板のあいだにはさんだ材料だけを、板を傷つけずに、取り除きたい。ところが、取り除く材料も、残す板も、どちらもシリコンの仲間です。これを、どうやって見分けて削るのでしょうか。
答えは「選択エッチング」です。この記事では、GAAトランジスタを作る途中の、「SiGeだけを取り除く」工程を、なぜ難しいのか、どう実現しているのかという順に、半導体の仕事を目指す方に向けて説明します。
この記事は、前回の記事(板を宙に浮かせるために、SiとSiGeを交互に積む工程)の続きです。ここでは、積んだあとに、SiGeだけを取り除く工程を扱います。出典は、記事の最後にまとめています。
この記事でわかること
- この記事の目的:SiGeだけを取り除く工程が、なぜ難しく、どんな工夫で実現されているのかを、つかむこと
- 前半:取り除く目的と、「見分けて削る」という困りごと、選択エッチングという解決策
- 後半:削り方の種類、「選択比」という指標、高い選択比が必要な理由と工夫

- 似た材料から片方だけ
- ピンセットのたとえ
- 実際は化学反応の違いで選ぶ
博士、板のあいだのSiGeだけを取り除くって、どうやるんですか?どちらもシリコンの仲間ですよね。
そこで使うのが、狙った材料だけを削る「選択エッチング」じゃ。
それって、どれくらい上手に選べるんですか?
削れやすさの比を「選択比」というんじゃ。順に見ていこう。
何のために、SiGeを取り除くのか
GAAのトランジスタでは、ゲートが、電気の通り道(ナノシート)を、まわり全部で囲みます。そのためには、シリコンの板を、宙に浮かせなければなりません。そこで、板のあいだに、あとで取り除く材料としてSiGe(シリコンゲルマニウム)をはさんで積んでおき、積み終わってから、SiGeだけを取り除きます。この工程は「チャネル解放」と呼ばれます。
取り除く目的は、シリコンの板のまわりに空間をつくり、ゲートが板を囲めるようにすることです。
確認クイズ:SiGeを取り除く目的は、何ですか?
答え:シリコンの板のまわりに空間をつくり、ゲートが板を囲めるようにするためです。
困りごと:取り除く層も、残す板も、シリコンの仲間
ここで、難しい問題が出てきます。取り除くSiGeは、シリコンにゲルマニウムを混ぜた材料です。つまり、残したい板のシリコンと、取り除きたいSiGeは、どちらもシリコンを含む、よく似た材料です。しかも、その厚さは、数ナノメートルしかありません。
似た材料の片方だけを削るのは、混ざった色違いのビーズから、青いビーズだけを、ピンセットでつまみ出すようなものです。これは、あくまでたとえで、実際の工程では、薬品やガスが、化学的な反応の違いを使って、削る材料を選びます。
確認クイズ:取り除く層と残す板の、難しいところは何ですか?
答え:どちらもシリコンを含む、よく似た材料なので、片方だけを削る必要があることです。
解決策:狙った材料だけを削る「選択エッチング」
この問題への答えが、「選択エッチング」です。エッチングは、材料を削り取る工程のことで、その中でも、狙った材料だけを削り、ほかの材料は削らないものを、選択エッチングと呼びます。シリコンはほとんど削らずに、SiGeだけを取り除く選択エッチングが、実際に使われています。
この選択エッチングは、積み終わったあとの、チャネル解放の工程だけでなく、板のあいだの小さな壁(内側スペーサー)をつくる前の、凹みをつくる工程にも必要とされます。同じ、SiGeの選択エッチングが、GAAの製造の中で、複数回、重要な役割を担っています。

