Semicon Campus半導体を、知るところから。
メニュー
企業の方へ

イオン注入とは?半導体に不純物を入れる目的と、拡散との違いをわかりやすく解説【イオン注入・熱処理3級・第1講】

SEMICON CAMPUS 無料講座イオン注入・熱処理コース3級 入門 ・ 第1講
純粋なシリコンリンを少し混ぜるホウ素を少し混ぜる電気を通しにくい電子が増える(n型)正孔が増える(p型)灰色はシリコン原子、赤はリン、青はホウ素、橙の点は余った電子です
簡易の模式図です。実際の結晶は立体で、原子の並びはもっと複雑です。

今回のテーマは、

「なぜ半導体に不純物を入れるのか。拡散とイオン注入は何が違うのか」

答え:シリコンは混ぜものがないと電気をあまり通さないため、リンやホウ素を少量入れて、電気の通り方を場所ごとに決めるためです。入れ方には、熱で広げる拡散と、イオンを打ち込む注入があります。

黄色のマーカー = この講座のテストに出す重要ポイント

この記事でわかること

  • ① シリコンはそのままでは電気を通しにくい
  • ② リンとホウ素で電気の通り方を変える
  • ③ どれくらい混ぜるのか
  • ④ 入れ方は2つある
  • ⑤ なぜ場所を選んで入れるのか

※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。

① シリコンは、そのままでは電気をあまり通さない

大事なポイント:純粋なシリコンは、金属ほど電気を通さず、絶縁体ほど通さないという中間の性質をもちます。この性質をそのまま使うのではなく、あとから変えられるところが半導体の強みです。

ウェハは、ほとんどがシリコンという元素でできています。シリコンの結晶では、原子どうしが、外側にある4個の電子を出し合って手をつないでいます。電子はすべて結びつきに使われているため、電気を運べる自由な電子がほとんどありません。そのため、純粋なシリコンは、室温では電気を流しにくい物質です。

半導体という名前は、「導体(電気をよく通す)」と「絶縁体(通さない)」のあいだの性質をもつことに由来します。ただし、この中間という点は出発点にすぎません。大事なのは、ほんの少し別の元素を混ぜるだけで、電気の通りやすさを大きく変えられることです。この混ぜる操作をドーピングといい、混ぜる元素を不純物またはドーパントと呼びます。

ここでいう不純物は、「汚れ」という悪い意味ではありません。目的をもって、量と場所を決めて入れる材料です。逆に、意図せず入ってしまう金属などは、本講の対象ではありません。

よくある疑問:電気の通り道には、金属の配線を使います。それなのに、なぜ、わざわざシリコンに不純物を入れて、電気を「少しだけ」通す状態をつくるのでしょうか。理由は、配線とトランジスタで、役目が違うからです。金属の配線は、電気をいつも通す「道」です。一方、トランジスタは、電気を流したり止めたりする「スイッチ」です。金属はいつも電気を通してしまうので、スイッチにはなりません。シリコンなら、不純物の種類と量で、電気の通りやすさを選べます。この、通りやすさを選ぶ作業が、不純物を入れる工程です。そして、場所ごとに正確に入れる方法が、イオン注入です。

確認クイズ:純粋なシリコンが電気を流しにくいのは、なぜでしょう?

答え:自由に動ける電子がほとんどなく、外側の電子がすべて結びつきに使われているからです。

② リンとホウ素で、n型とp型をつくる

大事なポイント:リンを混ぜると電子が増えるn型に、ホウ素を混ぜると電子の抜けあと(正孔)が増えるp型になります。

シリコン(Si)リン(P)ホウ素(B)SiPB外側の電子 4個外側の電子 5個(1個余る)外側の電子 3個(1個足りない)黒い点は結びつきに使われる電子、橙は余る電子、点線の円は電子が足りない場所です
電子の数の違いが、n型とp型の違いになります。

シリコン原子の外側の電子は4個です。ここに、外側の電子が5個あるリン(P)が混ざると、結びつきに使われない電子が1個余ります。この電子は動き回れるので、電気を運びます。このように電子が主役になる半導体をn型といいます(nは「負」を意味する英語negativeの頭文字です)。リンのように電子を差し出す不純物をドナーと呼びます。

