今回のテーマは、
「レジストは、どんな手順でウェハに塗られ、形になるのか」
答え:前処理をして、ウェハを回して塗り(スピンコート)、熱板で焼き(ベーク)、露光のあとにもう一度焼いて、現像液で洗い流します。ベークは、手順ごとに目的が違います。
この記事でわかること
- ① 前処理
- ② スピンコート
- ③ プリベーク
- ④ 露光後ベーク
- ⑤ 現像
※各節の「くわしく見る」は、計算で確かめたい人向けです。
① 前処理:水分を飛ばして、くっつきやすくする
大事なポイント:レジストを塗る前に、ウェハをきれいにして、水分を飛ばし、くっつきやすくします。
第2講で、レジストが、光で現像液への溶けやすさが変わる膜だと学びました。この講では、そのレジストを、ウェハに塗り、焼き、現像するまでの手順を説明します。レジストが本来の働きをするには、これらの手順が欠かせません。
レジストを塗る前の準備が、前処理です。手順は、次のとおりです。
- 洗う:ウェハの表面のよごれを、薬液で洗い落とします。
- 水分を飛ばす:ウェハを、150℃ほどで10分加熱します。
- くっつきやすくする:HMDS(ヘキサメチルジシラザン)などの、密着促進剤を塗ります。
- 熱板で乾かす:120℃の熱板(ホットプレート)の上で乾かします。
ウェハの表面に水分が残っていると、レジストがはがれやすくなります(これは一般的な説明です)。密着促進剤は、それを防ぐために使います。
ウェハの表面は、一見きれいでも、目に見えないほこりや油、水分がついています。レジストの膜は1μmほどと薄いので、小さなよごれでも、塗りむらや欠陥の原因になります(一般的な説明です)。HMDSは、ウェハの表面を、水になじみにくい状態に変えて、レジストとの相性を良くする薬剤です(一般的な説明です)。
順番も大切です。水分を飛ばしてから密着促進剤を塗り、そのあとでレジストを塗ります。順番が逆だと、水分が残ったまま膜が付いてしまいます。
確認クイズ:レジストをウェハにくっつきやすくするために塗る薬剤の例は、何でしょう?
答え:HMDSです。
くわしく見る:加熱時間を、他の手順と比べる
水分を飛ばす加熱は、150℃で10分です。秒に直すと、
10分 = 600秒
です。あとで出てくるプリベークは、30〜60秒です。600 ÷ 60 = 10、600 ÷ 30 = 20 なので、水分を飛ばす加熱は、プリベークの10〜20倍の長さです。
これらの温度と時間は、一例です。ウェハの状態やレジストの種類によって、条件は変わります。
② スピンコート:回して、薄く均一に広げる
大事なポイント:ウェハを回して、遠心力でレジストを広げます。速く回すほど、薄くなります。
レジストを塗る方法が、スピンコートです。手順は、次のとおりです。
- ウェハの中心に、レジスト液を少量たらします。
- ウェハを回します。
- 液が、遠心力で、中心から外へ広がります。
- 目的の厚さになるまで、回し続けます。
回す速さは、フォトレジストの場合、毎秒20〜80回転で、30〜60秒間回す、とされます。膜の厚さは、回す速さのほかに、液の粘り気(粘度)や濃さにも影響されます。完成した膜の厚さは、約1μmとされ、ばらつきは1%を超えない、とされます。ただし、厚い膜では、ウェハの縁が盛り上がる「エッジビード」ができやすくなります。
ホットケーキの生地を、フライパンの真ん中に落として、くるくる回して広げる場面を、想像してください。スピンコートは、これに近い方法です。回している間に、余ったレジスト液は、外へ飛ばされます。そのため、ウェハのまわりには、受け皿が必要です(一般的な説明です)。
確認クイズ:ウェハを速く回すと、レジストの膜はどうなるでしょう?