- Siは削らない
- SiGeだけ取り除く
- これが選択エッチング
確認クイズ:選択エッチングとは、どんなエッチングですか?
答え:狙った材料だけを削り、ほかの材料は削らないエッチングです。
削り方その1:プラズマで削るドライエッチング
削り方の1つが、プラズマを使う「ドライエッチング」です。液体の薬品ではなく、ガスをプラズマの状態にして、材料を削ります。ガスには、CF4(四フッ化炭素)やNF3(三フッ化窒素)が、主に使われます。そこに、アルゴン、酸素、ヘリウムなどを、補助のガスとして加えて、削り具合を整えます。
板のあいだの、せまい隙間のSiGeを削るには、板のまわりに回り込むように、あらゆる向きに削る「等方性」のエッチングが必要です。実際には、リモートプラズマ(プラズマを少し離れた場所で作り、削りたい場所へ送る方式)による、等方性のドライエッチングが使われています。

- プラズマで削る
- CF4・NF3などのガス
- あらゆる向きに削る
確認クイズ:ドライエッチングには、主にどんなガスが使われますか?
答え:CF4やNF3などです。アルゴン、酸素、ヘリウムなどを、補助に加えます。
削り方その2:ガスで削る方法と、その難点
プラズマを使わずに、塩化水素(HCl)のガスで、SiGeを削る方法もあります。半導体を結晶成長させる装置(CVD装置)の中で、そのまま削れる利点があります。ただし、高い温度の環境が必要なことと、結晶の向きによって削れ方が変わることが、難点とされています。
このため、削る形や均一さを、きれいにそろえたい場面では、プラズマを使うドライエッチングが、好まれることがあります。どの方法を選ぶかは、狙う形や、前後の工程によって、変わります。
確認クイズ:塩化水素のガスで削る方法の、難点は何ですか?
答え:高い温度が必要なことと、結晶の向きによって削れ方が変わることです。
「選択比」とは:削れやすさの比
選択エッチングの性能を表す指標が、「選択比」です。SiGeが、シリコンより、どれだけ削れやすいかを表す、削れる速さの比です。たとえば、選択比が34なら、SiGeは、シリコンの34倍の速さで削れる、という意味です。
さまざまな選択比が報告されています。あるドライエッチングでは、SiGeのシリコンに対する選択比は34でした。別の、チャネル解放の方法では、およそ168対1という選択比が報告されています。ただし、これらは、条件の違う別々の研究の値です。直接、比べることはできません。

- 選択比=削れやすさの比
- 34と約168
- 条件が違い、直接は比べられない
確認クイズ:選択比とは、何の比ですか?
答え:SiGeが、シリコンより、どれだけ削れやすいか、という削れる速さの比です。
なぜ、ここまで高い選択比が必要なのか
理由は、SiGeがなくなった瞬間から、シリコンが、急に削られ始めるからです。SiGeを完全に取り除いたあと、シリコンの削れる速さが、大きく上がることが指摘されています。取り除く層のSiGeがなくなっても、エッチングを続けると、残したいシリコンの板が、削られてしまいます。
さらに、チップの上には、幅の違う板が、同じ工程で作られることがあります。幅が30ナノメートルから80ナノメートルの板を、まとめて解放する方法が調べられています。細い板のSiGeは、先に抜けて、太い板のSiGeは、あとで抜けます。先に抜けた板は、太い板のSiGeが抜けるまで、エッチングにさらされ続けます。そのため、選択比は、高いほど、有利です。

