今回のテーマは、
「光で、どこまで細かい形を写せるのか」
答え:写せる最小の大きさは、おおよそ、光の波長に比例し、レンズが光を集める力に反比例します。波長を短くするか、集める力を大きくするほど、細かい形を写せます。レンズとウェハの間を水で満たすと集める力を大きくできますが、ピントが合う範囲は浅くなります。
この記事でわかること
- ① 縮小投影
- ② 波長と回折
- ③ NA(レンズの集める力)
- ④ 解像度の式
- ⑤ 水を使う方法と、ピントの合う範囲
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① 縮小投影:マスクの形を、小さくして写す
大事なポイント:マスクの形は、レンズで4〜5倍に縮めて、ウェハに写します。
第1講で、光の波長を短くすると細かい形を写せることを学びました。この講では、その理由と、波長以外に細かさを決める要素を説明します。式は目安で、「くわしく見る」の中で計算します。
第1講で見たように、マスクの形は、そのままの大きさでは写しません。光源から出た光がマスクを通り、投影レンズで縮められて、ウェハのレジストに届きます。縮める倍率は、4〜5倍が多く、マスク上の100nmの形は、ウェハ上で25nmになる例があります(4倍の場合)。
縮める理由は、一般に、マスクの形を大きく描けるほうが、マスクをつくりやすいためです。さらに、マスクの形のわずかなずれも、4倍縮小なら、ウェハ上では1/4に小さくなります(一般的な説明です)。
手順で整理すると、次のとおりです。
- 光源から光が出ます。
- 光がマスクを通ります。通る所と止まる所で、光に形がつきます。
- 投影レンズが、形を縮めて、ウェハ上の1点1点に集めます。
- レジストの、光が当たった所が反応します。
この講の残りでは、「どこまで細かく写せるか」を決める要素を、順に学びます。 ▶ 2級でくわしく
確認クイズ:縮小比が4倍のとき、ウェハ上に20nmの線をつくるには、マスク上で何nmの線が必要でしょう?
答え:80nmです(20 × 4 = 80)。
くわしく見る:縮小で、長さと面積が、どう変わるか
縮小比が4倍のとき、長さは1/4になります。面積は、縦と横の両方が1/4になるので、
(1/4) × (1/4) = 1/16
です。マスク上で100mm四方(面積10,000mm²)の領域は、ウェハ上で25mm四方(面積625mm²)になります。625 ÷ 10,000 = 0.0625 = 1/16 で、確かに合っています。縮小比は、装置によって4倍や5倍があります。ここでは4倍の例で計算しました。
② 波長:短いほど、光の広がりが小さい
大事なポイント:光は、細いすき間を通ると広がります。波長が短いほど、広がりは小さくなります。
光は波の性質をもっていて、細いすき間を通ると、扇のように広がります。この現象を回折といいます。広がると、形の輪郭がぼやけて、細かい形を写せなくなります。波長が短い光は、同じすき間でも、広がりが小さくなります。
水の波を想像してください。狭い出入口を通った水の波は、出口から扇のように広がります。光の波も、同じように振る舞います。波の山と山の間隔が短い(波長が短い)と、広がり方は小さくなります。
露光に使われてきた光の波長は、水銀ランプのg線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)、エキシマレーザーのKrF(248nm)、ArF(193nm)、そしてEUV(13.5nm)です。これらの光を使い分けて、細かさを進めてきました。
波長が短くなるたびに、光源や、レンズの材料も、新しいものが必要になってきました(一般的な説明です)。波長を短くすることは、簡単ではありません。
確認クイズ:波長が短い光は、同じすき間を通ったとき、広がりはどうなるでしょう?
