今回のテーマは、
「研磨で表面を平らにする装置は、どんな仕組みで動くのか」
答え:回転する台の上の研磨用の敷物(パッド)にウェハを押しつけ、削るための粒と薬品を含む液を流して、高い所から削ります。
この記事でわかること
- ① 装置の全体像
- ② パッドと液の役目
- ③ 圧力と回転
- ④ 化学と機械の組み合わせ
- ⑤ 止め方と後始末
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① 装置の全体像:ウェハを回転する台に押しつける
大事なポイント:CMPの装置は、ウェハを下向きに保持するキャリアと、パッドをのせた回転テーブル、スラリーを流す管でできています。
前の講で、CMPは表面を研磨して平らにする工程だと学びました。今回は、その装置の中を順に説明します。装置は、大きく3つの部分に分かれます。
- キャリア(研磨ヘッド):ウェハを、研磨する面を下にして保持し、上から押します。ウェハを保持しないと、決まった力で押しつけられません。
- 回転テーブルとパッド:テーブルは回転する台で、その上に、研磨用のパッドを貼ります。パッドがないと、粒を表面に押しつける面がありません。
- スラリーの供給:スラリーは、研磨に使う液です。ないと、削るための粒も薬品もありません。
参考にした資料では、テーブルとキャリアの両方が回転し、キャリアは少し揺れ動くとも書かれています(ウェハ全体を均一に研磨するためです)。また、量産用の装置は、高さ約6フィート(約1.8m)、直径約8フィート(約2.4m)という大きなものだと説明されています。CMPは、「回転する台にウェハを押しつけ、液を流して磨く」装置です。
確認クイズ:CMP装置で、ウェハはどちらの向きでキャリアに保持されますか?
答え:研磨する面を下に向けて保持されます。
② 研磨パッドとスラリー:それぞれの役目
大事なポイント:パッドは、粒を押しつけて動かす面です。スラリーは、削るための粒と薬品を運ぶ液です。どちらも欠かせません。
研磨パッドは、ポリウレタンなどのやわらかい高分子でできた、スポンジのような板です。参考にした資料では、小さな穴(孔)が多くあり、孔の大きさは30〜50µmほど、と書かれています。穴があるので、スラリーを保持できます。また、ウェハの凹凸になじむ柔らかさと、形が崩れない硬さの両方が要るため、やわらかい層と硬い層を重ねたパッドもあります。
スラリーは、細かい粒と薬品を、液に混ぜたものです。細かい粒が液に散らばった状態を、コロイドといいます。粒は、銅の研磨ではシリカ(酸化ケイ素)が使われ、酸化膜の研磨ではシリカやセリア(酸化セリウム)が使われる、と資料に書かれています。
パッドの硬さは、削る材料に合わせて選びます。資料では、酸化ケイ素には硬いパッド、銅にはやわらかいパッドを使う、と説明されています(硬い・やわらかいは、相対的な言い方です)。また、パッドは研磨のたびにすり減るため、定期的に表面を整える必要があります(第5節で説明します)。
まとめると、パッドが粒を押しつけて動かし、スラリーが、削るための粒と薬品を運びます。
確認クイズ:スラリーは、何を含む液ですか?
答え:細かい粒(研磨剤)と、薬品を含む液です。
③ 圧力と回転:高い所から削れる理由
大事なポイント:研磨の速さは、圧力や回転の速さなどで決まります。パッドとの接触は高い所に集まるので、高い所が速く削れ、表面が平らになります。
参考にした資料では、除去速度(1分に削れる厚さ)は、圧力、回転の速さ、薬品の濃度、粒の性質や大きさに左右される、と説明されています。つまり、装置の設定を変えると、削れる速さも変わります。
では、なぜ高い所だけが先に削れるのでしょうか。パッドは、ウェハの高い所に先に触れ、そこに力が集まります。圧力は、力を面積で割った値なので、触れている面積が小さい高い所では、圧力が大きくなり、速く削れます。低い所は、あまり押されず、ほとんど削れません。この結果、高低差が減ります。資料でも、粒が高い所を低い所より速く除く、と書かれています。
ウェハは、わずかに反っていることがあり、そのままだと端に圧力が集まりやすくなります。これを補うために、キャリアの裏側から圧力を調節する方法がある、と資料に書かれています。圧力のかかり方を調節して、ウェハ全体を均一に削ります。
確認クイズ:パッドを押しつけたとき、高い所と低い所で、速く削れるのはどちらですか?
