ここまで、汚れを落とす方法を見てきました。でも、じつは、洗うこと自体にも、困りごとがあります。
この記事では、液で洗う「ウェット洗浄」の課題と、液を使わない「ドライ洗浄」という考え方を、順に説明します。
この記事でわかること
- 洗いすぎると、なぜ困るのか(表面があれる)
- ウェット洗浄の5つの課題
- ドライ洗浄には、どんな方法があるのか
① 洗いすぎると、表面があれる
KTH(スウェーデン王立工科大学)の講義資料は、ウェット洗浄の問題として、まず表面のあれ(マイクロラフネス)をあげています。洗う液や、汚れの金属が、シリコンの表面をけずってしまい、ごく細かいでこぼこができる、という問題です。とくに、SC-1に入っているアンモニア水の濃度が高いと、シリコンをけずって傷めると説明されています。
KTHの資料によると、表面があれると、トランジスタの通り道(チャネル)で電気を運ぶ粒の動きやすさ(キャリア移動度)が下がります。また、熱でつくったゲート酸化膜の品質と、こわれにくさ(絶縁破壊電圧)にも、大きな悪影響があります。つまり、汚れを落とすために洗って、トランジスタの性能を落としてしまうことがあるのです。
KTH IH2655「Lecture 3: Wafer Clean and Wet Processing」(Mikael Östling、2012年)の「Problems in Wet Cleaning」のスライド。
確認クイズ:SC-1で、何の濃度が高いと、シリコンの表面が傷みやすいですか?
答え:アンモニア水(NH4OH)の濃度です。
② あれを減らす3つの方法
KTHの資料が示す対策は、次の3つです。
- アンモニア水の濃度を下げる
- 洗う温度を下げる
- 洗う時間を短くする
第3講で見た、IMECの「アンモニア水:過酸化水素水:純水=0.05:1:5」は、この1つ目の考え方の例です。
10リットルの液をつくるとき、アンモニア水はどれくらい必要でしょう。
標準のSC-1(1:1:5)は合計7なので、10 × 1 ÷ 7 ≒ 1.43リットル。IMECの方法(0.05:1:5)は合計6.05なので、10 × 0.05 ÷ 6.05 ≒ 0.083リットル(83ミリリットル)。
1.43 ÷ 0.083 ≒ 約17倍の差です。(「0.05と1の差は20倍」でも、全体の合計がちがうため、約17倍になります)
確認クイズ:表面のあれを減らす方法を、3つ答えてください。
答え:アンモニア水の濃度を下げる、温度を下げる、時間を短くする、です。
③ ウェット洗浄の5つの課題
KTHの資料は、ウェット洗浄の課題として、あれのほかにも、次の5つをあげています。
- 粒子をもちこむことがある(薬品や純水に、粒子がふくまれる)
- 乾かすのがむずかしい
- コストがかかる
- 廃液の処理が必要
- 先端の集積技術と相性が悪くなってきた
洗う液も、純水も、100%きれいとは限らないからです。KTHの資料には、半導体用の薬品の中に含まれる粒子の数を示すグラフもあります。洗う道具(液)が汚れていれば、洗うほど汚れることになってしまいます。
第1講で、約400工程のうち約80が洗浄でした。もし、洗浄1回につき、薬品や純水が10リットルいるとすると、80 × 10 = 800リットル(1枚のウェハが通る道のりで)。(10リットルは、考え方を示すための例です)
回数が多いほど、コストや廃液も増えます。洗い方を工夫する意味が、数字でわかります。
確認クイズ:ウェット洗浄の課題を、1つ答えてください。
答え:(例)粒子をもちこむ、乾かしにくい、コストがかかる、廃液の処理が必要、先端技術と相性が悪い、のどれか。
④ 液を使わない「ドライ洗浄」
そこで考えられたのが、液を使わず、ガスやエネルギーで汚れを落とす「ドライ洗浄」です。KTHの資料は、方法として次の4つを紹介しています。
- HF/水蒸気(ガス)による洗浄:フッ酸の蒸気で、自然酸化膜を落とす
- 紫外線オゾン洗浄(UVOC):紫外線とオゾンで、有機物を分解する
- 水素/アルゴンのプラズマ洗浄
- 加熱による洗浄
低い温度で反応を起こすには、エネルギーが必要です。そのエネルギーは、プラズマ、イオンビーム、短い波長の光、熱などから与えます。ただし、そのエネルギーで、ウェハを傷めないようにすることが大切だと、KTHの資料は述べています。
⑤ 洗う「入れもの」も大切
薬品を入れる容器や、ウェハを運ぶ入れもの(キャリア)も、汚れの原因になります。KTHの資料では、SC-1・SC-2などは、石英またはテフロンの容器、フッ酸は、テフロンの容器を使う、ウェハのキャリアは、石英かテフロンだけ、とされています。
洗いすぎは、表面をあらして、トランジスタの性能を落とす。対策は、濃度・温度・時間を下げること。ウェット洗浄には、粒子・乾燥・コスト・廃液・先端技術との相性という課題があり、ドライ洗浄も使われる。
次の記事では、洗浄の「出来ばえ」を、どうやって確かめるのかを見ていきます。
ことばのおさらい
- マイクロラフネス:表面にできる、ごく細かいでこぼこです。
- ウェット洗浄:液を使って洗う方法です。
- ドライ洗浄:液を使わず、ガスやエネルギーで洗う方法です。
- テフロン・石英:薬品にも強く、汚れが出にくい容器の材料です。
よくある誤解
Q. たくさん洗うほど、きれいになりますか?
いいえ。洗いすぎると、表面があれて、トランジスタの性能が落ちることがあります。
Q. 液で洗えば、ぜったいに粒子は増えませんか?
いいえ。薬品や純水にふくまれる粒子が、ウェハにつくことがあります。

