今回のテーマは、
「ALDは、なぜ原子の層を1枚ずつ重ねられるのか」
答え:ガスが表面で反応できる場所の数に限りがあり、すべて使われると反応が止まるからです(自己制限)。2種類のガスを交互に入れると、1サイクルで決まった厚さだけ付くので、サイクルの回数で厚さが決まります。
この記事でわかること
- ① なぜALDが必要か
- ② 1サイクルの4ステップ
- ③ 自己制限(なぜ止まるのか)
- ④ 厚さ = サイクル数 × 1回の厚さ
- ⑤ 遅さと使いどころ
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① ALDは、とても薄く、穴の奥まで均一に付ける方法
大事なポイント:ALDは、CVDの仲間で、原子の層を1枚ずつ重ねます。とても薄く、凹凸や深い穴の奥まで、均一な膜をつくれます。
第1講で、ALD(原子層堆積)は「CVDの仲間で、ガスを1種類ずつ入れて、原子の層を1枚ずつ重ねる方法」だと学びました。この講では、そのしくみと使いどころを、くわしく見ます。
なぜ、CVDがあるのに、ALDが必要なのでしょうか。理由は、チップの中で、とても薄く、しかも均一な膜が必要な場所があるからです。たとえば、トランジスタのゲート絶縁膜は、二酸化ケイ素の場合で1.0nm前後、あるいはそれ以下まで薄くなった時期がありました。ここまで薄い膜では、厚さの小さなずれも、性能に大きく響きます。ALDは、このような薄い膜の厚さを、原子の層1枚ずつの細かさで調整できます。
また、ALDの膜は、細かい穴の奥の表面まで、同じ厚さで覆えます。深い溝や穴をもつ部品にも、膜を付けられるのは、大きな利点です。
確認クイズ:ALDが、特に力を発揮するのは、どんな膜でしょう?
答え:とても薄く、均一であることが必要な膜(ゲート絶縁膜など)や、深い溝・穴の奥の膜です。
② 1サイクルは、4つのステップ(酸化アルミニウムの例)
大事なポイント:1サイクルは、「ガスA → 排気 → ガスB → 排気」の4ステップです。1回で、原子の層が約1枚ぶん増えます。
代表的な例として、酸化アルミニウム(Al2O3)の膜を、見てみましょう。使うガスは、TMA(トリメチルアルミニウム、アルミニウムを含むガス)と、水蒸気です。
最初のウェハの表面は、OH(水酸基)で覆われています。OHとは、酸素と水素が1個ずつ結びついた形のことです。
- TMAを入れる:TMAが、表面のOHと反応して、表面に付きます。表面は、アルミニウムにCH3(メチル基)が付いた形で覆われます。
- 排気する:表面に付かなかった余りのTMAを、ガスで流すか、空気をぬいて、追い出します(パージ)。
- 水を入れる:水が、表面のCH3と反応します。メタン(CH4)が気体として出て、表面は、再びOHで覆われた酸化アルミニウムになります。
- 排気する:余りの水と、メタンを、追い出します。
ステップ②と④の排気が大事です。AとBのガスが、空中で混ざらないようにして、反応を、表面だけで起こすためです。
確認クイズ:TMAを入れたあと、水を入れる前に、何をするでしょう?
答え:余りのTMAを、排気して追い出します(パージ)。
くわしく見る:反応式で確かめる(一般的な化学の知識)
TMAと水から酸化アルミニウムができる反応全体を、1つの式にまとめると、次のようになります(出典の説明を、式にまとめた一般的な書き方です)。
2 Al(CH3)3 + 3 H2O → Al2O3 + 6 CH4
原子の数を数えます。左:Al 2個、C 2×3 = 6個、H 2×9 + 3×2 = 18 + 6 = 24個、O 3個。右:Al 2個、O 3個、C 6個、H 6×4 = 24個。すべて一致します。実際のALDでは、この反応を、TMAと水に分けて、表面で交互に起こします。
③ 「自己制限」:いっぱいになると、反応が止まる
大事なポイント:表面で反応できる場所には数があります。すべて使われると、それ以上は付きません。これが、1層ずつ付く理由です。
ALDが1層ずつ付く理由が、自己制限です。ガスが表面で反応できる場所(サイト)の数には、限りがあります。ガスAを入れ続けても、すべての場所が使われたら、それ以上は反応が進みません。
映画館にたとえると、客が何人来ても、座れるのは席の数までです。席がすべて埋まれば、それ以上は座れません。ALDも、ガスを多く入れても、長く入れても、付く量は1層ぶんで止まります。
この性質から、次のことがいえます。
- ガスを十分に入れれば、毎回、同じ量だけ付きます。
- ウェハのどの場所でも、穴の奥でも、ガスが届けば、同じ厚さになります。
- 厚さは、ガスを入れる時間ではなく、サイクルの回数で決まります。
確認クイズ:ALDでは、膜の厚さは、何の回数で決まるでしょう?