反対に、外側の電子が3個のホウ素(B)が混ざると、結びつきに電子が1個足りない場所ができます。この電子の抜けあとを正孔(ホール)といいます。となりの電子が正孔へ移ると、正孔が反対向きに動くように見えるため、正孔は+の電気を運ぶ粒として働きます。正孔が主役の半導体をp型(positiveの頭文字)といい、ホウ素のように電子を受け取る不純物をアクセプタと呼びます。

n型:リン(P)を混ぜた結晶p型:ホウ素(B)を混ぜた結晶SiSiSiSiPSiSiSiSi余った電子が、自由に動き回れるSiSiSiSiBSiSiSiSi電子が足りない場所(正孔)に、となりの電子が移れる線は、原子どうしの結びつき(電子を出し合っている所)灰色はシリコン原子。電子が1個足りず、すき間ができる
結晶を平面に並べた模式図です。左はリンで電子が余り、右はホウ素で電子の抜けあと(正孔)ができます。

シリコン向けの代表的な不純物として、ホウ素はp型、リンとヒ素はn型に使われる、と覚えておけば十分です。

ここで、なぜ2種類をつくり分けたいのかを説明します。トランジスタやダイオードは、n型とp型を隣り合わせにすることで、電気を一方向にだけ流したり、電気のオンとオフを切り替えたりします。片方の型しかなければ、ただの抵抗になってしまい、スイッチとしては働きません。電気を一方向に流す仕組みなど、半導体の電気の流れ方は、デバイス基礎3級の講座で順に学べます。ここでは「2種類が必要」とだけ覚えておけば、先へ進めます。

確認クイズ:外側の電子が3個で、正孔を増やす不純物は、リンとホウ素のどちらでしょう?

答え:ホウ素です。p型になります。

③ どれくらい入れるのか:ごく少量で十分

大事なポイント:混ぜる量は、シリコン原子に対して、ごく少ない割合です。一例として、5,000万個に1個ほどから、500個に1個ほどまでの範囲があります。

シリコンの結晶1立方センチメートルには、およそ5×1022個の原子があります。これに対して、不純物の濃さは、1立方センチメートルあたり1015個から1020個ほどの範囲が、一例としてよく使われます。幅が大きいのは、役目によって必要な濃さが違うからです。

たとえば、1立方センチメートルあたり1017個の不純物を入れた場合、シリコン原子およそ50万個に対して不純物が1個という割合になります。それだけでも、電気の通りやすさは、純粋なシリコンとは大きく変わります。ごく少量で性質が大きく変わるので、入れる量を正確に決めることが、半導体づくりの腕の見せどころになります。

濃さの単位「個/cm3」は、後の講でも使います。1 cm3は、1辺1cmの立方体の体積です。

確認クイズ:不純物の量を、正確に決めることが大事なのは、なぜでしょう?

答え:ごく少量でも電気の通りやすさが大きく変わるからです。

くわしく見る:割合の計算

シリコン原子の数を5×1022個/cm3、不純物を1017個/cm3とします。シリコン原子の数を不純物の数で割ると、

(5×1022) ÷ 1017 = 5×105 = 50万

したがって、シリコン原子50万個に不純物1個です。これは、100万個あたり約2個(2 ppm)にあたります。

この計算は、理解のための例です。原子の数の値は一般的な目安です。

④ 入れ方は2つ:熱拡散とイオン注入

大事なポイント:熱拡散は、高温で表面から不純物をしみこませる方法、イオン注入は、不純物をイオンにして電気の力で打ち込む方法です。

熱拡散:表面から入れるイオン注入:打ち込んで入れる表面からの深さ →濃さ表面からの深さ →濃さ表面がいちばん濃く、深くなるほど薄い表面より少し深い所がいちばん濃い
縦軸は不純物の濃さ、横軸は表面からの深さです。形のちがいを示す簡易の図で、数値は含みません。

