで終わりですか?

博士

いや、結晶が傷つくので、熱で直す必要があるんじゃ。順に、見ていこう。

イオン注入は、「使える半導体」にする工程

SCREENセミコンダクターソリューションズの入門解説によると、イオン注入は、半導体に、電気が流れたり、溜まったりするところを作る工程です。具体的には、シリコンのウェハに、ボロンや砒素などのイオンを打ち込みます。イオンとは、電気を帯びた原子のことです。解説は、イオン注入をしないと、素子を正常に動かす電気が通らず、まともに動くICはできない、とも述べています。(かなり乱暴な表現だと、解説自身が断っています。)

イオン注入装置を作る日新イオン機器の解説では、もともと電気を通しにくい基板に、電気の特性を変える不純物を打ち込んで、「使える半導体」にする工程だと説明されています。もともと使えない基板を、原子を混ぜることで、使えるものに変えるのです。

この工程は、前工程の中で、フォトレジストの塗布、露光、エッチング、洗浄、平坦化などと一緒に、何度も繰り返されます。たとえば、トランジスタ(NMOS)のソースとドレイン、つまり電気の出入り口を作るときにも、イオン注入が使われます。

歴史も、少しだけ紹介します。Georgia Techの講義資料によると、ショックレーが、イオン注入のアイデアを特許にしたのは1956年です。最初の商用の注入装置は、1973年に登場しました。今の注入装置は、数百万ドルもする、大きな装置です。

クリーンルーム用の服を着た技術者が、シリコンのウェハを手に持って見ているイメージ
ウェハを見る技術者のイメージ。実際の工場や人物ではありません。ウェハの中に、原子を打ち込みます。 EP111 記事用画像(AI生成)。生成画像を縮小し、JPEGに最適化。
図の要点

  • 打ち込む相手は、ウェハ
  • 表面の形は、ほとんど変わらない
  • 中に、原子が入る

原子を打ち込む装置の仕組み

では、どうやって、原子をウェハに打ち込むのでしょうか。書籍の章を紹介するScienceDirectの解説によると、流れは次のとおりです。

  1. 原料のガスなどから、電子をぶつけて、イオンを作る。
  2. 90度に曲げる磁石で、イオンを質量ごとに分けて、必要なイオンだけを選ぶ。
  3. 選んだイオンを、電圧で加速して、ウェハに当てる。
  4. ビームを、電界で左右に動かして、ウェハ全体に当てる。

ボロンのイオンには、三フッ化ホウ素(BF3)などのガスを使い、リンや砒素のイオンには、ホスフィン(PH3)やアルシン(AsH3)などのガスを使います。毒性の強いガスを使うことが多いので、装置の取り扱いには、注意が必要です。

ガスをイオンにし、磁石でイオンを選び、電圧で加速し、ビームを動かして当てる、イオン注入装置の流れの概念図
イオン注入装置の流れを表した模式図。磁石でイオンを選ぶ段階が、途中に入ります。説明用の流れで、特定の装置の構造ではありません。
図の要点

  • ガスをイオンにする
  • 磁石で、必要なイオンだけを選ぶ
  • 加速して、ビームを動かして当てる

深さは「加速の強さ」、量は「電流」で決める

Georgia Techの講義資料(Alan Doolittle教授)によると、イオンが入る深さは、加速のエネルギー、つまり電圧で決まります。一方、打ち込む量(ドーズ)は、測ったイオンの電流を積み重ねて、とても正確に管理します。深さと量を、別々に決められるのが、イオン注入の大きな強みです。

打ち込まれたイオンは、どうやって止まるのでしょうか。講義資料によると、二つの仕組みがあります。一つは、シリコンの原子核とぶつかること、もう一つは、電子の海の中を進むときの、抵抗のようなものです。イオンは、結晶の中を、何千もの原子の層を通り抜けて、やがて止まります。

講義資料は、ほかにも、次のような長所を挙げています。

  • 速い。12インチのウェハ1枚が、中くらいの量なら、最短で25秒。
  • ウェハの表面ではなく、内部に濃度のピークを作れる。
  • エネルギーを変えて何度も打つと、複雑な分布も作れる。

ここが、熱で原子を広げる「拡散」との違いです。ScienceDirectの解説によると、拡散では、濃度が最も高いのは表面で、深くなるほど下がります。イオン注入では、表面の少し下に、濃度の最大が来ます。この深さを、「飛程(レンジ)」と呼びます。

加速が弱いと浅く、強いと深く入ることと、量は電流を測って正確に決めることを示した、深さと量の概念図
イオンが入る深さと、打ち込む量の決め方を表した模式図。説明用の図で、実測データではありません。
図の要点

  • 深さは、加速の強さで決まる
  • 量は、電流を測って決める
  • 深さと量を、別々に決められる

弱点もある。打ち込むと、結晶が傷つく

反面、弱点もあります。講義資料は、とても深い分布や、とても浅い分布は作りにくいこと、毒性の強いガスを使うことが多いこと、装置が高価なことを挙げています。

なかでも大きいのが、結晶の傷です。高いエネルギーのイオンが、シリコンの原子をはじき飛ばして、結晶に傷をつけます。講義資料によると、傷をつけるのは、イオンが原子核とぶつかって止まる過程で、傷がもっとも多いのは、イオンが止まる深さのあたりです。打ち込む量が増えるほど、傷も増えます。結晶が傷ついたままでは、電気をうまくコントロールできません。