答え:サイクルの回数です(ガスを入れる時間ではありません)。
くわしく見る:温度の目安(資料に書かれた範囲)
ALDには、うまく働く温度の範囲があります。資料に書かれた例を、まとめます。
- 熱だけで行うALD全般:室温(約20℃)〜350℃
- 酸化アルミニウム:30〜300℃
- 金属の膜(熱ALD):175〜400℃
たとえば、酸化アルミニウムの範囲の幅は、300 − 30 = 270℃です。この範囲を出ると、自己制限が成り立ちにくくなることがあります(一般的な説明です)。
④ 厚さ = サイクル数 × 1サイクルの厚さ
大事なポイント:1サイクルで付く厚さが決まっているので、「必要な厚さ ÷ 1サイクルの厚さ」で、サイクル数がわかります。
酸化アルミニウム(TMAと水)では、1サイクルで、約0.11nm付くとされています。ほかの膜では、次のような値が資料にあります。Å(オングストローム)は、0.1nmのことです。
- 酸化アルミニウム:0.11nm(=約1.1Å)
- タングステン:4〜7Å(0.4〜0.7nm)。温度などで変わります。
- 二酸化ケイ素:1.35Å(0.135nm)という値がよく使われる、とされています。
必要なサイクル数を、計算してみましょう。酸化アルミニウムを10nm付けたいなら、
10 nm ÷ 0.11 nm/サイクル ≈ 90.9 → 約91サイクル
です。サイクル数は整数なので、四捨五入します。サイクル数を決めれば、厚さが決まります。
確認クイズ:酸化アルミニウムを、1サイクル0.11nmで、5.5nm付けるには、何サイクル必要でしょう?
答え:50サイクルです(5.5 ÷ 0.11 = 50)。
くわしく見る:時間まで見積もる
資料には、酸化アルミニウムのALDは、1時間あたり100〜300nm付く、とあります。1サイクル0.11nmなので、1時間のサイクル数は、
100 ÷ 0.11 ≈ 909回 〜 300 ÷ 0.11 ≈ 2,727回
1サイクルの時間は、3,600秒 ÷ 909 ≈ 4.0秒 〜 3,600秒 ÷ 2,727 ≈ 1.3秒です。つまり、1サイクルは、約1.3〜4秒かかります。10nmの膜(約91サイクル)なら、
91 × 1.3 ≈ 118秒 〜 91 × 4.0 ≈ 364秒(約2〜6分)
です。これは、10 nm ÷ 300 nm/時 = 0.033時間 ≈ 2分、10 nm ÷ 100 nm/時 = 0.1時間 = 6分と、一致します。
⑤ ALDの弱点(遅さ)と、使いどころ(ゲート絶縁膜)
大事なポイント:ALDは、遅いのが弱点です。それでも、薄く均一な膜が必要なゲート絶縁膜などで、欠かせません。
ALDの最大の弱点は、遅いことです。資料にも、遅さがいちばんの制限だと書かれています。酸化アルミニウムで、1時間に100〜300nmです。1分あたりに直すと、1.7〜5nmです。前の講のポリシリコンのLPCVD(1分間に10〜20nm)と比べると、数倍から10倍ほど遅くなります。
それでも使われる理由の1つが、ゲート絶縁膜です。二酸化ケイ素のゲート絶縁膜を、2nm前後より薄くすると、電気が膜をすり抜けて漏れる量(トンネル電流)が増えはじめます。1nm台前半になると漏れが大きすぎて、実用が難しくなります。ゲート絶縁膜は、電極にはさまれた、小さなコンデンサ(電気をためる部品)の役目をします。そこで、電気のためやすさを表す値(比誘電率)が大きい材料を使います。このような材料を高誘電率(high-k)材料といい、酸化ハフニウムなどが使われています。二酸化ケイ素の比誘電率は3.9です。
電気をためる力(容量)は、「比誘電率 ÷ 厚さ」に比例します。比誘電率が2倍の材料なら、同じ容量のままで、厚さを2倍にできます。厚い膜のほうが、漏れにくくなります。 ▶ 2級でくわしく
また、このような高誘電率の膜は、ALDで付けるのが一般的で、メモリの一種のDRAMにも使われています。ハフニウム系の材料は、45nmの世代(2007年ごろ)から、実際の製品に使われ始めました。
確認クイズ:ゲート絶縁膜を、二酸化ケイ素から高誘電率の材料に変えると、どんな利点があるでしょう?