1つ目の熱拡散は、高温の炉の中で、不純物を含むガスなどをウェハの表面にふれさせ、不純物が結晶の中へ広がるのを待つ方法です。コーヒーに入れた砂糖が、かき混ぜなくても少しずつ広がるのと似ています。拡散は、濃い所から薄い所へ広がる現象なので、表面がいちばん濃く、深くなるほど薄くなる分布になります。

2つ目のイオン注入は、不純物の原子を、電気を帯びた粒(イオン)にして、電圧で加速し、ウェハへ打ち込む方法です。深さはイオンのエネルギーで、量は打ち込んだイオンの数で決まります。そのため、図のように、表面より少し深い所に濃い部分をつくることができます。

現在の量産では、量と深さを正確に決めやすいイオン注入が広く使われています(シリコンの不純物の入れ方として、イオン注入のほうが大規模な生産で一般的だと、資料にも書かれています)。ただし、打ち込むと結晶が傷つき、不純物もまだ働かない状態になるため、あとで熱をかけて直す工程が必要です。それが第4講で学ぶ、熱処理(アニール)です。

確認クイズ:表面がいちばん濃く、深くなるほど薄い分布になるのは、熱拡散とイオン注入のどちらでしょう?

答え:熱拡散です。

⑤ なぜ、場所を選んで入れるのか

大事なポイント:n型の領域とp型の領域を、必要な場所だけにつくるために、レジストなどで覆って、むき出しの所にだけ入れます。

半導体の回路では、同じウェハの上に、n型の部分とp型の部分を、細かく並べてつくります。そこで、不純物を入れたくない所を、マスク(覆い)で守ります。マスクには、これまでの講座で学んだレジストのほか、酸化膜などが使われます。

イオン注入では、レジストのマスクを使い、むき出しの所にだけイオンが入ります。このとき、イオンは、マスクの厚みで止められます。マスクが十分に厚いことが、前提です。

n型とp型が接する面をpn接合といいます。ダイオードやトランジスタの基本になる部分で、入れる深さと濃さで、性能が変わります。次の講から、イオン注入の仕組みを、順に説明します。

確認クイズ:入れたくない場所を守る覆いのことを、何というでしょう?

答え:マスクです。レジストや酸化膜などが使われます。

安全のひとこと:不純物を入れる工程では、ヒ素、リン、ホウ素を含むガスや固体を使うことがあり、毒性や可燃性をもつものがあります。また、高い電圧や高温の装置も使います。工場や実習では、専用の設備と決まりで管理されます。取り扱いは、必ず職場の決まりとSDS(安全データシート)に従います。

この講のまとめ

この講のポイント

シリコンは、そのままでは電気を通しにくく、リンやホウ素をごく少量入れて、n型とp型をつくり分けます。
不純物の入れ方には、熱で広げる拡散と、イオンを打ち込む注入があり、現在はイオン注入が広く使われます。
入れる場所はマスクで選び、n型とp型が接する面(pn接合)が、ダイオードやトランジスタの基本になります。

次の講では、イオン注入の装置が、どのようにイオンをつくり、選び、加速し、ウェハへ届けるのかを説明します。

ことばのおさらい

  • ドーピング:不純物を意図して少量入れ、電気の通りやすさを変えることです。
  • ドーパント:ドーピングで入れる不純物の元素です。
  • n型・p型:電子が主役の半導体をn型、正孔が主役の半導体をp型といいます。
  • 正孔(ホール):電子が抜けたあとの空き。+の電気を運ぶ粒として働きます。
  • 熱拡散:高温で、不純物を表面から結晶の中へ広げる方法です。
  • イオン注入:不純物をイオンにして加速し、ウェハへ打ち込む方法です。
  • pn接合:p型とn型が接する面です。

よくある誤解

Q. 不純物を入れると、半導体の質が悪くなるのですか?

いいえ。ここでの不純物は、目的をもって量と場所を決めて入れる材料です。意図せず混ざる汚れとは、区別して考えます。

Q. 不純物は、たくさん入れるほどよいですか?

いいえ。濃さは役目によって決まり、濃すぎても性能が悪くなることがあります。入れる量を正確に決めることが大切です。

参考にした公式情報

タイトルとURLをコピーしました