スマホを使っていると、動きが重くなったり、本体が熱くなったり、電池がどんどん減ったりすることがあります。原因はいろいろですが、そのひとつが、半導体のチップの中の、配線のあいだにあります。
チップの中には、細い金属の配線が、すき間なく並んでいます。配線のあいだには、電気を通さない材料が入っていて、この材料を「絶縁膜」と呼びます。実は、この絶縁膜を、わざと「スカスカ」にする工夫によって、チップの速さと省エネが支えられています。この記事では、その理由を、順に説明します。
スマホの重さや熱さの原因は、ほかにもたくさんあります。この記事は、そのうち、チップの中の配線に関係する部分だけを取り上げます。
この記事でわかること
- この記事の目的:配線のあいだの絶縁膜を、なぜスカスカにするのかを、つかむこと
- 前半:配線が細く近づくと、何が困るのか(配線容量と比誘電率)
- 後半:low-k材料の進化、その弱点と対策、エアギャップ

- チップの中に、細い配線が並ぶ
- 配線のあいだには、絶縁膜がある
- 配線が近いほど、電気がたまりやすい
博士、スマホが熱くなるのは、チップの配線にも原因があるんですか?
そうじゃ。配線のあいだに電気がたまると、遅くなって、電気も余分に使うんじゃ。
どうすれば、電気がたまりにくくなりますか?
配線のあいだの材料を、電気をためにくいものに変えるんじゃ。順に、見ていこう。
困りごとの正体は、配線を伝わる信号の遅さ(RC遅延)
チップの中では、トランジスタ同士が、細い金属の配線でつながれています。トランジスタで計算が行われ、その結果は、配線を通して伝えられます。カリフォルニア大学サンタバーバラ校の講義資料では、チップの性能を決める大きな要因が、配線を信号が伝わるのにかかる時間になった、と説明されています。チップが速く動けるかどうかは、トランジスタだけでなく、配線にも大きく左右されます。
しかも、チップが小さく、速くなるほど、配線は細くなり、おたがいに近づきます。EE Times Japanの記事でも、微細化が進むほど、配線のあいだに使われる低い比誘電率の材料が重要になる、と述べられています。
確認クイズ:チップの速さを左右するのは、トランジスタだけでしょうか?
答え:いいえ。配線を信号が伝わる速さにも、大きく左右されます。
配線のあいだに電気がたまる「配線容量」
配線どうしが近づくと、そのあいだに、電気が少しずつたまります。電気をためる部品を「コンデンサ」と呼びますが、近くにある2本の配線は、あいだに絶縁膜をはさんだ、小さなコンデンサのようなものになります。この、たまる電気の量を「配線容量」といいます。講義資料によると、コンデンサの容量は、向かい合う面積が大きいほど、距離が近いほど、そして間の材料が電気をためやすいほど、大きくなります。
配線容量が増えると、信号が伝わるのに時間がかかるようになります。さらに、EE Times Japanの記事によると、消費電力も増えてしまいます。配線容量が大きいと、信号が伝わるのに時間がかかり、電気も余分に使われます。電池が減る、熱くなる、という困りごとにつながるわけです。

- 配線が細く、近づく
- 配線容量が増える
- 遅くなり、電気も余分に使う
確認クイズ:配線が近づくと、増えるのは何でしょう?
答え:配線のあいだにたまる電気の量、つまり配線容量です。
絶縁膜と「比誘電率」
配線容量を小さくするには、配線を離せばいいのですが、チップを小さくするためには、離せません。そこで、配線のあいだの「絶縁膜」を、電気をためにくい材料に変える方法が使われます。講義資料のコンデンサの式では、容量は、間の材料の「比誘電率」に比例します。比誘電率は、材料の電気のためやすさを表す数字で、小さいほど、ためにくい材料です。
配線の金属を、アルミから銅に変える方法もあります。講義資料によると、抵抗率は、アルミが2.65、銅が1.67(単位はμΩ·cm)で、抵抗が下がるのは、2倍にも届きません。そのため、抵抗と容量の両方を減らすことが大切だと説明されています。

