第1講では、洗浄が工程の約5分の1を占めること、不良の原因になる粒子の大きさを見ました。この補講では、そもそも汚れは、どこから入ってくるのか、そして工場が、それをどう防いでいるのかを見ます。
「クリーンルーム」という言葉は有名ですが、「きれい」の中身は、数字で決まっています。
洗浄は、クリーンルームで防ぎきれなかった汚れを落とす工程です。
この記事でわかること
- クリーンルームのクラス(ISO 5、ISO 7など)の読み方
- 空気の流し方(層流)と、フィルターの役割
- 最大の汚れの発生源と、その対策
- それでも、洗浄が必要な理由
① 「きれい」を数字で表す:クラスという考え方
クリーンルームがどれだけきれいかは、「空気1立方メートルの中に、粒子が何個まで許されるか」で決めます。国際規格のISO 14644-1では、これをクラスという番号で表します。
番号の決め方は、わかりやすい形です。クラス番号は、0.1マイクロメートル以上の粒子の、最大個数(1立方メートルあたり)の、10を底とする対数です。たとえば、ISO 5は、0.1マイクロメートル以上の粒子が、最大10の5乗、つまり10万個までです。
百科事典Wikipediaの「Cleanroom」の項目によると、ISO 5の許容個数は、0.5マイクロメートル以上で1立方メートルあたり3,520個、ISO 7は同じ大きさで352,000個です。
「対数」という言葉が難しければ、「10のいくつ乗か」と読みかえてください。番号が1つ上がると、許される粒子の数が、10倍に増えます。
0.5マイクロメートル以上の粒子で比べると、ISO 5は3,520個、ISO 7は352,000個です。352,000 ÷ 3,520 = 100倍。番号が2つちがうと、許される粒子の数は、100倍ちがいます。
古い規格FED-STD-209Eの「クラス100」は、0.5マイクロメートル以上の粒子が、1立方フィート(約0.0283立方メートル)あたり100個まで、という意味です。1立方メートルになおすと、100 × 35.3 ≒ 3,530個で、ISO 5の3,520個とほぼ同じです。(この規格は2001年に廃止されましたが、今も広く使われています)
確認クイズ:ISO 5とISO 7では、許される粒子の数は何倍ちがいますか?
答え:100倍です(0.5マイクロメートル以上で、3,520個と352,000個)。
② 半導体工場は、どのくらいのクラス?
Wikipediaの「Cleanroom」の項目によると、半導体の工場は、ISO 7またはISO 5で運転されることが多く、ISO 1は、とてもまれです。さらに、半導体のクリーンルームは、バイオ工場と違って、無菌である必要はありません。気にするのは、微生物ではなく、粒子や化学物質の汚れだからです。
第1講で見たように、不良の原因になる粒子は、線の幅の4分の1や2分の1ほどの大きさです。ISO 5でも、1立方メートルに、3,520個の0.5マイクロメートル以上の粒子が、まだ許されています。だから、クリーンルームの空気がきれいでも、洗浄は必要です。
③ 空気を、上から下へ流す
粒子を取りのぞく中心は、フィルターと空気の流し方です。Wikipediaの「Cleanroom」の項目によると、天井に、HEPA(ヘパ)またはULPA(ウルパ)という、とても目の細かいフィルターを並べます。これらは、空気にまじった粒子をこしとるためのフィルターです。
空気の流し方は、一方向の流れ(層流)が代表的です。天井から床へ、同じ向きに、そろえて流します。粒子が、あちこちに舞い上がらず、床のすき間へ、まとめて流れていくからです。この流れは、天井の約80%ほどに使われるのが一般的です。
半導体の工場の部屋は、外より気圧を少し高くする陽圧にします。ドアを開けても、外の汚れた空気が、中に入りこまないようにするためです。
空気がうずを巻くと、いったん落ちた粒子が、また舞い上がるからです。同じ向きに流せば、粒子は、フィルターのない側(床)へ、順番に運ばれていきます。
クリーンルームの内部や、フィルターを並べた天井の写真は、Wikipediaの「Cleanroom」の項目で見られます(英語)。
確認クイズ:クリーンルームで、空気を天井から床へ、同じ向きに流すのは、なぜですか?
答え:落ちた粒子が舞い上がらず、床のすき間へ運ばれるようにするためです。
④ 最大の汚れの発生源は「人」
Wikipediaの「Cleanroom」の項目によると、クリーンルームで最も大きな汚れの発生源は、そこで働く人だとされています。人の皮膚や髪から、粒子がはがれ落ちるからです。そのため、次のような決まりがあります。
- 入る前に、エアロック(二重のドアの小部屋)や、エアシャワー(空気を吹きつけて、粒子を落とす設備)を通る
- 防塵服(フード、マスク、手袋、ブーツ、つなぎ)を着る
- 紙、鉛筆、天然繊維の布のように、粒子が出やすい物は、持ちこまない(多くの場所で除外されます)
また、空気が乾燥しすぎると、静電気が起きて、部品をこわすことがあります。そのため、イオナイザー(静電気を消す装置)を使い、作業者は、導電性のブーツをはくことが多いとされています。
写真をうつすために、ウェハに光を当てる「リソグラフィ」の場所だけは、黄色い照明です。光に反応する薬品(フォトレジスト)が、短い波長の光(青や紫外線)で、感光してしまうのを避けるためです。
ISO 5の空気で、0.5マイクロメートル以上の粒子が3,520個まで、という数字を、もう少し体感してみましょう。広さ1平方メートル、高さ2メートル、つまり、空気2立方メートルの部屋なら、3,520 × 2 = 7,040個です。ISO 7なら、352,000 × 2 = 704,000個です。目に見えない粒子が、これだけ飛んでいる計算になります。
確認クイズ:クリーンルームで、最も大きな汚れの発生源は、何ですか?
答え:そこで働く人です(皮膚などから粒子が出るため)。
クリーンルームのきれいさは「クラス」で表す。ISO 5とISO 7では、粒子の許容数が100倍ちがう。半導体工場は、ISO 7またはISO 5が多く、天井のフィルターから、床へ一方向に空気を流す。最大の汚れの発生源は人なので、防塵服やエアシャワーが必要。それでも粒子は残るため、洗浄が必要。
次は、第2講で出てきた「自然酸化膜」を、数字でもう少し詳しく見ていきます。
ことばのおさらい
クラス:クリーンルームのきれいさを表す番号。番号が1つ上がると、許される粒子の数は10倍になります。
HEPA/ULPA:空気にまじった粒子をこしとる、とても目の細かいフィルターです。
層流(そうりゅう):空気を、うずを巻かせずに、一方向にそろえて流す方式です。
陽圧(ようあつ):部屋の気圧を外より高くして、外の空気が入らないようにする方法です。
エアシャワー:空気を吹きつけて、体についた粒子を落とす設備です。
よくある誤解
Q. クリーンルームに入れば、ウェハは、汚れないのですか?
いいえ。ISO 5でも、1立方メートルに、0.5マイクロメートル以上の粒子が3,520個まで許されています。また、薬品や装置、人からも汚れは出ます。だから、洗浄が必要です。
Q. 半導体のクリーンルームは、細菌のいない、無菌の部屋ですか?
いいえ。半導体の工場は、無菌である必要はありません。気にするのは、粒子と化学物質の汚れです。