- SiGeがなくなると
- Siが急に削られ始める
- だから高い選択比が必要
確認クイズ:SiGeがなくなると、何が起きますか?
答え:残したいシリコンの板が、急に削られ始めます。
工夫:工程を分けて、少しずつ取り除く
選択比を高めるための工夫の1つが、工程を分けることです。SiGeを、複数の工程に分けて取り除く方法が示されています。その中には、プラズマを使わずに、自然に酸化する方法に近い、酸化の工程が含まれています。プラズマを使わないので、プラズマによる損傷を、避けられるというわけです。
板の幅が違っても、できるだけそろった間隔で、板が宙に浮くように、段階を踏んで取り除く。そうした工夫によって、選択比と、仕上がりのそろい具合を、両立させようとしています。
確認クイズ:酸化の工程を、プラズマなしで行うと、何がよいのですか?
答え:プラズマによる損傷を、避けられることです。
現場の視点:削った量を測る
SiGeの選択エッチングは、「どれだけ削れたか」を、測ることも大切です。板のあいだのSiGeを、横から少し削って凹みをつくる工程(凹み加工)は、内側スペーサーをつくる前の、大事な工程とされ、その深さを、チップを壊さずに測る方法が、検討されています。削る工程と、測る工程は、セットで考えられています。こうした計測の仕事は、半導体の「検査・計測」の分野につながります。
確認クイズ:凹み加工の深さを測るのは、なぜですか?
答え:次の、内側スペーサーをつくる工程の品質に関わるからです。
ことばのおさらい
- エッチング:材料を削り取る工程です。
- 選択エッチング:狙った材料だけを削り、ほかの材料は削らないエッチングです。
- 選択比:SiGeが、シリコンより、どれだけ削れやすいかを表す、削れる速さの比です。
- ドライエッチング:ガスをプラズマにして、材料を削る方法です。
- 等方性エッチング:あらゆる向きに、同じように削るエッチングです。
- チャネル解放:SiGeを取り除いて、シリコンの板を、宙に浮かせる工程です。
よくある誤解
Q. SiGeを取り除くとき、シリコンの板は、まったく削れないのですか?
いいえ。選択比が高くても、シリコンが、まったく削れないわけではありません。削れる速さが、SiGeに比べて、とても小さいということです。だからこそ、選択比を、できるだけ高くする工夫が必要になります。
Q. 選択比が高ければ高いほど、いつでもよいのですか?
選択比が高いことは、重要ですが、それだけで決まるわけではありません。削る形のきれいさや、削った量のそろい具合、プラズマによる損傷の少なさも、あわせて考えられます。
まとめ
板を残して、あいだのSiGeだけを取り除くには、狙った材料だけを削る、選択エッチングを使います。
削る方法には、プラズマを使うドライエッチングや、ガスを使う方法があり、削りやすさの比(選択比)が、重要な指標です。
SiGeがなくなると、シリコンが急に削られるため、高い選択比と、工程を分ける工夫が必要になります。
次の記事では、板のあいだにつくる、小さな壁(内側スペーサー)を、説明します。
付記:この記事の根拠
| 記事の内容 | 主な根拠 |
|---|---|
| SiGeは、チャネル解放で取り除かれ、シリコンが板として残る | S01 imec |
| 狙った材料だけを削る選択エッチング。シリコンを削らずにSiGeを取り除く | S04 GlobalFoundries特許 |
| 内側スペーサー前の凹み形成と、チャネル解放の、どちらにも選択エッチングが必要 | S02 中国科学院微電子研究所ほか |
| CF4・NF3などのガス、リモートプラズマの等方性エッチング | S02、S03 復旦大学ほか |
| 塩化水素ガスの難点(高温・結晶の向き) | S02 |
| 選択比34、およそ168対1(条件が違う別々の研究) | S02、S03 |
| SiGeがなくなるとシリコンが急に削られる。幅30〜80ナノメートルの板 | S03 |
| プラズマを使わない酸化を含む、複数工程の解放 | S03 |
| 凹み加工の深さを測る方法の検討 | S05 IBM Researchほか |
| 「どちらもシリコンの仲間」「選択比は削れる速さの比」の説明 | 上の資料からの定義・説明(資料がそのまま述べたものではありません) |
参考にした公式情報
- imec「The near-term logic technology roadmap: three generations of GAA nanosheet technology」
- Liuほか「Study of Selective Dry Etching Effects of 15-Cycle Si0.7Ge0.3/Si Multilayer Structure in Gate-All-Around Transistor Process」(Nanomaterials, 2023)
- Sunほか「A Novel Si Nanosheet Channel Release Process for the Fabrication of Gate-All-Around Transistors and Its Mechanism Investigation」(Nanomaterials, 2023)
- GlobalFoundries特許 US10297664B2「Nanosheet transistor with uniform effective gate length」
- IBM Researchほか「Development of SiGe Indentation Process Control for Gate-All-Around FET Technology Enablement」(arXiv:2201.04725)
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