今回のテーマは、
「光を当てると、なぜ膜に形を残せるのか」
答え:レジストは、光が当たった所と当たらない所で、現像液への溶けやすさが変わる膜です。ポジ型は当たった所が溶け、ネガ型は当たった所が残ります。少ない光でも働くように、光で酸をつくる方式(化学増幅型)が使われます。
この記事でわかること
- ① レジストの中身
- ② ポジ型とネガ型
- ③ 従来型のレジスト
- ④ 光で酸をつくる方式
- ⑤ 薄い膜にする理由
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① レジストの中身:樹脂・感光剤・溶媒
大事なポイント:レジストは、樹脂、感光剤、溶媒の3つを混ぜた液で、塗ったあとに膜になります。
第1講では、露光が「光で型をつくる工程」であること、レジストにはポジ型とネガ型があることを学びました。この講では、型の材料であるレジストの中身を説明します。
フォトレジストは、光を当てると、現像液への溶けやすさが変わる材料です。名前の「レジスト(resist)」は、英語で「抵抗する」の意味で、エッチングなどの薬品に耐えて、下の層を守る役目から来ています(これは一般的な説明です)。
従来型のレジストは、次の3つの成分からできています。
- 樹脂:膜の骨組みになる材料です。ウェハへのくっつきやすさや、薬品への強さを決めます。プラスチックの仲間と考えると、イメージしやすいでしょう。
- 感光剤:光に反応して、溶けやすさを変える成分です。
- 溶媒:樹脂や感光剤をとかし、塗れる液体の状態に保ちます。
この3つの役割分担を知っておくと、あとの節の「化学増幅型」や「DNQ-ノボラック」の話が、整理しやすくなります。
たとえば、写真フィルムを思い浮かべてください。フィルムの表面には、光に反応する物質が塗られていて、光が当たった所だけが変化します。レジストの感光剤も、同じように、光が当たった所だけが変化します。そして、現像液は、溶ける部分だけを溶かし取る液体です。レジストが形を残すには、「溶ける所」と「溶けない所」の差が必要です。
確認クイズ:レジストの3成分のうち、光に反応して溶けやすさを変えるのは、どれでしょう?
答え:感光剤です。
くわしく見る:なぜ3つに分けて考えるのか
レジストを新しくつくるとき、全部を一度に変える必要はありません。たとえば、より短い波長の光に合わせたいなら、感光剤だけを変え、樹脂は同じまま使う、という考え方ができます。成分ごとに役割を分けておくと、材料の改良が進めやすくなります。
これは、考え方の説明です。実際の材料開発では、成分どうしが互いに影響し合うため、1つだけを変えるのは簡単ではありません。
② ポジ型とネガ型:残る形が逆になる
大事なポイント:光が当たった所が溶けるのがポジ型、溶けなくなるのがネガ型です。
第1講で出てきた2種類について、もう少し説明します。
まず、形ができるまでの流れです。
- マスクを通して、レジストに光を当てます(露光)。
- ウェハを、現像液につけます(現像)。
- ポジ型なら光が当たった所が、ネガ型なら光が当たらなかった所が、溶けます。
- 残った膜が、エッチングなどの型になります。
それぞれの特徴は、次のとおりです。
- ポジ型:光が当たった部分が、現像液に溶けるようになります。光が当たらなかった部分が、膜として残ります。
- ネガ型:光が当たった部分が、現像液に溶けなくなります。光が当たらなかった部分が、洗い流されます。
ポジ型は、最も一般的な種類とされます。ネガ型の例には、エポキシ系の樹脂を使った材料があり、これは取り除きにくいため、残したままにする構造に向く、とされます。
図のように、同じマスクでも、ポジ型では穴の部分が抜け、ネガ型では穴の部分だけが残ります。どちらを使うかは、つくりたい形や、必要な性質で選びます。なお、ネガ型で光が当たると溶けなくなるのは、一般には、材料どうしが網のように結びつく反応(架橋)が起こるためです(一般的な説明です)。
確認クイズ:透明な穴が1つだけあるマスクで露光しました。ネガ型では、現像後に何が残るでしょう?
