第3講で、RCA洗浄の流れを見ました。SC-1のあとも、SC-2のあとも、「純水ですすぐ」という段階がありました。そして最後に、「乾燥」があります。
この講では、すすぎに使う水と、乾かし方を見ます。洗った表面を、最後に汚さないための、大事な仕上げです。
この記事でわかること
- 超純水と、抵抗率(水のきれいさの目安)
- すすぎ水の不純物が、ウェハに与える影響
- 乾燥で起きるウォーターマーク
- 乾燥の方法(マランゴニ乾燥)
① 洗ったあとの「すすぎ」は、純水で
第3講の図1で、SC-1のあとにも、SC-2のあとにも、「純水ですすぐ」という段階がありました。薬液を洗い流す、大事な作業です。ここで使う水は、水道水ではなく、超純水(ちょうじゅんすい)といいます。イオンなどの不純物を、ほとんど取りのぞいた水です。
どれだけきれいかは、抵抗率(ていこうりつ)で表します。抵抗率は、電気の通りにくさです。水にイオンが多くとけているほど、電気は通りやすい(抵抗率は低い)ので、抵抗率が高いほど、イオンが少ない、きれいな水です。単位は、MΩ·cm(メグオーム・センチメートル)です。
ASTM(米国の規格団体)の「電子・半導体産業で使う超純水のガイド」(D5127)は、細い線幅(0.35〜0.032マイクロメートル)の世代で、水の使用場所での抵抗率として、18.2 MΩ·cm(25℃)を挙げています。理論上の上限は、イオンがまったくない水でも、18.25 MΩ·cmとされています。2015年のITRSの指針は、18.0より大きい値を求めています。
理論上の上限18.25と、規格の18.2の差は、18.25 − 18.2 = 0.05。ほとんど、限界まできれいな水を使うということです。
抵抗率の逆数が、電気の通りやすさ(導電率)です。1 ÷ 18.2 ≒ 0.055マイクロジーメンス/センチメートル。ほとんど電気を通さない水です。
確認クイズ:超純水で、抵抗率が高いことは、何を意味しますか?
答え:水の中のイオン(不純物)が少ないことです。
② すすぎ水の不純物は、どうなる?
すすぎ水にイオンが残っていると、ウェハの表面に付き、電気の特性に悪い影響を与えることがあります。さらに、純水は、ウェハのシリコンを、ごくわずかに溶かす性質があると、解説に書かれています。きれいだから、安全というわけではなく、すすぎの時間や、その後の乾かし方まで、考える必要があるのです。
③ 乾燥で、「ウォーターマーク」ができる
すすぎのあとは、水を乾かします。ここで、水が蒸発すると、水にとけていたシリコン化合物などが、ウェハの表面に残ります。この跡を、ウォーターマーク(水の跡)といいます。見た目は、小さな染みですが、微細な線のあいだに入りこむと、不良の原因になります。
つまり、水をただ蒸発させるのではなく、蒸発の前に、水をウェハから取りのぞくことが大事です。
確認クイズ:ウォーターマークは、どのようにしてできますか?
答え:ウェハの表面に残った水が蒸発し、水にとけていたシリコン化合物などが、跡として残ってできます。
④ マランゴニ乾燥:表面張力の差を使う
特許の資料によると、スピン乾燥(ウェハを回して水を飛ばす)や、IPA蒸気乾燥だけでは、ウォーターマークを、完全には消せない場合があります。そのため、マランゴニ乾燥が、広く使われています。
マランゴニ乾燥は、水面の上に、IPA(イソプロピルアルコール)の蒸気をただよわせ、その中を通して、ウェハをゆっくり引き上げる方法です。IPAは、水より表面張力(液の表面が縮もうとする力)が小さいため、一般に、その差が、ウェハの面から水を引き離す向きに働くと説明されます。
ある特許は、20℃での表面張力を、IPAが約21、水が約72(単位はダイン/センチメートル)としています。72 ÷ 21 ≒ 約3.4倍。水のほうが、約3.4倍、表面が縮もうとする力が強いのです。
超純水をつくる設備の、くわしい説明は、装置メーカー(MKS)の紹介ページで読めます。
確認クイズ:マランゴニ乾燥が、広く使われるのは、なぜですか?
答え:スピン乾燥や、IPA蒸気乾燥だけでは、ウォーターマークを完全には消せない場合があるためです。
すすぎには超純水を使い、きれいさは抵抗率(18.2 MΩ·cm前後)で表す。乾燥で水が蒸発すると、ウォーターマークが残る。だから、蒸発の前に水を取りのぞく。マランゴニ乾燥は、IPAの表面張力が水より小さいことを使う。
次の講では、洗浄で使う薬液の中でも、特に注意が必要なフッ酸の扱いを見ます。
ことばのおさらい
超純水:イオンなどの不純物を、ほとんど取りのぞいた水です。
抵抗率:電気の通りにくさ。水では、高いほど、イオンが少ないことを表します。
ウォーターマーク:水が蒸発して、残った不純物が、跡になったものです。
IPA:イソプロピルアルコール。水より表面張力が小さい液体です。
表面張力:液の表面が、縮もうとする力です。
よくある誤解
Q. 純水なら、ウェハを傷めない、安全な水ですか?
いいえ。純水は、ウェハのシリコンを、ごくわずかに溶かす性質があると、解説に書かれています。時間や、乾かし方まで考えます。
Q. 乾燥は、ただ水を蒸発させればよいのですか?
いいえ。蒸発すると、ウォーターマークが残ります。蒸発の前に、水を取りのぞくことが大事です。
参考にした情報
- ASTM D5127-12「Standard Guide for Ultra-Pure Water Used in the Electronics and Semiconductor Industries」(抵抗率18.2 MΩ·cm、理論上の上限18.25)
- MKS「Ultrapure Water for Semiconductor Manufacturing」(装置メーカーの紹介ページ。副次的な資料)
- US5934299A「Apparatus and method for improved washing and drying of semiconductor wafers」(マランゴニ乾燥、ウォーターマーク、表面張力の数値。特許の記述)