もう一つ、やっかいなのが「チャネリング」です。結晶には、原子が並んで、トンネルのような通り道ができる方向があり、イオンがそこを通ると、予定より深く入ってしまいます。この現象は、角度にとても敏感なので、再現性のためには避ける必要があります。講義資料によると、多くの注入では、ウェハを7度ほど傾けて打ちます。

必要な場所だけに打ち込む、マスク

ウェハ全体に、同じように打ち込むわけではありません。ScienceDirectの解説によると、イオン注入は、室温に近い物理的な方法なので、通常のリソグラフィと両立して、小さな領域だけをドーピングできます。講義資料も、厚い材料や、密度の高い材料を「マスク」にして、打ち込みたくない場所を守れる、と説明しています。密度の高い材料ほど、イオンを止める力が強い、とのことです。

アニールで、傷を直して、原子を働かせる

では、傷は、どう直すのでしょうか。答えが「アニール」、つまり、熱をかける工程です。講義資料によると、打ち込んだ原子のうち、ドーパントとして働くのは、結晶の決まった位置に収まったものだけです。高温のアニールで、その割合が上がります。言いかえると、シリコン原子の一つと入れ替わるように、結晶の決まった位置(席)に収まった原子だけが、働くのです。打ち込む瞬間は、速いイオンが結晶に突っ込むので、丁寧な入れ替えではありません。そのため、アニールで、席に座り直させる必要があります。

ScienceDirectの解説は、熱処理の方法を二つ紹介しています。一つは、管状の炉を使う方法で、600〜1000度ほどの、低めの温度で行い、横方向の広がりを抑えます。もう一つは、急速加熱アニール(RTA)です。講義資料は、シリコンの場合、傷を消すより、いったん結晶が壊れた層から、結晶を再び育てるほうが、楽なことが多い、とも述べています。

打ち込みで傷ついた結晶が、アニールの熱で直り、原子が決まった位置で働く様子の概念図
アニールで、傷ついた結晶が直る様子を表した模式図。原子の位置は説明用で、実測データではありません。
図の要点

  • 打ち込むと、結晶が傷つく
  • 熱(アニール)で、傷が直る
  • 原子が、決まった位置で働く

ただし、熱をかければ、よいわけではありません。講義資料によると、注入後の高温の工程で、打ち込んだ原子は、広がってしまいます。傷は直したい、でも、原子は広げたくない。この兼ね合いが、アニールの難しさです。

熱が足りないと傷が残り、かけすぎると原子が広がるため、ちょうどよい熱の兼ね合いが必要なことを示した概念図
アニールの熱の兼ね合いを表した模式図。三つの場合の比較は、説明用の例です。
図の要点

  • 熱が足りないと、傷が残る
  • ちょうどよい熱で、傷が直る
  • かけすぎると、原子が広がる

パワー半導体でも、重要さが増している

日新イオン機器の解説によると、近年は、自動車向けのパワーデバイスの製造でも、イオン注入の重要度が増しています。

工程を担当する仕事を、知る

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製造の全体像は、半導体の製造工程の全体像で紹介しています。なお、設備の調整や復旧は、所属する工場やメーカーの正式な手順と、権限のある人の判断のもとで行います。この記事は、考え方の紹介で、設備の操作を指示するものではありません。

ことばのおさらい

  • イオン:電気を帯びた原子です。
  • イオン注入:イオンを加速して、ウェハに打ち込む工程です。
  • ドーズ:打ち込む量のことです。
  • ドーパント:電気の通り方を変えるために混ぜる、原子のことです。
  • ソース・ドレイン:トランジスタの、電気の出入り口です。
  • チャネリング:結晶の通り道を、イオンが深く進んでしまう現象です。
  • アニール:熱をかけて、傷を直し、原子を働かせる工程です。

よくある誤解

Q. イオン注入は、ウェハに溝を掘る工程ですか?

いいえ。溝を掘るのは、エッチングです。イオン注入は、ウェハの中に、原子を入れる工程で、見た目の形は、ほとんど変わりません。

Q. 打ち込んだ原子は、すべて、電気の通り方を変えますか?

いいえ。働くのは、結晶の決まった位置に収まった原子だけです。そのために、アニールが必要になります。

Q. イオン注入は、シリコン原子を、別の原子に置き換える作業ですか?

結果としては、そう言えます。ただし、打ち込む瞬間は、速いイオンがシリコン原子をはじき飛ばしながら止まるので、丁寧な置き換えではありません。止まったイオンが、結晶の席に収まって、はじめて働きます。

まとめ

イオン注入は、ボロンや砒素などのイオンを打ち込んで、電気の通り道を作る工程です。
深さは加速の強さで、量は電流で、別々に決められますが、結晶が傷つき、原子が働かないという弱点があります。
アニールで、傷を直して、原子を働かせます。ただし、熱をかけすぎると、原子が広がります。

YouTubeでも、半導体をやさしく解説しています

図解で復習したい人向けに、YouTubeでも半導体製造を短く解説しています。

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