答え:穴の形のレジストだけが残ります。
くわしく見る:溶けて取り除かれる面積を、割合で見る
マスクの透明な部分が、全体の10%だったとします。
ポジ型では、光が当たる10%の部分が溶けて取り除かれ、残りの90%が膜として残ります。ネガ型では、光が当たる10%だけが残り、残りの90%が洗い流されます。
ポジ型:10%が除かれる / ネガ型:100 − 10 = 90%が除かれる
同じマスクでも、溶ける量が大きく違います。数字は、考え方を示すための仮のものです。
③ 従来型のレジスト:DNQ-ノボラック
大事なポイント:従来型のポジ型は、感光剤が溶けるのを邪魔していて、光が当たるとその邪魔が弱まります。
長く使われてきたポジ型のレジストに、DNQ-ノボラックがあります。ノボラックは、フェノールとホルムアルデヒドからできた樹脂です。DNQ(ジアゾナフトキノン)は感光剤です。
この組み合わせでは、光が当たらない部分で、DNQがノボラックの溶けるのを抑えています。光が当たると、DNQが変化して、溶ける速さが上がります。この速さの差を使って、形をつくります。
現像には、塩基性(アルカリ性)の水溶液を使います。DNQ-ノボラックでは、0.26N(規定)のTMAHという水溶液が、例として挙げられています。TMAHは、金属を含まない塩基です。規定(N)は、溶液の濃さを表す単位の1つです。
ここで大切なのは、「溶ける速さ」です。光が当たらない部分も、ほんの少しは溶けます。ただし、光が当たった部分のほうが、ずっと速く溶けます。この速さの差が大きいほど、形がはっきり残ります(一般的な説明です)。
確認クイズ:DNQ-ノボラックで、光が当たらない部分が溶けにくいのは、何が溶けるのを抑えているからでしょう?
答え:DNQです。
くわしく見る:0.26N のTMAHを、質量のパーセントに直す
TMAHは1価の塩基なので、0.26N は1リットルあたり0.26モルです。TMAHの式量(1モルの質量)は、約91.15 g/mol です(一般的な化学の値です)。
0.26 mol/L × 91.15 g/mol ≈ 23.7 g/L
水溶液1リットルの質量を、約1,000gとみなすと、
23.7 ÷ 1,000 ≈ 0.0237 = 約2.4%
です。この計算は、溶液の密度を水と同じと見なした近似で、厳密ではありません。
④ 化学増幅型:少ない光で、たくさん反応させる
大事なポイント:光で「酸」をつくり、その酸が、反応を何度も進めます。だから、少ない光で足ります。
回路が細かくなると、光は弱くなり、レジストが十分に反応しにくくなります。そこで考えられたのが、化学増幅型です。しくみは、次の手順です。
- 光で酸が出る:光が当たると、光酸発生剤が分解して、酸ができます。
- 加熱で酸が動く:露光のあとの加熱(露光後ベーク)で、酸が樹脂の中を動きます。
- 酸が反応を進める:酸は、自分は減らずに、まわりの樹脂の反応を進めます(このような働きを触媒といいます)。
- 溶けやすくなる:反応した樹脂は、現像液に溶けやすくなります。
1個の酸が、休まず、たくさんの樹脂を次々と変えていく様子を、思い浮かべてください。光の役目は、最初の酸を1個つくることだけです。
1個の酸が、たくさんの反応を起こせるので、光の数を少なくできます。仮に、1個の酸が200回の反応を起こし、光1個が酸1個をつくるとすると、必要な光の数は、1/200です。この方法は、1982年に提案され、1980年代半ばから1990年ごろに、半導体の生産で使われはじめたとされます。 ▶ 2級でくわしく
確認クイズ:化学増幅型で、1個の酸が多くの反応を進められると、何が助かるでしょう?