答え:薄くなります。
くわしく見る:回転数と膜厚の目安を、計算する
毎秒の回転数を、1分あたり(rpm)に直します。
20 回転/秒 × 60 = 1,200 rpm / 80 回転/秒 × 60 = 4,800 rpm
言いかえると、毎秒20〜80回転は、1,200〜4,800rpmです(換算は一般的な計算です)。総回転数も計算してみます。毎秒50回転で40秒回すと、50 × 40 = 2,000回転です。
厚さ約1μmは、1,000nmです。ばらつき1%は、1,000 × 0.01 = 10nm です。
回転の速さと膜の厚さの関係は、一般に、膜厚が回転数の平方根に反比例する、と言われます(一般的な目安です)。たとえば、回転数が1,200rpmから4,800rpmへ4倍になると、膜厚は 1 ÷ √4 = 1/2 になります。これは、目安であり、実際の値は材料で変わります。
③ プリベーク:熱板で、膜を落ち着かせる
大事なポイント:塗ったあとの加熱が、プリベークです。90〜100℃で、30〜60秒が目安です。
塗ったばかりのレジストは、溶媒をたくさん含んで、やわらかい状態です。そこで、熱板で加熱します。この手順をプリベーク(ソフトベークともいいます)といいます。条件の目安は、90〜100℃で、30〜60秒です。
加熱の目的は、一般に、膜から溶媒を飛ばして、膜を安定させることです(これは一般的な説明です)。このあとの露光で、膜の状態が毎回そろっていると、結果もそろいやすくなります。
「ベーク(bake)」は、英語で「焼く」の意味です。パンを焼くのと同じように、熱で状態を変えますが、温度は100℃前後と、ずっと低めです。毎回同じ条件で焼かないと、ウェハごとに仕上がりが変わってしまいます。そのため、温度と時間は、きちんと決めておきます。
確認クイズ:プリベークの条件の目安は、どれでしょう?
答え:90〜100℃で、30〜60秒です。
くわしく見る:温度が高すぎる、低すぎると、どうなるか
一般的な説明です。温度が低すぎる、または時間が短すぎると、溶媒が十分に飛ばず、膜がやわらかいままになります。逆に、高すぎる、または長すぎると、感光剤が熱で変わってしまい、光への反応が変わるおそれがあります。
このため、温度と時間は、レジストごとに最適な値を決めます。ここで挙げた数値は、一例です。
④ 露光後ベーク:定在波を減らし、酸を働かせる
大事なポイント:露光のあと、現像の前に加熱します。側面の波打ちを減らし、化学増幅型では酸を動かします。
露光が終わったら、現像の前に、もう一度加熱します。これが露光後ベーク(略してPEB)です。目的は2つあります。
- 定在波を減らす:露光のとき、光はウェハの表面で反射し、入ってくる光と重なります。すると、膜の深さの方向に、光の強さの山と谷の縞ができます。これが定在波です。現像後に、レジストの側面が縞状に波打つ原因になります。加熱すると、この縞がならされて、でこぼこが減ります。
- 酸を動かす:化学増幅型では、加熱の間に酸が動き、まわりの樹脂の反応を進めます(第2講)。
順番は、露光の「あと」で、現像の「前」です。
定在波のイメージとして、縄跳びの縄を考えます。片方の端を固定して揺らすと、ほとんど動かない点と、大きく動く点が並びます。光も、ウェハの表面で反射すると、同じように、強い所と弱い所が並びます。光が強い所は、レジストがよく反応し、弱い所は反応が弱くなるので、側面が波打ちます。
確認クイズ:露光後ベークは、手順のどこで行うでしょう?
