この講で答える問いは1つです。
「電子と正孔は、実際にどうやって電気を運ぶのか」
答え:電圧をかけられると押されて進み(ドリフト)、濃い所から薄い所へ広がる(拡散)。この2つの動きで、電気が流れます。
この記事でわかること
- ① 電子はどう動くか
- ② 正孔はどう動くか
- ③ 動きやすさ(移動度)
- ④ 温度とドーピングの影響
- ⑤ 濃い所から広がる動き(拡散)
各節の「くわしく見る」は式や計算で確かめたい人向けです。
① 電子は、電気の力で押されて進む(ドリフト)
大事なポイント:電圧をかけると、電子は一定の向きに、ぶつかりながら進みます。
まず、なぜ電子は+側へ進むのか。電気には「+」と「−」の2種類があり、同じ種類は反発し、ちがう種類は引き合います(磁石のN極とS極と同じです)。電子は「−」の電気をもつ粒です。だから、「+」には引き寄せられ、「−」からは押しのけられます。
電圧をかけると、結晶の中に、電気の力(電界)が生まれます。電子は負の電気をもつので、電界と逆向き、つまり+側へ押されます。ただし、まっすぐは進めません。結晶の原子や、混ぜた不純物にぶつかっては向きを変え、また押されて進む、をくり返します。このとき、全体としてゆっくり一定の向きに進む動きをドリフトと呼びます。
確認クイズ:電圧をかけたとき、電子は+側と−側のどちらへ進むでしょう?
答え:+側です(電子は負の電気をもつため)。
くわしく見る:進む速さの式
電子が進む平均の速さ(ドリフト速度)v は、電界の強さ E に比例します。
v = μ E
比例の係数 μ(ミュー)が、あとで説明する移動度です。電界を2倍にすれば、速さも2倍になります。
② 正孔は、「穴」が隣へ移ることで進む
大事なポイント:正孔は、電子の抜けた穴です。穴が動くとは、隣の電子が穴へ移ることです。
そもそも、正孔とは何か。半導体の結晶の中では、電子が、原子のまわりの「席」にぎっしり座っています。席がすべて埋まっていると、電子は動けません。ここで、何かの理由で、電子が1つ抜けると、その席だけが空席になります。この電子の抜けた空席が「正孔(ホール)」です。p型の半導体では、ホウ素を混ぜたせいで、この空席が最初から用意されています。 ▶ 2級でくわしく
なぜ空席が、右(−側)へ進むのか。空席の隣に座っている電子は、+側(左)へ引かれているので、空席があれば、そこへ移ります。電子が左へ移ると、電子がいた席が空きます。つまり、電子が左へ動くたびに、空席は右へ動きます。空席は、電子と逆向きに動くのです。
さらに、空席の場所は、電子が1つ足りないぶん、まわりに比べて「+」の電気がかたよります。そのため、空席は、まるで「+の電気をもつ粒」が、右(−側)へ引かれて進んでいるように見えます。実際に動いているのは電子ですが、「+の粒が動く」と考えるほうが、計算も説明も楽になります。
満員の客席で、1つだけ空いた席を考えてください。隣の人が空席へ移ると、空席は反対側へ移ります。人が動いているのに、見ている「空席」は逆向きに動きます。正孔の動きも、これと同じです。穴は正の電気(+e)をもつ粒のようにふるまうので、電界と同じ向き、つまり−側へ進みます。
確認クイズ:正孔が動くとき、実際に動いているのは何でしょう?
答え:隣の電子です。電子が穴へ移るたびに、穴が反対側へ移ります。
③ 動きやすさ(移動度):電子のほうが速い
大事なポイント:同じ電界でも、電子のほうが正孔より速く進みます。この「動きやすさ」を移動度といいます。
電界あたりの進む速さを移動度といい、cm²/(V·s)という単位で書きます。シリコンの室温での値は、電子が約1,400、正孔が約450です(電子の値は文献により約1,000とされることもあります)。ほとんどの半導体で、正孔は電子より、動きにくくなっています。
確認クイズ:シリコンで、移動度が大きいのは、電子と正孔のどちらでしょう?
答え:電子です(約1,400、正孔は約450)。
くわしく見る:なぜ正孔は動きにくいのか/電気の通りやすさの式
移動度は、次の式で表されます。
μ = e τ / m*
τ は、ぶつかってから次にぶつかるまでの時間、m* は粒の「動かしにくさ」(有効質量)です。多くの半導体で、正孔の m* は電子より大きいので、同じ時間でぶつかっても、正孔は加速しにくく、移動度が小さくなります。
前回の式は、移動度を使って次のように書けます。
σ = e ( n μn + p μp )
n型の半導体では、n が p よりはるかに多いので、σ ≒ e n μn と近似できます。
④ 温度が上がると、動きやすさは下がる
大事なポイント:温度を上げると、電子の数は増えますが、1個あたりの動きやすさは下がります。
前の講では、温度が上がると半導体は電気を通しやすくなる、と学びました。ここで注意が1つあります。温度が上がると、結晶の原子の揺れが激しくなり、電子や正孔が、原子にぶつかる回数が増えます。そのため、移動度は下がります。つまり、温度には、「電子の数が増える(通しやすくなる)」と「動きにくくなる(通しにくくなる)」の、2つの効果があります。純粋な半導体では、数が増える効果が大きく、全体として通しやすくなります。ドーピングで数がすでに多い半導体では、動きにくくなる効果が前に出る温度もあります。
また、不純物を多く混ぜるほど、不純物のイオンにぶつかる機会が増えるため、移動度は下がります。
確認クイズ:温度が上がると、移動度はどうなるでしょう?