- ガラスから、少しずつ数字を下げる
- フッ素、炭素、穴で、工夫を重ねる
- 数字が小さいほど、ためにくい
確認クイズ:比誘電率が小さい材料は、電気をためやすいでしょうか、ためにくいでしょうか?
答え:ためにくい材料です。配線容量を小さくできます。
ガラスから、low-k材料へ
IBMの論文によると、絶縁膜は、最初、二酸化ケイ素(ガラスの仲間)でした。熱にも薬品にも強く、硬くて、水分を通しにくく、きれいな膜を作りやすいという、使いやすい材料です。欠点は、比誘電率が高めなことでした。
そこで、比誘電率の低い「low-k材料」が使われるようになります。まず、ガラスにフッ素を混ぜて、比誘電率を約3.5まで下げた材料が、130ナノメートルの世代で使われました。次に、炭素を混ぜた材料(SiCOHと呼ばれます)が登場し、穴のない状態で、比誘電率はおよそ2.7から3.0です。炭素を混ぜると、材料の密度が下がり、比誘電率も下がります。
確認クイズ:最初にlow-kとして使われた工夫は、ガラスに何を混ぜることでしょう?
答え:フッ素です。比誘電率は、約3.5まで下がりました。
すきまだらけにする「多孔質(ポーラス)low-k」で比誘電率を下げる
さらに下げるために、材料に小さな穴を開けて、すきまだらけの「多孔質」にします。IBMの論文では、穴を加えることで、比誘電率が2.2以下になる、と述べられています。45ナノメートル以下の世代で、多孔質の材料が使われています。
穴の作り方の例は、EE Times Japanで紹介されています。アルバックの材料は、絶縁膜のもとになる成分に、界面活性剤を混ぜた溶液で、焼くと、界面活性剤が型となって穴ができ、すきまだらけのガラスになります。穴が増えたぶんだけ、電気をためにくい材料になります。求められる比誘電率の値は、世代が進むほど低くなります。EE Times Japanの記事では、32ナノメートルの世代で2.2〜2.4、22ナノメートルの世代で2.0〜2.2、さらに先の世代では2.0以下が必要とされています。

- 小さな穴が、たくさん開いている
- 穴のぶんだけ、ためにくくなる
- そのかわり、もろくなりやすい
確認クイズ:多孔質の材料は、どうして比誘電率が低いのでしょう?
答え:小さな穴(すきま)が増えるぶんだけ、電気をためにくくなるからです。
もろさと水分:弱点と対策
ただし、すきまだらけの膜には、弱点があります。IBMの論文によると、弾性率(かたさの目安)がガラスよりずっと低く、もろいため、銅を磨く工程で、膜がはがれないようにする工夫が必要です。たとえば、ダミーの金属を置いたり、研磨の力を弱めたり、膜どうしの密着を高めたりします。最後の1〜2層だけは、強度のために、ガラスが使われます。
もうひとつは、水分です。多孔質の膜は、水分が速く広がるので、銅の上に、ふたの膜を作り、チップの外周にも壁を作って、水分を防ぎます。熱の逃げにくさも、弱点のひとつです。EE Times Japanによると、配線を作るためのプラズマ処理で、比誘電率が0.5ほど上がってしまう問題もあり、傷みにくい材料が開発されました。

- もろい:やさしく磨く
- 水分に弱い:ふたと外周の壁
- 弱点には、対策がある
確認クイズ:すきまだらけの膜の弱点は、何でしょう?
答え:もろいこと、そして、水分が広がりやすいことです。
本物の空気を使う「エアギャップ」
もっと進んだ方法が、配線のあいだに、本物の空気のすきまを作る「エアギャップ」です。IBMの論文によると、空気のすきまを作る場所を、重要な部分だけに絞れば、ほかの場所の強度や熱の逃げやすさを保てます。65ナノメートルのプロセッサーで、比誘電率が2.0まで下がった例が示されています。ただし、すきまを作るための工程が増え、費用もかかります。