答え:同じ電気をためる力のまま、膜を厚くでき、漏れる電気を減らせます。
くわしく見る:同じ電気をためる力の厚さを計算する(仮の数字)
比誘電率 κ の膜で、電気をためる力 C は、C = κ ε0 A / t(ε0 は真空の誘電率、A は面積、t は厚さ)と書けます。同じ C・同じ A なら、t は κ に比例します。
仮に、二酸化ケイ素(κ = 3.9)の厚さ1.0nmと同じ電気をためる力を、κ = 7.8(3.9の2倍。これは仮の数字です)の膜で実現するなら、
t = 1.0 nm × 7.8 ÷ 3.9 = 2.0 nm
です。これをALDで付けると、酸化アルミニウムの速さ(0.11nm/サイクル)なら、2.0 ÷ 0.11 ≈ 18.2 → 約19サイクルで、1サイクル1.3〜4秒なら、約25〜75秒です。
安全のひとこと:ALDで使うTMA(トリメチルアルミニウム)は、空気に触れると自然に発火する薬品です。工場では、専用の設備と決まりで厳重に管理されます。取り扱いは、必ず職場の決まりとSDS(安全データシート)に従います。
この講のまとめ
ALDは、2種類のガスを、排気をはさんで交互に入れ、原子の層を1枚ずつ重ねる方法です。
表面の反応できる場所が埋まると反応が止まる(自己制限)ので、厚さは、サイクル数 × 1サイクルの厚さで決まります。
ALDは遅いのが弱点ですが、薄く均一な膜が必要な、ゲート絶縁膜(高誘電率の材料)などに使われます。
次の講では、ここまでに付けた膜を、どのように測り、評価するのかを見ていきます。
ことばのおさらい
- 自己制限:表面で反応できる場所が埋まると、それ以上反応が進まない性質です。
- サイクル:ALDで、ガスA・排気・ガスB・排気の4ステップを1回行うことです。
- パージ:余ったガスを、追い出す(排気する)ことです。
- OH(水酸基):酸素と水素が1個ずつ結びついた形で、ウェハの表面を覆います。
- 高誘電率(high-k):電気のためやすさを表す値(比誘電率)が大きい、という意味です。
- Å(オングストローム):長さの単位で、0.1nmです。
よくある誤解
Q. ALDは、ガスを長く入れるほど、膜が厚くなりますか?
いいえ。自己制限のため、1回に付くのは1層ぶんまでです。厚さは、サイクルの回数で決まります。
Q. ALDは、CVDより優れた方法ですか?
いいえ。ALDは薄く均一ですが、遅いのが弱点です。膜の目的に合わせて、使い分けます。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Atomic layer deposition」(サイクルの手順、自己制限、酸化アルミニウムの例、1サイクルの厚さ、遅さ、温度の範囲)
- Wikipedia「High-κ dielectric」(2nm以下でトンネル電流が増えること、二酸化ケイ素の比誘電率3.9、ハフニウム系の導入、DRAMでのALD)
反応式の原子数の確認、容量の式(C = κε0A/t)、仮の比誘電率7.8は、一般的な知識または仮の数字による目安です。サイクルあたりの時間の計算は、資料の数字から計算した見積もりです。図は、記事用に描いた簡易の図です。

