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半導体のGAAナノシート、板のあいだの小さな壁とは?内側スペーサーの役目と作り方

ゲートとソース・ドレインが近いと、そのあいだに寄生容量ができることを示した概念図 半導体製造工程
学習レベル★★☆☆☆中級

板を宙に浮かせれば、ゲートは、板のまわりに回り込めます。でも、ゲートを近づけてはいけない場所が、ひとつだけあります。それは、板の両端にある、ソースとドレインのそばです。

そこで、板と板のあいだに、小さな壁を入れます。これが「内側スペーサー」です。この記事では、なぜ壁が必要なのか、どう作るのか、何が難しいのかを、半導体の仕事を目指す方に向けて、順に説明します。

この記事は、これまでの記事の続きです。ここでは、板のあいだの壁(内側スペーサー)をつくる工程を扱います。出典は、記事の最後にまとめています。

この記事でわかること

  1. この記事の目的:内側スペーサーが何のためにあり、どうやって作られるのかを、つかむこと
  2. 前半:ゲートを近づけてはいけない理由(寄生容量)と、壁という解決策
  3. 後半:壁の作り方と、難しさ、現場で気にされる点
ゲートとソース・ドレインが近いと、そのあいだに寄生容量ができることを示した概念図
ゲートとソース・ドレインのあいだにできる寄生容量のイメージ。説明用の図です。
図の要点

  • ゲートとソース・ドレインが近い
  • 間に寄生容量ができる
  • 余計な電気をためてしまう
助手

博士、板のあいだに、なぜ壁を入れるんですか?

博士

ゲートと、ソース・ドレインが近いと、余計な電気をためる「寄生容量」ができるからじゃ。

助手

壁があると、どう変わるんですか?

博士

容量が減るんじゃよ。作り方も、順に見ていこう。

何のために、壁を入れるのか

GAAのトランジスタでは、ゲートが、板のまわりを囲みます。板の両端は、電気が出入りする「ソース」と「ドレイン」につながっています。トランジスタは、ソースからドレインへ流れる電気を、ゲートが開け閉めするスイッチです。

つまり、板のまわりにはゲートがあり、板の両端にはソースとドレインがある、という配置になります。この、ゲートと、ソース・ドレインが、近くに並ぶ場所で、困ったことが起きます。

確認クイズ:板の両端には、何がつながっていますか?

答え:電気が出入りする、ソースとドレインです。

困りごと:ゲートとソース・ドレインのあいだにできる「寄生容量」

2つの導体が近くにあると、そのあいだに、電気をためる性質(容量)が生まれます。ゲートと、ソース・ドレインが近すぎると、そのあいだに、意図しない容量ができてしまいます。これが「寄生容量」で、スイッチを切り替えるたびに、余計な電気をためたり出したりする原因になります。

寄生容量は、ゲートとソース・ドレインのあいだにできる、意図しない容量です。

確認クイズ:寄生容量は、どこにできますか?

答え:ゲートと、ソース・ドレインのあいだです。

解決策:板のあいだに、小さな壁を入れる

この問題への答えが、「内側スペーサー」です。板と板のあいだの、ゲートと、ソース・ドレインの境目に、絶縁体でできた小さな壁を入れます。壁が、両者のあいだに入ることで、ゲートとソース・ドレインのあいだの寄生容量を、減らします。

2つの金属のブロックのあいだに、薄い白い絶縁の壁がはさまっているイメージ
2つのあいだに壁がはさまっているイメージ。実際の構造とは異なります。 AI生成の画像。掲載用にサイズを縮小。
図の要点

  • 間に絶縁の壁を入れる
  • これが内側スペーサー
  • 寄生容量を減らす
ゲートとソース・ドレインのあいだに内側スペーサーを入れた構造を示した概念図
内側スペーサーを入れた構造のイメージ。説明用の図です。
図の要点

  • ゲートとソース・ドレインのあいだ
  • 壁で、へだてる
  • 壁の厚さはゲート長にも関わる
確認クイズ:内側スペーサーの役目は、何ですか?

