今回のテーマは、
「これまでの光の限界を越えて、さらに細かい形を写すには、どうするのか」
答え:波長を約13.5nmまで短くした光(EUV、極端紫外光)を使います。ただし、あらゆる物質が吸収するので、真空の中で、レンズではなく特別な鏡を使い、マスクも反射型にします。
この記事でわかること
- ① 波長13.5nm
- ② 真空とミラー
- ③ 光源
- ④ 反射型マスク
- ⑤ マスクを守る膜と、光の粒の少なさ
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① 波長13.5nm:さらに細かい形を写すために
大事なポイント:EUVは、波長が約13.5nmの光です。ArFの約14分の1の波長で、より細かい形を写せます。
第4講で、写せる最小の大きさは、波長を短くするか、NAを大きくすると、小さくなると学びました。この講では、波長を、約13.5nmまで一気に短くした、EUVについて説明します。「極端」紫外光と呼ぶのは、ふつうの紫外線(i線、KrF、ArFなど)より、さらに波長が短いからです。
EUV(極端紫外光)は、波長が約13.5nmの光です。第4講の式、CD = k1 × λ / NA で考えると、波長λが約14分の1になれば、CDも小さくできます。
出典には、次のような値が挙がっています。標準的なEUV装置は、NA 0.33で、解像度は13nm(k1 = 0.32)です。さらにNAを大きくした装置は、NA 0.55で、8nmです。ArF液浸(NA 1.35)は、同じ表で38nm(k1 = 0.27)です。EUVは、同じ式で、より細かい形を写せることが分かります。 ▶ 2級でくわしく
確認クイズ:EUVの波長は、ArF(193nm)のおよそ何分の1でしょう?
答え:約14分の1です(193 ÷ 13.5 ≈ 14.3)。
くわしく見る:式で、13nmと8nmを確かめる
NA 0.33、k1 = 0.32、波長13.5nmのとき、
0.32 × 13.5 ÷ 0.33 ≈ 4.32 ÷ 0.33 ≈ 13.1(nm)
です。NAを0.55にすると、
0.32 × 13.5 ÷ 0.55 ≈ 4.32 ÷ 0.55 ≈ 7.9(nm)
で、出典の約8nmと合います。ArF液浸も、k1 = 0.27として、0.27 × 193 ÷ 1.35 ≈ 38.6nm で、出典の38nmとほぼ合います。k1の値は、出典に挙がっているものを使いました。式は目安で、厳密な値ではありません。
② 真空とミラー:EUVはレンズが使えない
大事なポイント:EUVは、あらゆる物質に吸収されます。そのため、真空の中で、レンズではなく鏡を使います。
EUV光は、空気を含め、あらゆる物質に吸収されます。そのため、装置は真空にして、光が空気に吸収されないようにします。また、ガラスのレンズも、光を吸収してしまうので、使えません。かわりに、鏡で光を反射させて進めます。
ふつうの鏡では、EUVはほとんど反射しません。そこで、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の薄い層を、交互に何十組も重ねた多層膜の鏡を使います。1つ1つの境目でわずかに反射した光が、重なって強め合い、全体として強い反射になります。
光を通す窓も、レンズも使えない世界を、想像してください。鏡で反射させる以外に、光を導く方法がなくなります。EUVの装置は、そうした条件の中で、光を運びます。
それでも、反射は完全ではありません。理論上の上限は、50組で約75%とされ、1枚あたり約30%の光が吸収される、と説明されています。鏡が何枚もあるので、光は少しずつ弱まっていきます。
確認クイズ:鏡1枚の反射率を70%とすると、鏡が4枚あるとき、光は最初の何%になるでしょう?