答え:下がります(原子の揺れが増え、ぶつかる回数が増えるため)。
くわしく見る:数値で確かめる(n型シリコンの例)
シリコンの電子の移動度の温度依存は、おおよそ T−2.4 に比例するとされます(室温付近・不純物が少ない場合)。たとえば、温度(絶対温度)が300Kから360Kに上がると、移動度は次のように変わります。
(360 ÷ 300)−2.4 = 1.2−2.4 ≈ 0.65
約65%に下がります。
次に、リンを1立方センチメートルあたり1017個混ぜたn型シリコンの電気の通りやすさを見積もります。不純物が多いときの移動度の近似式(シリコン・室温・弱い電界に限った経験式)は、
μn ≈ 65 + 1265 / { 1 + ( ND / 8.5×1016 )0.72 }
ND = 1017 を入れると、(1017 ÷ 8.5×1016)0.72 ≈ 1.12 なので、μn ≈ 65 + 1265 ÷ 2.12 ≈ 660 cm²/(V·s)。不純物が少ないときの約1,400より、半分以下になっています。電気の通りやすさは、
σ ≒ e n μn = 1.6×10−19 × 1017 × 660 ≈ 10.6 S/cm
になります(S/cm は、1cmの立方体の通りやすさの単位です)。
⑤ 濃い所から薄い所へ広がる動き(拡散)
大事なポイント:電圧がなくても、電子や正孔は、濃い所から薄い所へ広がって動きます。これも電気の流れです。
水にインクを1滴落とすと、電圧や風がなくても、色が自然に広がります。粒の数に偏りがあると、粒は、濃い所から薄い所へと、ばらけるように動きます。これが拡散です。電子も正孔も、数に偏りがあれば拡散し、その動きは電気の流れ(拡散電流)になります。次の講で学ぶPN接合は、この拡散が出発点です。
確認クイズ:電圧がなくても、粒が広がって動く現象を、何というでしょう?
答え:拡散です。
くわしく見る:ドリフトと拡散の式
電子と正孔の電流は、ドリフトと拡散の2つの足し算で表されます(n・p は数、q は電気の量)。
電子のドリフト電流:J = q n μn E
拡散電流:J = q Dn ( dn / dx )
Dn は拡散のしやすさ(拡散係数)で、移動度とはアインシュタインの関係
Dn = μn kT / q
でつながっています。動きやすい粒は、拡散もしやすい、ということです。電子は正孔より拡散係数が大きく、速く広がります。
電子は電圧で押されて+側へ進み、正孔は穴が隣へ移ることで−側へ進み、どちらもドリフトで電気を運びます。
動きやすさ(移動度)は電子のほうが大きく、温度が上がる、不純物が増えると下がります。
電圧がなくても、粒は濃い所から薄い所へ拡散し、これが次の講のPN接合の出発点です。
次の講では、p型とn型をつなぐ「PN接合」が、なぜ電気を一方向だけ通すのかを見ていきます。
ことばのおさらい
- 電界:電圧をかけたときに生まれる、電気の力の向きと強さです。
- ドリフト:電界に押されて、粒が一定の向きに進む動きです。
- 正孔(ホール):電子の抜けた穴で、正の電気を運ぶ粒のようにふるまいます。
- 移動度:電界あたりの進む速さで、動きやすさを表します。
- 拡散:粒が、濃い所から薄い所へ広がる動きです。
よくある誤解
Q. 正孔は、本物の粒が動いているのですか?
いいえ。実際に動いているのは、隣へ移る電子です。電子の抜けた「穴」が動いて見えるので、粒のように扱います。
Q. 温度が上がれば、電気は必ず通りやすくなりますか?
いいえ。電子の数は増えますが、動きやすさ(移動度)は下がります。2つの効果の釣り合いで決まります。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Electron mobility」(移動度、シリコンの値、温度・不純物の影響、導電率の式)
- Wikipedia「Electron hole」(正孔のしくみ、電荷、有効質量)
- Wikipedia「Drift–diffusion equation」(ドリフト電流、拡散電流、アインシュタインの関係)
式の形は、半導体物理の一般的な知識にもとづく目安です。図は、記事用に描いた簡易の図です。