答え:ゲートと、ソース・ドレインのあいだの寄生容量を、減らすことです。

数字で考えてみよう:壁を厚くすると、容量はどう変わるか

ここで、壁の働きを、数字で考えてみます。2つの導体のあいだの容量は、おおまかには、「あいだの絶縁体の誘電率 × 向かい合う面積 ÷ 導体どうしの距離」で決まります(平行な板の近似)。これは基本的な性質で、実際の形は、もっと複雑です。

たとえば、ほかの条件が同じで、壁を厚くして、ゲートとソース・ドレインの距離を2倍にすれば、容量は、およそ半分になります。同じように、誘電率が半分の材料に変えても、容量は、およそ半分になります。壁の材料に、誘電率の低い材料(low-k)が候補に挙げられるのは、このためです。

ただし、壁を厚くすれば、よいとは限りません。壁の厚さは、実際に働くゲートの長さにも関わるため、容量だけで厚さを決めることはできません。寄生容量を減らす効果と、ゲートの長さへの影響の、両方を見ながら、壁の厚さと材料が選ばれます。

確認クイズ:壁の材料に、誘電率の低い材料が候補になるのは、なぜですか?

答え:誘電率が低いほど、ゲートとソース・ドレインのあいだの容量が、小さくなるからです。

作り方その1:SiGeを横から少し削って、凹みをつくる

壁は、どうやって作るのでしょうか。まず、板と板のあいだにはさまっているSiGeを、横から少しだけ削って、凹みをつくります。この、板のあいだのSiGeを、決まった距離だけ凹ませる工程は、壁をつくる前の、大事な工程とされています。

前の記事で見た「選択エッチング」が、ここでも使われます。シリコンの板は削らずに、SiGeだけを、横から、少し削るのです。

薄い板の端に、小さな凹みがつくられているイメージ
板の端につくった凹みのイメージ。実際の工程とは異なります。 AI生成の画像。掲載用にサイズを縮小。
図の要点

  • SiGeを横から少し削る
  • 凹みをつくる
  • そこへ絶縁体を詰める
確認クイズ:壁をつくる前に、板のあいだのSiGeを、どうしますか?

答え:横から少しだけ削って、凹みをつくります。

作り方その2:凹みに、絶縁体を詰める

凹みができたら、そこに、絶縁体を詰めます。これで、板のあいだに、小さな壁ができます。壁が凹みの奥にあるため、あとでゲートが入り込めるのは、壁より手前の、板のまわりだけになります。ゲートと、ソース・ドレインのあいだには、いつも壁があるという形です。ある方法では、酸化膜をつけて、凹みをふさいだあと、一部を取り除き、残った端の部分を窒化して、シリコン酸窒化膜(SiON)の壁にする方法が、示されています。ただし、これは、あくまで一つの方法の例で、すべての製品が、この方法とは限りません。

確認クイズ:凹みには、何を詰めますか?

答え:絶縁体です。

壁の厚さは、ゲートの長さにも関わる

内側スペーサーは、寄生容量を減らすだけではありません。トランジスタの、実際に働くゲートの長さ(実効ゲート長)は、最初に作る仮のゲート(ダミーゲート)の寸法だけでなく、内側スペーサーの厚さにも、決められます。壁の厚さが、トランジスタの特性に、直接関わるのです。

確認クイズ:内側スペーサーの厚さは、何に関わりますか?

答え:実際に働くゲートの長さ(実効ゲート長)です。

工程を担当する仕事を、知る

この工程を担当する仕事を知りたい方は、こちらの記事も読んでみてください。

難しさ:凹みの形と深さをそろえる

この工程で、いちばん難しいのは、凹みの形です。板の端が、三日月のような形に削られてしまうと、構造がくずれたり、電気の性質がばらついたりします。ほぼ長方形の形に、そろえて削れてはじめて、電気の流れや、力のかかり方が、均一になります。また、凹みをつくる工程の、均一さを、正確に制御することも求められます。凹みの深さが、板ごとにばらつくと、壁の位置や厚さも、板ごとにばらつき、実効ゲート長にも、ばらつきが出ます。深さと形を、板の1枚1枚で、そろえることが、この工程の勝負どころです。

凹みが三日月のように削れると、構造がくずれ、性質がばらつくことを示した概念図
凹みが三日月状になった場合の影響を表した模式図。説明用の図です。
図の要点

  • 三日月状の凹みは
  • 構造のくずれのもと
  • 形と深さをそろえるのが勝負
確認クイズ:凹みが三日月のように削れると、どうなりますか?