- 配線のあいだに、空気のすきま
- 空気は、電気をためにくい
- 工程と費用は、増える
確認クイズ:エアギャップは、配線のあいだに何を作る方法でしょう?
答え:本物の空気のすきまです。
製造の全体像は、半導体の製造工程の全体像です。なお、設備の調整や復旧は、所属する工場やメーカーの正式な手順と、権限のある人の判断のもとで行います。この記事は、考え方の紹介で、設備の操作を指示するものではありません。
ことばのおさらい
- 配線容量:近くにある配線のあいだに、たまる電気の量です。
- 絶縁膜:電気を通さない、配線のあいだに入る材料です。
- 比誘電率:材料の、電気のためやすさを表す数字です。小さいほど、ためにくい材料です。
- low-k材料:比誘電率が低い、絶縁膜の材料です。
- 多孔質:小さな穴がたくさん開いた、すきまだらけの状態です。
- エアギャップ:配線のあいだに作る、本物の空気のすきまです。
よくある誤解
Q. SiCOHは、シリコンカーバイド(SiC)のことですか?
いいえ。SiCOHは、ガラス(二酸化ケイ素)に炭素などを混ぜた絶縁膜で、シリコンカーバイドとは別のものです。
Q. 比誘電率は、大きいほうがよい数字ですか?
配線のあいだの絶縁膜では、小さいほうが有利です。電気をためにくく、配線容量を小さくできるためです。
low-k膜とは?絶縁膜とは?いちばん短い説明
「low-k 半導体」「low-k膜」「絶縁膜とは」と調べている方への結論は、絶縁膜とは、チップの中で配線のあいだに入る電気を通さない材料で、low-k膜とは、その中でも比誘電率が低く、電気をためにくい絶縁膜、です。配線が細く近づくほど配線のあいだに電気がたまりやすくなるため、絶縁膜を電気をためにくい材料に変えて、速さと省エネを支えます。「low-k」「low-k材料」「low-k膜」は同じ考え方を指します。
絶縁膜の材料はどう進化してきた?比誘電率の目安
| 段階 | 材料の工夫 | 比誘電率の目安 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 最初 | 二酸化ケイ素(ガラスの仲間) | 高め | 熱や薬品に強く、使いやすいが比誘電率が高めだった |
| low-kの始まり | ガラスにフッ素を混ぜる | 約3.5 | 130ナノメートルの世代で使われた |
| 炭素入り | SiCOH(炭素を混ぜた材料) | 穴なしでおよそ2.7〜3.0 | 密度が下がり、比誘電率も下がる |
| 多孔質(ポーラス) | 小さな穴を開けて、すきまだらけにする | 2.2以下 | 45ナノメートル以下の世代で使われるが、もろさと水分に対策が必要 |
| エアギャップ | 配線のあいだに本物の空気のすきまを作る | 2.0まで下がった例 | 工程と費用は増える |
数字はIBMの論文などに書かれた目安で、世代や材料によって変わります。
low-kのよくある質問
Q. low-kとは何ですか?
比誘電率が低い絶縁膜の材料のことです。比誘電率は電気のためやすさを表す数字で、小さいほど電気をためにくく、配線容量を小さくできます。
Q. 絶縁膜とは何ですか?
チップの中で細い金属の配線のあいだに入っている、電気を通さない材料です。配線どうしが電気的につながらないようにしながら、電気がたまりにくい材料を選ぶことが性能に関わります。
Q. low-k膜を「スカスカ」にするのはなぜですか?
材料に小さな穴を開けてすきまだらけの多孔質にすると、そのぶん電気をためにくくなり、比誘電率が下がるからです。その代わりもろくなりやすく、水分も広がりやすいため、研磨や封止の対策が必要です。
まとめ
配線が細く近づくと、配線のあいだに電気がたまる配線容量が増え、信号が伝わるのに時間がかかり、電気も余分に使われます。
そこで、絶縁膜を、比誘電率の低いlow-k材料に変え、穴を開けて、すきまだらけにしてきました。
もろさや水分には対策が必要で、さらに進んだ方法が、本物の空気を使うエアギャップです。
参考にした公式情報
- Jeff Gambino ほか「Copper Interconnect Technology for the 32 nm Node and Beyond」(IBM、IEEE CICC 2009)
- Kaustav Banerjee「ECE 122A VLSI Principles, Lecture 11」(カリフォルニア大学サンタバーバラ校 講義資料)
- EE Times Japan 前川慎光「既存の量産製造プロセスでそのまま使える、比誘電率が2.0と低い層間絶縁膜材料」(2009年)
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