答え:必要な光の量が少なくて済みます。
くわしく見る:光の数の目安を、簡単な計算で見る
光1個から酸が1個できて、その酸が1個あたり N 回の反応を進めるとします。同じ量の反応を起こすのに必要な光の数は、反応を進めなかった場合の 1/N です。
N = 200 のとき: 1 ÷ 200 = 0.005 = 0.5%
実際には、光1個が酸1個になる効率や、酸が動ける範囲によって、この数字は変わります。上の計算は、考え方を示す目安です。なお、酸が動く範囲が広がりすぎると、形がぼけます。このぼけと感度の両立は、2級で学びます。
⑤ 薄い膜にする理由:細くて高い壁は倒れる
大事なポイント:細かい形ほど、レジストは薄くしないと、倒れてしまいます。
レジストの膜を、そのまま壁のように残すと、細くて高い壁になります。細くて高い積み木が倒れやすいのと同じで、細くて高い壁は、現像のときに倒れることがあります。
壁の高さを幅で割った値を、アスペクト比といいます。たとえば、幅100nm、高さ400nmの壁は、アスペクト比が4です(4:1と書きます)。一般に、アスペクト比は4:1より小さくするとされ、125nmより小さい密な形では、膜の厚さを0.5μm(500nm)より薄くする必要があるとされます。μm(マイクロメートル)は、1mの100万分の1の長さで、1μm=1,000nmです。
膜の厚さは、形の細かさに合わせて選びます。厚い膜は、下の層を守る力が強い代わりに、細かい形には向きません。薄い膜は、細かい形に向く代わりに、守る力が弱くなります。そのため、細かさと守る力の間には、バランスがあります(一般的な説明です)。
言いかえると、形を細かくするには、光の波長を短くするだけでなく、レジストの膜も薄くする必要があります。
確認クイズ:幅100nmの壁を、アスペクト比4:1にするには、高さは何nmにすればよいでしょう?
答え:400nmです(100 × 4 = 400)。
くわしく見る:膜の厚さと、つくれる細さの関係
アスペクト比の上限を4とします。幅50nmの壁をつくるとき、高さの上限は次のとおりです。
50 × 4 = 200(nm)= 0.2μm
逆に、膜の厚さが約1μm(1,000nm)のとき、4:1を守れる最小の幅は、
1,000 ÷ 4 = 250(nm)
です。薄い膜にするほど、細い形がつくれる、ということです。ただし、膜を薄くすると、あとのエッチングで下の層を守る力は弱まります。薄さと強さは、両立が難しい関係です。この数字は、目安の計算です。
安全のひとこと:現像液に使うTMAHは、毒性が高く、皮膚に触れると危険な薬液です。工場では、専用の設備と決まりで厳重に管理されます。取り扱いは、必ず職場の決まりとSDS(安全データシート)に従います。
この講のまとめ
レジストは、樹脂、感光剤、溶媒の混合液で、光で現像液への溶けやすさが変わります。
ポジ型は光が当たった所が溶け、ネガ型は当たった所が残ります。従来型はDNQが溶けを抑え、化学増幅型は酸が反応を何度も進めます。
細かい形ほど、アスペクト比を4:1より小さくするため、レジストの膜を薄くする必要があります。
次の講では、レジストを塗り、焼き、現像する、前後の手順を学びます。
ことばのおさらい
- 樹脂:レジストの骨組みになる材料です。
- 感光剤:光に反応して、溶けやすさを変える成分です。
- ポジ型・ネガ型:光が当たった所が溶けるのがポジ型、溶けなくなるのがネガ型です。
- DNQ-ノボラック:従来型のポジ型レジストです。DNQが溶けるのを抑え、光で弱まります。
- 化学増幅型:光で酸をつくり、その酸が反応を何度も進めるレジストです。
- アスペクト比:壁の高さを、幅で割った値です。
よくある誤解
Q. ポジ型は、光が当たった所が残るのですか?
いいえ。ポジ型は、光が当たった所が溶けて、なくなります。残るのは、光が当たらなかった所です。
Q. 化学増幅型では、光1個で反応も1個だけ起こるのですか?
いいえ。光1個でできた酸が、触媒として、何度も反応を進めます。これが、少ない光で済む理由です。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Photoresist」(レジストの3成分、ポジ型とネガ型、DNQ-ノボラック、0.26NのTMAH、化学増幅型、ネガ型の例)
- Wikipedia「Photolithography」(ポジ型が最も一般的であること、アスペクト比4:1、125nm未満で0.5μm未満)
TMAHの式量、規定とモル濃度の換算、架橋の説明、「レジスト」の語源、酸が200回反応する数字は、一般知識や仮の数字です。図は、記事用に描いた簡易の図です。

