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半導体のリーク電流とは?切っても漏れる電気の正体

半導体のリーク電流とは?切っても漏れる電気の正体 半導体製造工程
学習レベル★☆☆☆☆初級

スマホを、使わずに置いておいただけなのに、気づくと、電池が少し減っている。そんな経験はありませんか。

画面が消えていても、スマホの中のチップでは、ほんの少しだけ、電気が使われ続けています。その原因のひとつが、「リーク電流」です。スイッチを切っても、少しだけ流れ続けてしまう電気のことです。この記事では、チップが小さくなるほど、なぜリーク電流が問題になるのかを、「水門」のたとえで説明します。

水門のたとえが当てはまるのは、「流れ始める基準の高さがある」「少しのすき間でも漏れる」という考え方の部分だけです。実際のトランジスタの中で、水が流れているわけではありません。

この記事でわかること

  1. この記事の目的:小さくするほど、速さと待機中の電気が引き換えになる理由を、つかむこと
  2. 前半:リーク電流とは何か、昔は問題にならなかった理由
  3. 後半:水門のたとえで見る、しきい電圧と、板ばさみの正体
暗めの部屋の木の机の上に、画面を下にしてスマホが置かれているイメージ
机の上に置かれたスマホのイメージ。実際の場面ではありません。 EP116 記事用画像(AI生成)。生成画像を縮小し、JPEGに最適化。
図の要点

  • 使っていないスマホ
  • 画面は消えている
  • それでも電池が、少しずつ減る
助手

博士、スマホを使っていないのに、どうして電池が減るんですか?

博士

チップの中のスイッチから、電気が少しずつ漏れておるんじゃ。これを、リーク電流という。

助手

スイッチを切ったら、止まるはずですよね?

博士

そこが、今回のおもしろいところじゃ。水門のたとえで、順に見ていこう。

使っていないのに、電気が減る

半導体の中には、「トランジスタ」という、とても小さなスイッチが、たくさん入っています。トランジスタは、電気を流したり、止めたりして、0と1の信号をつくります。ところが、スイッチを切ったはずなのに、少しだけ電気が流れ続けることがあります。EE Times Japanの解説では、この切っているときの電流が、オフ電流、またはサブスレッショルドリーク電流と呼ばれ、増えると、待機中の消費電力が増えるとされています。リーク電流とは、スイッチを切っても、少しだけ流れ続ける電気のことです。

確認クイズ:リーク電流とは、どんな電気でしょう?

答え:スイッチを切っても、少しだけ流れ続ける電気です。

昔は、小さくするだけでよかった

半導体は、トランジスタを小さくするほど、性能が上がってきました。1970年代から1990年代までは、「デナード・スケーリング」という法則に沿って、小さくするだけで、回路が速くなり、消費電力もほとんど増えませんでした。この法則は、1974年に、IBMのデナード氏らが発表したものです。NVIDIAのBill Dally氏の講演を紹介した記事では、寸法を0.7倍にすると、同じ面積に入るトランジスタの数が2倍になり、速さは1.4倍になる、と説明されています。電圧も0.7倍に下げることで、消費電力は、ほとんど変わらずに済んだのです。

さらに、このころは、スイッチを切っているときの電力が、無視できるほど小さいものでした。そのため、リーク電流を、気にする必要がほとんどありませんでした。

1990年代の後半から、漏れが増え始める

ところが、1990年代の後半から、様子が変わります。小さくするにつれて、リーク電流が、急に増え始めたのです。その背景には、速さを保つための、ある事情がありました。次の章から、その事情を、水門にたとえて見ていきます。

スイッチを切っても、少しだけ電気が流れ続けるリーク電流を示した概念図
スイッチを切っても、少しだけ流れ続けるリーク電流を表した模式図。説明用の図です。
図の要点

  • スイッチを切っている
  • それでも少し流れる
  • これが、リーク電流
確認クイズ:リーク電流が急に増え始めたのは、いつごろでしょう?

答え:1990年代の後半からです。

スイッチを、水門にたとえる

トランジスタを、川の水門だと考えてみてください。水門を持ち上げると、水が流れます。ただし、少し持ち上げただけでは、水は流れません。決まった高さを超えてから、はじめて流れ始めます。この、流れ始める高さが、「しきい電圧」です。そして、水門を持ち上げる力が、チップに加える電圧にあたります。

記事によると、流れる電流の大きさは、加える電圧と、しきい電圧の差で決まります。差が大きいほど、たくさん流れます。水門でいえば、基準の高さより、さらに高く持ち上げるほど、水が勢いよく流れる、ということです。

川の水門が少し持ち上げられ、その下から水が流れているイメージ
水門のたとえに使う、水門のイメージ。実際のトランジスタではありません。 EP116 記事用画像(AI生成)。生成画像を縮小し、JPEGに最適化。
図の要点

  • 水門を持ち上げると
  • 水が流れる
  • スイッチを、水門にたとえる
しきい電圧を、水門の基準の高さにたとえ、基準を超えて持ち上げると水が流れる様子を示した概念図
しきい電圧と加える電圧の関係を、水門にたとえた模式図。説明用の図です。
図の要点

  • 流れ始める基準の高さ
  • これが、しきい電圧
  • 超えた分だけ、水が流れる
確認クイズ:水門のたとえで、「基準の高さ」にあたるものは何でしょう?