答え:広がりが小さくなります。
くわしく見る:広がる角度を、簡単な式で見積もる
幅 a のすき間を、波長 λ の光が通るとき、最初に暗くなる方向の角度 θ は、次の式で見積もれます(一般的な光学の式で、ここでは目安として使います)。
sin θ = λ / a
a = 600nm とします。波長365nm(i線)では、sin θ = 365 ÷ 600 ≈ 0.608 で、θ ≈ 37.5°です。波長193nm(ArF)では、sin θ = 193 ÷ 600 ≈ 0.322 で、θ ≈ 18.8°です。波長が短いほど、角度が小さく、広がりが小さいことが、数字でも確かめられます。
これは、1本のすき間を想定した簡単な見積もりです。実際のマスクのパターンは複雑で、そのまま当てはまるわけではありません。
③ NA(開口数):レンズが光を集める力
大事なポイント:NAが大きいレンズほど、広がった光を多く集められて、細かい形を写せます。
回折で広がった光を、レンズがどれだけ集められるかが、細かい形を写す鍵です。広がった光を多く集められるほど、形の再現がよくなります。この「集める力」を表す数が、NA(開口数)です。
NAは、レンズが光を集める最大の角度θと、レンズとウェハの間の物質の屈折率nから、次のように決まります。
NA = n × sin θ
sin θ(サイン・シータ)は、角度θから決まる、0から1までの数です。たとえば、sin30° = 0.5、sin90° = 1 です。屈折率nは、光が物質の中で、真空中に比べてどれだけ進みにくいかを表す数です。空気は約1、水は約1.44です(193nmの光に対する値)。
空気中ではn=1で、sin θは1を超えないので、NAは1より小さくなります。
NAを、目の大きさにたとえると、大きな目は、広い範囲の光を集められるので、細かい所まで見えます。これは、わかりやすくしたたとえです。
NAには、もう1つ見方があります。同じレンズでも、間にある物質(空気か水か)が変わると、NAが変わります。この性質が、第5節の液浸につながります。
図のように、角度θが大きいほどNAが大きくなります。
確認クイズ:空気中(n=1)で、レンズが光を集める角度θが60°のとき、NAはおよそいくつでしょう?
答え:約0.87です(sin60° ≈ 0.87)。
くわしく見る:NAと角度の関係を、数字で見る
空気中でθ=64°とすると、NA = sin64° ≈ 0.90 です。同じ角度で、水(屈折率1.44)で満たすと、
NA = 1.44 × sin64° ≈ 1.44 × 0.899 ≈ 1.29
になります。逆に、NA = 1.35 を水の中で実現する角度は、sin θ = 1.35 ÷ 1.44 = 0.9375 で、θ ≈ 69.6°です。水の屈折率の値は、193nmの光に対するものです。
④ 解像度の式:波長とNAで決まる
大事なポイント:写せる最小の大きさは、おおよそ、波長に比例し、NAに反比例します。
写せる最小の大きさを、CD(最小線幅)といいます。目安の式は、次のとおりです。
CD = k1 × λ / NA
λは波長、NAは開口数、k1は、装置やレジストなどの工夫で決まる係数です。量産では、k1は約0.4とされます。理論上の目安(レイリーの基準)では、k1は0.61です。
たとえば、波長193nm、NA 1.35、k1 0.4 のとき、
0.4 × 193 ÷ 1.35 ≈ 77.2 ÷ 1.35 ≈ 57(nm)
です。波長を短くするか、NAを大きくするか、k1を小さくすれば、CDは小さくなります。
式の読み方は、次のとおりです。分子のλとk1が小さいほど、分母のNAが大きいほど、CDは小さくなります。たとえば、波長を半分にすると、CDも半分になります。NAを2倍にしても、CDは半分になります。
k1は、レジストの工夫や、マスクの形の工夫など、さまざまな努力で小さくできます。ただし、小さくするほど難しくなり、限界があります。
確認クイズ:k1=0.4、波長193nm、NA=1.35のとき、CDはおよそ何nmでしょう?
