今回のテーマは、
「PVDでは、どうやって固体の金属を、ウェハの上の薄い膜にするのか」
答え:真空の中で材料を蒸気にして飛ばし、ウェハの上で固体に戻します。飛ばし方は、加熱して蒸発させる蒸着と、イオンをぶつけてたたき出すスパッタの2つが代表です。
この記事でわかること
- ① PVDの基本の流れ
- ② なぜ真空が必要か
- ③ 蒸着(加熱して飛ばす)
- ④ スパッタ(ぶつけて飛ばす)
- ⑤ スパッタの工夫と使いどころ
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① PVDは、「出す・飛ばす・付ける」の3ステップ
大事なポイント:PVDは、固体の材料から原子を出し、真空の中を飛ばして、ウェハの上で固体に戻す方法です。
前の講で、PVDは「固体の材料を蒸気にして、ウェハの上で固体に戻す方法」だと学びました。流れを、手順にして確かめましょう。
- 出す:材料のかたまり(ソース、またはターゲット)から、原子を飛び出させます。
- 飛ばす:空気を抜いた容器の中を、原子がウェハへ向かって飛びます。
- 付ける:ウェハの表面に原子が付いて、固まり、膜になります。
ステップ①の「出し方」で、方法が分かれます。熱して蒸発させるのが蒸着、イオンをぶつけてたたき出すのがスパッタです。この2つが、PVDの代表です。
PVDは、化学反応を使うCVDなどに比べて、低い温度でできる方法がある、という特徴があります。このため、熱に弱い部分があるときにも使いやすい方法です。
確認クイズ:PVDで、原子の「出し方」にあたる2つの代表的な方法は何でしょう?
答え:蒸着(熱して蒸発させる)と、スパッタ(イオンをぶつけてたたき出す)です。
② なぜ真空が必要か:原子がぶつからずに飛べるように
大事なポイント:空気が多いと、飛ぶ原子が空気の分子にぶつかります。空気を抜いて、ウェハまで届くようにします。
ふだんの空気の中は、窒素や酸素の分子でいっぱいです。この中で原子を飛ばしても、すぐ分子にぶつかって、ウェハに届きません。そこで、容器の空気をポンプで抜き、真空にします。
ぶつからずに飛べる距離の平均を、平均自由行程といいます。蒸着の説明では、圧力が10−4 Pa(パスカル。大気圧の約10億分の1)のとき、0.4nmの粒の平均自由行程は約60mとされています。装置の容器が1m前後なら、その60倍ですから、途中でぶつかることはほとんどありません。
空気が多いと、困ることがほかにもあります。たとえば、アルミニウムを酸素のあるところで飛ばすと、酸化アルミニウムになってしまいます。また、ぶつかるとウェハに届く量が減るため、厚さの調整もむずかしくなります。
確認クイズ:原子が、ぶつからずに飛べる距離の平均を何というでしょう?
答え:平均自由行程です。
くわしく見る:圧力を上げると、距離はどう変わるか(目安の計算)
平均自由行程は、おおよそ圧力に反比例する、と考えられます(粒の種類と温度が同じ場合の目安で、厳密ではありません)。10−4 Paで約60mとすると、
10−2 Pa(圧力が100倍):60 m ÷ 100 = 0.6 m
1 Pa(圧力が10,000倍):60 m ÷ 10,000 = 0.006 m = 6 mm
となります。圧力が高いと、飛べる距離が、装置のサイズより短くなり、原子がぶつかりながら進むことになります。なお、本文で出典があるのは「10−4 Paで約60m」の部分だけです。
③ 蒸着:材料を熱して、蒸発させる
大事なポイント:蒸着は、材料を熱して蒸発させ、その蒸気をウェハの上で固めます。蒸気はほぼ一方向から来るため、段差の陰には付きにくくなります。
蒸着では、材料を熱します。熱し方は、おもに2つです。
- 抵抗加熱:電気を流して熱くした容器(ボート)の中で、金属をとかして蒸発させます。
- 電子ビーム:電子を高いエネルギーで材料に当てて、熱します。
蒸発した材料は、ほとんどまっすぐ飛び、冷たいウェハの上で固まります。ここで、1つ注意があります。蒸気が1つの方向から来るため、ウェハに高い段差があると、その陰には蒸気が届きにくくなります。この現象を「影になる(シャドウイング)」、または「段差の付き回りが悪い」といいます。ウェハを2つの軸で回して、影を減らす装置もあります。
確認クイズ:蒸着で、段差の陰に膜が付きにくいのは、なぜでしょう?