答え:約24%です(0.7 × 0.7 × 0.7 × 0.7 ≈ 0.24)。
くわしく見る:鏡の枚数と、光の残り方
反射率を0.7として、枚数を増やしたときの残り方は、次のとおりです。
0.72 = 0.49 / 0.74 ≈ 0.24 / 0.79 ≈ 0.040
出典には、2002〜2009年ごろの装置で、集光用の鏡が2枚以上、投影用が6枚、マスクが1枚、とあります。光を反射する面が合計9つとして、0.79 ≈ 0.040、すなわち約4%しか残りません。出典にも、約96%が吸収される、と書かれており、ほぼ合います。反射率0.75でも、0.759 ≈ 0.075、約7.5%です。
鏡の枚数は、装置の世代によって異なります。ここでの計算は、考え方を示す目安です。
③ 光源:スズの液滴にレーザーを当てる
大事なポイント:スズの小さな液滴に、レーザーを当てて、高温のプラズマにし、EUV光を出します。
EUV光を出す方法の1つが、スズの液滴を使うものです。手順は、次のとおりです。
- 直径約25μmのスズの液滴を、秒速約70mで落とします(μmは、1mの100万分の1の長さで、1μm=1,000nmです)。
- CO2レーザー(波長10.6μm)を、1個の液滴に2回当てます。1回目は、弱い予備のレーザーで、液滴の形を整えます。
- 2回目の強いレーザーで、液滴を高温のプラズマ(原子から電子がはがれた状態)にします。
- プラズマから、EUV光が出ます。
この流れを、毎秒約5万回(50kHz)くり返します。レーザーの光のうち、EUV光になるのは、約5〜6%とされます。また、スズが鏡に付かないよう、水素ガスの流れで掃除します。出力は、約250Wの例が挙がっています。
毎秒約5万回ということは、1秒間に5万個の液滴が、休まずに落ち続けるということです。また、レーザーを2回当てるのは、1回目で液滴を平たく広げると、2回目のレーザーが当たる面積が大きくなり、効率が上がるためと説明されます(一般的な説明です)。
確認クイズ:液滴が秒速70mで落ち、毎秒5万回レーザーが当たるとき、液滴どうしの間隔は、およそどれだけでしょう?
答え:約1.4mmです(70 ÷ 50,000 = 0.0014m)。
くわしく見る:光源の出力と、レーザーの大きさの目安
EUV光の出力が250W、レーザーからEUV光への変換が約5%とします。他の損失は考えないとすると、必要なレーザー出力は、
250 ÷ 0.05 = 5,000(W)= 約5kW
です。変換効率が6%なら、250 ÷ 0.06 ≈ 4,170W です。したがって、約4〜5kWのレーザーが必要という目安になります。
液滴の間隔も確かめます。70m/s ÷ 50,000回/s = 0.0014m = 1.4mm です。また、CO2レーザーの波長10.6μm(10,600nm)は、EUVの13.5nmの、10,600 ÷ 13.5 ≈ 785倍の長さです。数字は、出典の値を使った単純な計算で、実際の装置の条件とは異なることがあります。
④ 反射型マスク:多層膜の上に、吸収体で形を描く
大事なポイント:EUVのマスクは、光を通すのではなく、反射させます。吸収体のある所では、光が反射しません。
EUVでは、ガラスのマスクも光を吸収してしまうので、使えません。そこで、反射型のマスクを使います。構造は、次のとおりです。
- 多層膜:シリコンとモリブデンを、40〜50層、交互に重ねます。光を反射する役目です。
- キャッピング層:多層膜を守る、ルテニウムの薄い膜です。
- 吸収体:タンタル系の材料で、光を吸収して、回路の形を描きます。
吸収体のない所だけが、光を反射します。反射した光に回路の形がつき、鏡を経て、ウェハに届きます。透明な石英にクロムで形を描いた、従来の透過型のマスクとは、光の使い方が逆です。
従来のマスクは、光が「通る所」と「止まる所」で、形を描きます。EUVマスクは、光が「反射する所」と「吸収される所」で、形を描きます。どちらも、明と暗の組み合わせで形をつくる点は、同じです。
確認クイズ:EUVマスクで、光を吸収して、回路の暗い部分をつくるのは、どの部分でしょう?
答え:吸収体(タンタル系の材料)です。
くわしく見る:多層膜の層の数を、組の数に直す
多層膜は、シリコンとモリブデンを交互に重ねます。1組は2層です。40〜50層は、
40 ÷ 2 = 20組 / 50 ÷ 2 = 25組
です。鏡の多層膜は、50組(100層)が理論上の上限の例で、マスクの方が、層の数は少なめです。層の数は、設計によって変わります。
⑤ ペリクルと、光子の少なさ:EUVの難しさ
大事なポイント:EUVは、マスクを守る膜の開発が難しく、光子が少ないため、形にばらつきが出やすいという課題があります。
マスクには、ほこりが付いてはいけません。そこで、マスクの少し上に、薄い膜を張り、ほこりを防ぎます。この膜をペリクルといいます。ほこりが膜の上に付いても、ピントがずれていて、ウェハには写りません。ところが、EUVは、ほとんどの材料に吸収されるので、光を通す、丈夫な膜をつくるのが、とても難しい、とされています。 ▶ 2級でくわしく
もう1つの課題は、光子の数です。光は、光子という粒の集まりです。波長が短いほど、1個の光子がもつエネルギーは大きくなります。EUVの光子は、1個で、ArFの約14倍のエネルギーをもちます。そのため、同じ露光エネルギーなら、EUVの光子の数は、約14分の1です。
光子が少ないと、場所によって、光子の数がばらつきます。さらに、EUVが当たったレジストの中では、二次電子が出て、ランダムな反応の原因になります。こうしたランダムなばらつきは、確率的ばらつきと呼ばれます。 ▶ 2級でくわしく
光子の少なさが困る理由を、雨粒で考えます。同じ面積に降る雨粒が1,000個なら、ほぼ均一にぬれます。ところが、2個だと、場所によって、ぬれ方に大きな差が出ます。光子も、数が少ないと、同じように、場所による差が目立ちます。
確認クイズ:同じ露光エネルギーのとき、EUVの光子の数は、ArFと比べて、およそどうなるでしょう?