答え:構造がくずれたり、電気の性質がばらついたりします。

現場の視点:凹みの深さを測る

削った量を測ることも、重要です。板のあいだのSiGeを、横から削る凹み加工は、壁をつくる前の、重要な工程とされ、その深さを、チップを壊さずに測る方法が、検討されています。削る工程と、測る工程は、セットで考えられています。こうした計測の仕事は、半導体の「検査・計測」の分野につながります。

確認クイズ:凹みの深さを測るのは、なぜですか?

答え:壁の位置と厚さが決まり、トランジスタの特性に関わるからです。

壁が、ゲートとソース・ドレインを、へだてる。凹みで、その位置と厚さが決まる。だから、凹みを、正確に削る工程が、トランジスタの性能を、左右します。

ことばのおさらい

  • ソース・ドレイン:板の両端にある、電気が出入りする部分です。
  • 寄生容量:ゲートとソース・ドレインのあいだにできる、意図しない容量です。
  • 内側スペーサー:板と板のあいだに入れる、絶縁体の小さな壁です。
  • 凹み加工:板のあいだのSiGeを、横から少し削る工程です。
  • 実効ゲート長:実際に働くゲートの長さです。

よくある誤解

Q. 内側スペーサーは、板のすき間を埋めて、板を固定するためのものですか?

いいえ。内側スペーサーの主な役目は、ゲートと、ソース・ドレインのあいだの寄生容量を、減らすことです。壁の厚さは、実効ゲート長にも関わります。

Q. 内側スペーサーの材料は、どの会社も同じですか?

同じとは限りません。窒化膜や、誘電率の低い材料など、いくつもの候補があります。方法も、会社や世代によって、異なります。

Q. 壁を入れると、板の中の電気の流れが、さまたげられませんか?

壁は、ゲートと、ソース・ドレインのあいだに入るもので、板の中を電気が流れる道そのものを、ふさぐものではありません。板の両端は、ソース・ドレインにつながったままです。この点は、構造からの説明です。

まとめ

ゲートと、ソース・ドレインが近いと、寄生容量ができるため、板のあいだに、小さな壁(内側スペーサー)を入れます。
壁は、板のあいだのSiGeを、横から少し削って凹みをつくり、そこに絶縁体を詰めて作ります。
凹みの形と深さを、そろえて削ることが、難しさであり、勝負どころです。

次の記事では、板のまわりに、ゲートの膜を、どうつけるかを、説明します。

付記:この記事の根拠

記事の内容 主な根拠
内側スペーサーは、ゲートとソース・ドレインのあいだの寄生容量を減らす S01 IBM特許
SiGeを決めた距離だけ凹ませ、絶縁体を詰めて壁にする S02 復旦大学ほか
実効ゲート長は、ダミーゲートの寸法と、内側スペーサーの厚さで決まる S02
三日月状の凹みは、構造のくずれや電気特性のばらつきを招く。ほぼ長方形の形と、均一な凹み形成が必要 S02
酸化膜をつけ、一部を取り除き、端を窒化してSiONの壁にする方法(一つの例) S01
凹み加工は、壁をつくる前の重要な工程で、深さの測定方法が検討されている S03 IBM Researchほか
「寄生容量は、意図しない容量」「容量は誘電率・面積・距離で決まる(平行板の近似)」「板の両端がソース・ドレインにつながる」「壁は電気の道をふさがない」 定義と構造からの説明(資料がそのまま述べたものではありません)

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