答え:約57nmです。
くわしく見る:条件を変えて、CDを比べる
k1=0.4で、波長とNAを変えて比べます(NA 0.9は、空気中の例として仮に置いた値です。NA 1.35とNA 0.33は、出典に挙がっている値です)。
- i線 365nm、NA 0.9:0.4 × 365 ÷ 0.9 ≈ 162nm
- ArF 193nm、NA 0.9:0.4 × 193 ÷ 0.9 ≈ 86nm
- ArF液浸 193nm、NA 1.35:0.4 × 193 ÷ 1.35 ≈ 57nm
- EUV 13.5nm、NA 0.33:0.4 × 13.5 ÷ 0.33 ≈ 16nm
出典には、193nm、NA 1.35の装置の解像度の限界が、36nmと書かれています。k1=0.25のときに当たり、0.25 × 193 ÷ 1.35 ≈ 36 です。k1は、小さいほど難しく、限界があります。式は目安で、厳密な値ではありません。
⑤ 液浸:水でNAを1より大きくし、代わりに焦点が浅くなる
大事なポイント:レンズとウェハの間を水で満たすと、NAを1より大きくできます。ただし、焦点が合う範囲は浅くなります。
NAは、n × sin θ です。nを大きくすれば、NAも大きくなります。そこで、レンズとウェハの間を、空気の代わりに、水で満たす方法が使われます。これを液浸といいます。193nmの光に対する水の屈折率は、約1.44です。この方法で、NAは1.0を超え、約1.4まで届きます。なお、光の波長は、水の中では「波長 ÷ 屈折率」に縮み、193 ÷ 1.44 ≈ 134nmになります(一般的な光学の関係です)。
使う水は、不純物を取り除いた超純水です。水が残ると跡(ウォーターマーク)が付いたり、泡が入ったりして、欠陥の原因になるため、管理が大切とされています。
もう1つ、気をつけることがあります。ピントが合う範囲(焦点深度)は、次の式の目安です。
DOF = k2 × λ / NA2
NAが大きいほど、焦点深度は浅くなります(NAの2乗に反比例)。k2は係数です。
水を使う方法は、細かさの限界を押し広げました。それでも、さらに細かい形には、1つの層を複数回に分けて露光する「多重露光」が使われます。 ▶ 2級でくわしく
確認クイズ:NAを2倍にすると、焦点深度(k2、λは同じ)は、どうなるでしょう?
答え:1/4になります(NAの2乗に反比例するため)。
くわしく見る:焦点深度の変化を、計算する
NAが0.9から1.35へ、1.5倍になったとします。k2とλは同じとします。
DOF の比 = (0.9 ÷ 1.35)2 = (0.667)2 ≈ 0.44(倍)
言いかえると、NAを1.5倍にすると、焦点深度は約0.44倍、半分より少し小さくなります。ウェハの表面にでこぼこがあると、ピントが合わなくなるので、ウェハを平らに保つことが大切になります。数値は、一定の仮定のもとでの目安です。
この講のまとめ
マスクの形は、投影レンズで4〜5倍に縮めてウェハに写します。
写せる最小の大きさは、CD = k1 × 波長 ÷ NA が目安で、波長を短く、NAを大きくするほど小さくなります。
液浸でNAを1より大きくできる代わりに、焦点深度はNAの2乗に反比例して浅くなります。
次の講では、波長を13.5nmまで短くした、EUV露光と、そのマスクを学びます。
ことばのおさらい
- 投影レンズ:マスクの形を縮めて、ウェハに集める部分です。
- 回折:光が、細いすき間を通ると広がる現象です。
- NA(開口数):レンズが光を集める力を表す数で、n × sin θ です。
- CD(最小線幅):写せる最小の大きさです。
- 液浸:レンズとウェハの間を水で満たして、NAを大きくする方法です。
- 焦点深度(DOF):ピントが合う範囲の深さです。
よくある誤解
Q. NAは、レンズの大きさのことですか?
いいえ。レンズが光を集められる角度と、間の物質の屈折率で決まる数です。
Q. NAを大きくすれば、いいことだけですか?
いいえ。解像度は上がりますが、焦点深度は、NAの2乗に反比例して浅くなります。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Photolithography」(CDの式、k1の値、レイリーの基準、焦点深度の式、波長の一覧、液浸でNAが1を超えること)
- Wikipedia「Immersion lithography」(水の屈折率1.44、NA1.35の解像度の限界36nm、焦点深度、多重露光)
- Wikipedia「Photomask」(縮小比4〜5倍、100nmが25nmの例)
NA = n × sin θ の式、回折の式(sin θ = λ/a)、水中の波長の計算(波長÷屈折率)、空気中の仮のNA 0.9は、一般的な知識や仮の数字です。図は、記事用に描いた簡易の図です。