答え:高い所です。力が高い所に集まるためです。
くわしく見る:削る時間を見積もる(目安の計算)
一般に、削れる速さは、圧力や回転の速さが大きいほど、おおむね大きくなると考えます(プレストンの式とよばれる、一般的な目安の式です。実際は条件で変わります)。ここでは、削れる速さが圧力に比例すると単純化します。
削りたい銅の厚さを1000nm、削れる速さを500nm/分とすると(仮の値です)、
1000 ÷ 500 = 2 分
圧力を1.2倍にして、速さが600nm/分になったとすると、
1000 ÷ 600 ≒ 1.67 分
になります。ただし、圧力を上げすぎると、第5講で学ぶ不良が増えるため、速さだけで条件は決められません。
▶ 2級でくわしく:プレストンの式と、圧力・回転速度・時間の関係。
④ 化学と機械の組み合わせ:なぜ両方が必要なのか
大事なポイント:CMPは、薬品による化学の作用と、粒による機械の作用の組み合わせです。化学が削る相手を選び、機械が高い所を削ります。
CMPの正式な名前は、「化学機械研磨」です。参考にした資料では、薬品による化学的な腐食(エッチング)と、粒による研磨を合わせた方法、と説明されています。なぜ、2つを合わせるのでしょうか。
化学だけで溶かすと、高い所も低い所も同じように溶けるため、高さの差が縮まりにくくなります。機械だけで削ると、粒で強く削ることになり、傷がつきやすく、削る相手も選べません。これは一般的な説明です。
CMPでは、化学の作用で、削る相手を選びやすくし、機械の作用で、高い所を速く削ります。資料には、スラリーの薬品が、銅は溶かすけれど酸化ケイ素は溶かさないようにはたらく例が書かれています。また、粒(たとえばナノサイズのシリカ)が、高い所を低い所より速く削ります。この2つが合わさって、削りたい材料だけを、平らに削れます。
確認クイズ:スラリーの薬品が、銅を溶かして酸化ケイ素を溶かさないのは、どんなはたらきですか?
答え:削る相手を選ぶはたらき(化学の作用)です。
⑤ 研磨の終わり方と、パッドの手入れ、洗浄
大事なポイント:研磨は、狙った所で止めます。パッドは消耗するので表面を整え、研磨のあとは、ウェハを洗います。
研磨は、削りすぎても足りなくても困ります。特に銅配線の研磨では、余分な銅を除いて、下の酸化膜との境目でくり返し止められることが重要だと、資料に書かれています。止めるには、決めた時間で止める方法のほか、研磨中の様子の変化から、削り終わりを知る方法があります(一般的な説明です)。
パッドは、研磨のたびにすり減ります。資料には、パッドは使うたびに消耗するので、定期的に整える(コンディショニング)必要がある、と書かれています。整えないと、パッドの表面が変わり、削れる速さが変わってしまいます(一般的な説明です)。
研磨が終わると、ウェハの表面には、スラリーの粒や削りくずが残っています。残ったままだと、次の工程の不良につながるため、研磨のあとは、必ず洗って、粒や削りくずを落とします。洗浄の方法や、残りかすが起こす不良は、第5講で学びます。
もう一度、順に並べます。ウェハを保持し、パッドに押しつけ、スラリーを流して研磨し、狙った所で止め、洗って次の工程へ進みます。
確認クイズ:パッドを、研磨のたびに整える(コンディショニングする)のは、なぜですか?
答え:パッドが研磨のたびにすり減り、整えないと表面が変わって、削れる速さが変わるためです。
安全のひとこと:研磨に使う液には、薬品が含まれます。取り扱いは、必ず職場の決まりとSDS(安全データシート)に従います。回転する大きな装置の近くでも、決まりを守ってください。
この講のまとめ
CMPの装置は、ウェハを保持するキャリアと、パッドをのせた回転テーブル、スラリーの供給でできています。
パッドが粒を押しつけて動かし、スラリーが粒と薬品を運び、高い所に力が集まって速く削れます。
薬品の化学の作用が削る相手を選び、粒の機械の作用が高い所を削ります。研磨のあとは、狙った所で止めて、洗います。
次の講では、CMPがなぜ銅配線に欠かせないのか、アルミ配線から銅配線への移り変わりと、ダマシン法を学びます。
ことばのおさらい
- キャリア:ウェハを下向きに保持して、押しつける部品です。
- パッド:研磨用の、小さな穴のある板です。
- スラリー:削るための細かい粒と薬品を含む、研磨用の液です。
- コロイド:細かい粒が、液に散らばった状態です。
- 除去速度:1分あたりに削れる厚さです。
- コンディショニング:すり減ったパッドの表面を整えることです。
よくある誤解
Q. CMPは、薬品で溶かしているだけですか?
いいえ。薬品による化学の作用と、粒による機械の作用を組み合わせています。
Q. 圧力を高くすれば、いつでも良く削れますか?
削れる速さは上がりますが、上げすぎると不良が増えます。第5講で学びます。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Chemical-mechanical polishing」(CMPの定義、パッド、スラリー、圧力と回転、コンディショニング、銅配線での停止)
- NPTEL(インド工科大学の公開講義)「Module 4: Removal Techniques」Lecture16(装置の構成、除去速度を左右する条件、化学と粒の役目、パッドの硬さ)
- NPTEL「Module 4: Removal Techniques」Lecture17(スラリーの粒の種類)
プレストンの式、仮の数値(1000nm、500nm/分、1.2倍)、「化学だけ・機械だけ」の欠点、研磨の止め方の説明は、一般的な知識にもとづく目安です。図は、記事用に描いた簡易の図です。