答え:しきい電圧です。

電圧を下げると、なぜ遅くなるのか

チップは、電気を節約するために、加える電圧を、小さくするたびに、下げてきました。ところが、しきい電圧は、小さくしても、あまり変わりません。すると、持ち上げる高さが、基準の高さに近づきます。つまり、加える電圧としきい電圧の差が縮まり、流れる電気が、減ってしまいます。EE Times Japanの記事では、流れる電流が、この差の2乗に比例すると説明されています。そのため、差が小さくなると、電流は、差の縮まり方以上に、大きく減ってしまうのです。

電気が減ると、次のスイッチが動き出すまでに、時間がかかります。回路の速さは、前のスイッチから流れる電気が、次のスイッチを動かすまでの時間に、大きく左右されるためです。だから、電圧を下げただけでは、チップが速くなりません。

確認クイズ:電圧を下げると、流れる電気が減るのは、なぜでしょう?

答え:加える電圧としきい電圧の差が、縮まるからです。

基準を低くすると、今度は漏れる

そこで考えられた方法が、しきい電圧を、下げることでした。基準の高さを低くすれば、少し持ち上げるだけで、水がしっかり流れるので、速さを保てます。電子情報通信学会の講演抄録でも、微細化に伴って、しきい電圧を下げながら、電源電圧を下げてきたことが、紹介されています。

ところが、基準が低いと、わずかなすき間からでも、水が通ってしまいます。閉じたはずの水門から、水がじわじわ漏れるのです。これが、リーク電流です。しきい電圧を下げるほど、切っているときに漏れる電気が、増えてしまいます。使っていないときも、電気が減っていくのは、このためです。

確認クイズ:しきい電圧を下げると、何が増えるでしょう?

答え:切っているときに漏れる電気、つまりリーク電流です。

下げなければ、動いているときの電気が増える

では、しきい電圧を、下げなければ、どうでしょう。漏れは増えません。でも今度は、加える電圧を下げられなくなります。電流を確保するには、電圧の差を保つ必要があるためです。すると、チップが動いているときの電気が、大きく増えてしまいます。

速さと待機中の電気は、引き換えになる

つまり、速さを取れば、待機中に漏れる。漏れを抑えれば、動いているときに電気を使う。チップは、この板ばさみになりました。EE Times Japanの記事では、この状況が、かつてのデナード・スケーリングの終わりとして説明されています。

この板ばさみから抜け出すために、トランジスタの形や、材料が、変えられてきました。電子情報通信学会の抄録でも、歪みシリコンや、Fin-FETなどが、性能を上げる方法として挙げられています。次回以降の記事で、その方法を、ひとつずつ見ていきます。

しきい電圧を下げた場合と下げない場合の、板ばさみの関係を示した概念図
しきい電圧を下げた場合と下げない場合の、板ばさみの関係を表した模式図。説明用の図です。
図の要点

  • 下げると、速さは保てる
  • でも待機中に漏れる
  • 下げないと、動作中の電気が増える
確認クイズ:チップが「板ばさみ」になった、とは、どういうことでしょう?

答え:速さを取ると、待機中に漏れる電気が増え、漏れを抑えると、動いているときの電気が増える、ということです。

工程を担当する仕事を、知る

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製造の全体像は、半導体の製造工程の全体像で紹介しています。

ことばのおさらい

  • トランジスタ:電気を流したり、止めたりする、とても小さなスイッチです。
  • リーク電流:スイッチを切っても、少しだけ流れ続ける電気です。
  • しきい電圧:スイッチが入り始める電圧です。水門でいえば、流れ始める基準の高さです。
  • 待機中:チップが、何も処理をしていない状態です。
  • 電源電圧:チップに加える電圧のことです。水門でいえば、持ち上げる力にあたります。
  • 微細化:トランジスタを、小さく作ることです。

よくある誤解

Q. リーク電流は、スイッチが壊れているから起こるのですか?

いいえ。正常に動くトランジスタでも、切っているときに、少しだけ電気が流れます。しきい電圧を低くするほど、増えます。

Q. 電圧を下げれば、必ず速くなりますか?

いいえ。電圧を下げると、流れる電気が減って、かえって速さが上がらなくなります。

Q. しきい電圧を下げれば、問題は解決しますか?

いいえ。速さは保てますが、切っているときの漏れが増えて、待機中の電気が、増えてしまいます。しきい電圧を下げるかどうかは、速さと待機中の電気の、どちらを重くみるかという、引き換えの問題です。

まとめ

リーク電流は、スイッチを切っても、少しだけ流れ続ける電気で、1990年代の後半から、急に増え始めました。
速さを保つために、しきい電圧を下げると、切っているときに、漏れる電気が増えます。
しきい電圧を下げなければ、電圧を下げられず、動いているときの電気が増えるため、チップは、板ばさみになりました。

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