答え:蒸気が、ほぼ一方向から来るためです。
くわしく見る:影の長さを見積もる(目安の計算)
高さ h の段差に、蒸気が真上から角度θ(シータ)だけ傾いて来るとします。陰の長さ L は、図形の関係から、
L = h × tanθ
と表せます。段差の高さ100nmのとき、θ=45°(tan45° = 1)なら L = 100 nm、θ=60°(tan60° ≈ 1.73)なら L ≈ 173 nm です。傾きが大きいほど、陰が長くなります。
実際の装置の角度や、段差の形はもっと複雑です。ここでは、考え方をつかむための簡単な計算です。
④ スパッタ:イオンをぶつけて、たたき出す
大事なポイント:スパッタは、プラズマの中のアルゴンイオンを材料の板(ターゲット)にぶつけて、原子をたたき出す方法です。
スパッタの手順は、次のとおりです。
- 容器を真空にしてから、アルゴンというガスを少しだけ入れます。アルゴンは、他の物質と反応しにくい気体(不活性ガス)です。
- ターゲット(材料の板)に、マイナスの電圧をかけます。すると、ガスの一部が、+の電気をもつ粒(イオン)と電子に分かれた状態になります。これがプラズマです。
- アルゴンの+イオンは、−のターゲットに引き寄せられて、勢いよくぶつかります。
- ぶつかった勢いで、ターゲットの原子がたたき出されます。
- たたき出された原子が飛んで、ウェハに付き、膜になります。
ビリヤードで、手球が玉に当たって玉が飛び出すのと似た考え方です。
スパッタには、次の特徴があります。
- 融点がとても高い材料でも、膜にできます(熱でとかす蒸着では、むずかしい材料です)。
- 膜の成分が、ターゲットの成分に近くなります。
- 蒸着の膜より、ウェハへの付着(密着)が良いのが普通です。
- 弱点として、アルゴンが、膜の中に不純物として少し入ることがあります。
確認クイズ:スパッタで、ターゲットにぶつけるのは何でしょう?
答え:アルゴンのイオン(+の電気をもつ粒)です。
⑤ 磁石でスパッタを速くする(マグネトロン)と、使いどころ
大事なポイント:磁石で電子をターゲットのそばに閉じこめると、イオンが増えて、速く付きます。配線に使う金属の膜によく使われます。
ふつうのスパッタは、付く速さがあまり速くありません。そこで、ターゲットの裏に磁石を置くマグネトロンスパッタが広く使われます。磁石の力で、電子がターゲットの表面近くを、ぐるぐる回るように動きます。電子がガスのアルゴンに何度もぶつかるので、アルゴンイオンが増え、そのぶん、たたき出される原子も増えて、付く速さが上がります。また、圧力が低くても、プラズマを保てます。
スパッタは、半導体の工程で、金属の膜を付けるのに、広く使われています。たとえば、銅の配線では、めっきで銅を埋める前に、薄い銅の下地(シード層)をPVDで付けます。
スパッタの弱点も確認しておきます。原子はまっすぐ飛ぶだけでなく、まわりにも広がって飛ぶので、蒸着のようなくっきりした影はできにくく、段差への付き回りは蒸着より良くなります。ただし、深く細い穴の底まで均一に付けるのは、次の講以降で学ぶCVDやALDのほうが得意です。
確認クイズ:マグネトロンスパッタで、ターゲットの裏に磁石を置くと、付く速さはどうなるでしょう?
答え:上がります(電子がターゲットのそばに閉じこめられ、イオンが増えるため)。
くわしく見る:付ける時間を見積もる(仮の数字)
毎分30nm付く条件があるとします(これは仮の数字です。実際の速さは、材料、電力、圧力などで大きく変わります)。100nmの膜に必要な時間は、
100 nm ÷ 30 nm/分 ≈ 3.3分(約3分20秒)
です。第1講の考え方(厚さ ÷ 速さ)と同じです。
この講のまとめ
PVDは、「出す・飛ばす・付ける」の3ステップで、材料を蒸気にしてウェハで固める方法です。
空気が多いと原子がぶつかるため、真空にします。蒸着は熱して飛ばし、スパッタはアルゴンイオンをぶつけて飛ばします。
どちらもほぼ一方向から付くので、段差の陰には付きにくく、深い穴の底への付き回りには、限りがあります。
次の講では、ガスの化学反応で膜をつくるCVDが、この付き回りの弱点をどう補うのかを見ていきます。
ことばのおさらい
- 蒸着:材料を熱して蒸発させ、ウェハの上で固めるPVDの方法です。
- スパッタ:イオンをぶつけて、ターゲットの原子をたたき出すPVDの方法です。
- ターゲット:スパッタで、原子をたたき出される材料の板です。
- 平均自由行程:粒が、ぶつからずに飛べる距離の平均です。
- プラズマ:ガスの一部が、+のイオンと電子に分かれた状態です。
- マグネトロンスパッタ:磁石を使って、付く速さを上げたスパッタです。
よくある誤解
Q. 真空にするのは、きれいにするためだけですか?
いいえ。原子がぶつからずにウェハへ届くようにし、空気との反応を防ぐためでもあります。
Q. スパッタは、材料を熱してとかす方法ですか?
いいえ。熱でとかすのは蒸着です。スパッタは、イオンをぶつけてたたき出します。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Physical vapor deposition」(PVDの定義、蒸着とスパッタ、低温で行えること)
- Wikipedia「Evaporation (deposition)」(真空が必要な理由、平均自由行程の例、加熱の方法、影(段差の付き回り))
- Wikipedia「Sputter deposition」(スパッタのしくみ、アルゴン、マグネトロン、特徴と弱点、半導体での利用)
- Wikipedia「Copper interconnects」(銅のシード層をPVDで付けること)
圧力と平均自由行程の比例関係、影の長さの式、付く速さの数字(毎分30nm)は、一般的な知識または仮の数字による目安です。「CVDやALDのほうが穴の底に付けやすい」は、一般的な知識で、次の講以降で出典つきで説明します。図は、記事用に描いた簡易の図です。