答え:約14分の1です。
くわしく見る:光子1個のエネルギーと、数の目安
光子1個のエネルギーは、次の式で求められます(一般的な物理の式で、数値は目安です)。
E [eV] ≈ 1,240 ÷ 波長[nm]
EUVでは 1,240 ÷ 13.5 ≈ 92eV、ArFでは 1,240 ÷ 193 ≈ 6.4eV です。92 ÷ 6.4 ≈ 14.4倍で、波長の比193 ÷ 13.5 ≈ 14.3倍とほぼ合います。
露光量を30mJ/cm²とします(出典に挙がる値の例です)。1nm²あたりのエネルギーは、30mJ = 0.030J、1cm² = 1014nm²なので、0.030 ÷ 1014 = 3 × 10−16J です。1eV = 1.6 × 10−19J なので、92eVは1.47 × 10−17Jです。
3 × 10−16 ÷ 1.47 × 10−17 ≈ 20(個/nm²)
たとえば、10nm四方(100nm²)には、約2,000個です。光子の数のゆらぎは、およそ個数の平方根で、√2,000 ≈ 45個、割合で約2%です(一般的な統計の目安です)。この数字は、細い形の端で、ばらつきとして効いてきます。
安全のひとこと:EUV装置では、水素ガス、スズ、高出力のレーザーを使います。それぞれ、燃えやすさ、金属の取り扱い、強い光の危険があります。工場では、専用の設備と決まりで厳重に管理されます。取り扱いは、必ず職場の決まりとSDS(安全データシート)に従います。
この講のまとめ
EUVは波長約13.5nmで、ArFの約14分の1のため、同じ式でより細かい形を写せます。
あらゆる物質が吸収するので、真空の中で、レンズではなく多層膜の鏡を使い、マスクも反射型にします。
光源はスズ液滴とレーザーで、課題として、ペリクルの難しさと、光子の少なさによる確率的ばらつきがあります。
これで、露光コース3級の5回は終わりです。2級では、ここで「2級でくわしく」とした内容を、さらにくわしく学びます。
ことばのおさらい
- EUV:波長約13.5nmの極端紫外光です。
- 多層膜:MoとSiの薄い層を交互に重ねた、反射の膜です。
- 反射型マスク:多層膜と吸収体でつくった、光を反射するマスクです。
- ペリクル:マスクのほこりを防ぐ、薄い膜です。
- 光子:光の粒です。波長が短いほどエネルギーが大きくなります。
- 確率的ばらつき:光子の数の少なさなどで起こる、ランダムなばらつきです。
よくある誤解
Q. EUVは、ArFと同じレンズで、波長だけを短くしたものですか?
いいえ。EUVは、あらゆる物質に吸収されるため、真空の中で、レンズではなく多層膜の鏡を使います。マスクも反射型です。
Q. EUVは、波長が短いので、よいことだけですか?
いいえ。鏡での光の損失、光源の出力、ペリクルの難しさ、光子の少なさによるばらつきなどの課題があります。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Extreme ultraviolet lithography」(波長、真空と鏡、多層膜、光源、マスクの構造、解像度、確率的ばらつき)
- Wikipedia「Photolithography」(解像度の式)
- Wikipedia「Photomask」(ペリクルの目的)
- Bits&Chips(技術ニュース)「EUV用ペリクルの開発」(EUV用ペリクルの難しさ)
ふつうの鏡ではEUVがほとんど反射しないという説明、光子のエネルギーの式、光子の数とゆらぎの計算、反射率70%の仮定、1組=2層の説明は、一般的な知識や仮の数字です。図は、記事用に描いた簡易の図です。