答え:露光のあとで、現像の前です。
くわしく見る:定在波の縞の間隔を、計算する
定在波の縞の間隔は、光の波長を、膜の屈折率の2倍で割った値になります(一般的な光学の式です)。波長193nm、膜の屈折率を1.7と仮定すると(仮の値です)、
193 ÷ ( 2 × 1.7 ) ≈ 193 ÷ 3.4 ≈ 56.8(nm)
です。約57nmごとに、光の強さの山と谷が並ぶ、という目安です。実際の屈折率は、材料や波長によって異なります。
⑤ 現像:溶ける所を洗い流して、形を出す
大事なポイント:現像液で、溶ける部分を洗い流します。現像液には、金属を含まないTMAHが使われます。
現像は、現像液で、可溶な部分を溶かし、洗い流す手順です。ポジ型では、光が当たった部分が溶けます。現像液には、ナトリウムなどの金属を含む薬品ではなく、金属を含まないTMAHが使われるようになりました。DNQ-ノボラックでは、0.26N(第2講)のTMAH水溶液が例に挙がっています。金属を含まない理由は、金属が残るとチップの性能に悪影響が出るおそれがあるためと説明されます(一般的な説明です)。
化学増幅型ではない従来のレジストでは、現像のあとにハードベークをすることがあります。条件は、120〜180℃で、20〜30分です。膜を、さらに固くします。そのあとで、エッチングやイオン注入で、下の層を加工します。 ▶ 2級でくわしく
現像のあとは、水でよく洗って、乾かします(一般的な説明です)。洗わないと、溶けた成分が、ウェハに残ってしまうためです。「ハードベーク」の「ハード」は、「固い」の意味です。
現像は、時間が短すぎると溶け残りが出て、長すぎると、残したい部分まで削られるおそれがあります(一般的な説明です)。そのため、時間は、レジストと現像液の組み合わせごとに決めます。
確認クイズ:従来のレジスト(化学増幅型ではない)のハードベークの条件の目安は、どれでしょう?
答え:120〜180℃で、20〜30分です。
くわしく見る:ハードベークの長さを、プリベークと比べる
ハードベークは20〜30分、つまり1,200〜1,800秒です。プリベークは30〜60秒です。差が最も小さい場合と大きい場合で比べると、
1,200 ÷ 60 = 20(倍) / 1,800 ÷ 30 = 60(倍)
です。ハードベークは、プリベークの20〜60倍ほど長い、という目安です。数字は、一例です。
安全のひとこと:前処理のHMDSや、現像液のTMAHは、燃えやすさや毒性のある薬品です。工場では、専用の設備と決まりで厳重に管理されます。取り扱いは、必ず職場の決まりとSDS(安全データシート)に従います。
この講のまとめ
前処理で水分を飛ばしてHMDSを塗り、スピンコートで回して薄く塗り、プリベークで膜を落ち着かせます。
露光のあとの露光後ベークは、定在波を減らし、化学増幅型では酸を動かします。
現像液(金属を含まないTMAH)で溶ける所を洗い流し、必要なら従来型のレジストではハードベークをします。
次の講では、細かい形を写すための、光学系と解像度を学びます。
ことばのおさらい
- 前処理:洗って、水分を飛ばし、密着しやすくする手順です。
- スピンコート:ウェハを回し、遠心力でレジスト液を広げる塗り方です。
- プリベーク:塗ったあとの加熱です。90〜100℃で30〜60秒が目安です。
- 露光後ベーク(PEB):露光のあと、現像の前の加熱です。
- 定在波:光の反射で、膜の深さの方向にできる、明暗の縞です。
- 現像:現像液で、溶ける部分を洗い流す手順です。
よくある誤解
Q. スピンコートでは、遅く回すほど薄く塗れますか?
いいえ。速く回すほど、遠心力が強く働いて、膜は薄くなります。
Q. 加熱(ベーク)は、1回だけですか?
いいえ。プリベーク、露光後ベーク、必要に応じてハードベークなど、手順ごとに目的の違う加熱があります。
参考にした公式情報
- Wikipedia「Photolithography」(前処理、プリベーク、露光後ベーク、現像、TMAH、ハードベーク)
- Wikipedia「Spin coating」(スピンコートの手順、回転の速さ、膜厚のばらつき)
- Wikipedia「Photoresist」(酸の動き、0.26NのTMAH)
rpmへの換算、膜厚と回転数の関係、定在波の式と屈折率の仮定、ベークの目的の説明は、一般的な知識や仮の数字です。図は、記事用に描いた簡易の図です。ベークの条件は一例で、レジストにより変わります。

