カメラのレンズに、小さなホコリが付いたまま、写真を撮ったことはありませんか。すると、撮った写真のすべてに、同じ黒い点が写ってしまいます。
半導体の工場でも、似たことが起こりえます。回路の原版である「フォトマスク」に、ホコリがひとつ付くだけで、そこから作られるチップに、同じ欠陥が写ってしまうのです。それを防ぐのが、「ペリクル」という、薄くて透明な膜です。この記事では、フォトマスクとペリクルの役割を、順に説明します。
レンズのホコリの例が当てはまるのは、「原版に付いた汚れが、すべての写しに現れる」という点だけです。カメラと半導体の工場では、仕組みがまったく違います。
この記事でわかること
- この記事の目的:ペリクルが、なぜフォトマスクに必要なのかを、つかむこと
- 前半:フォトマスクとは何か、欠陥がなぜ困るのか
- 後半:ペリクルの役割と、EUV用の新しいペリクル

- 回路の形が描かれた、原版
- 透明な板に、光を通さない膜
- この原版から、回路が写される
博士、フォトマスクにホコリが付くと、そんなに困るんですか?
そうじゃ。マスクの欠陥は、そこから作られるチップ全部に、写ってしまうんじゃ。
どうすれば、防げますか?
マスクに、ペリクルという、薄い透明な膜をかぶせるんじゃ。順に、見ていこう。
ホコリひとつで、チップがだめになる
Semiconductor Engineeringの記事(2016年)では、フォトマスクにホコリなどの粒子が付くと、露光装置が、その欠陥を、ウェハに写してしまうと説明されています。ロジックのチップでは、欠陥がひとつあるだけで、そのチップ全体が使えなくなる、というのが、Applied Materialsの技術者の言葉として紹介されています。原版のホコリは、チップの不良に、直結します。
確認クイズ:フォトマスクにホコリが付くと、何が困るでしょう?
答え:その欠陥が、ウェハに写り、チップが使えなくなることがあります。
回路の原版「フォトマスク」
フォトマスクは、半導体の回路の形が描かれた、原版です。ウィーン工科大学のマスクの解説では、「ブランク」と呼ぶ透明な板に、光を通さない膜で、パターンが描かれたもの、と説明されています。板には、石英などのガラスが使われ、石英は、短い波長の光でも透明で、熱による膨張が、とても小さいという長所があります。光を通さない膜は、約100ナノメートルの、とても薄いクロムで、表面には、反射を抑える膜がつきます。高品質なフォトマスクには、平らさ、パターンの位置の正確さ、最小の線の細さ、線の太さの管理、欠陥の少なさなど、厳しい条件が求められます。
確認クイズ:フォトマスクの、光を通さない膜には、何が使われるでしょう?
答え:とても薄いクロムです。厚さは、約100ナノメートルです。
フォトマスクの欠陥は、ウェハに写る
三井化学の発表を伝えるMONOistの記事では、半導体のウェハに光を当てて、回路の形を描く工程が、フォトリソグラフィ工程と説明されています。フォトマスクは、その工程で、同じ回路を、何枚ものウェハに写すための、「型」です。そのため、マスクに欠陥があると、その欠陥も、そのまま写ってしまいます。
ウィーン工科大学の解説では、マスクの欠陥の例として、クロムが欠けた部分、クロムの小さな穴、解像されなかったクロムの領域が挙げられています。約0.1マイクロメートルより大きな欠陥は、自動の検査で見つけられ、レーザーやイオンビームで、修復されます。また、電子ビームで作ったマスクは、最大で75%に欠陥が見つかったという観測も紹介されています。

- 光が、マスクを通る
- 回路の形が、ウェハに写される
- マスクは、同じ回路を写す型

- マスクにホコリが付く
- その欠陥が、写ってしまう
- 全部のチップに、同じ欠陥
確認クイズ:フォトマスクは、ウェハに対して、どんな役割でしょう?
答え:同じ回路を、何枚も写すための「型」です。
ホコリよけの膜「ペリクル」
ペリクルは、フォトマスクにかぶせる、薄くて透明な、ホコリよけの膜です。Semiconductor Engineeringの記事では、製造の流れの中で、露光装置が、粒子や汚れを出しやすいため、ペリクルで、それらがマスクに落ちるのを防ぐ、と説明されています。同時に、光を、装置からマスクへ通せるだけの透明さも、必要です。なお、メモリのチップは、予備の回路を持つため、ロジックのチップとは、事情が違うとも説明されています。
MONOistの記事によると、ペリクルは、光の波長ごとに、耐光性のある膜の材料を選び、光をよく通すように、膜の厚さを設計した、防塵カバーです。フォトマスクをきれいに保ち、半導体の生産性を高めます。三井化学は、1984年に、ペリクルを発売しました。ペリクルは、光は通して、ホコリは通さない、マスクのカバーです。

- マスクにかぶせる、透明な膜
- 光は通して、ホコリは通さない
- マスクを、きれいに保つ
確認クイズ:ペリクルは、何のためにあるでしょう?
答え:ホコリなどの粒子が、フォトマスクに落ちるのを防ぐためです。
普通のマスクと、EUV用のマスク
Semiconductor Engineeringの記事によると、光を通す普通のマスクでは、何十年も前から、ペリクルが使われてきました。材料は、薄い樹脂です。一方、最先端の「EUV」露光では、事情が変わります。EUVは、MONOistの記事で、波長13.5ナノメートルの、極端紫外線と説明されています。EUV用のマスクは、光を通す板ではなく、シリコンとモリブデンの層を、40〜50層重ねた、鏡です。

- 普通のマスクは、光を通す板
- EUV用は、光を反射する鏡
- 層を重ねた、特別な構造
EUVでは、以前、装置の中が、完全にきれいに保たれるなら、ペリクルは不要だという考えもありました。しかし、チップメーカーは、装置の中を、100%きれいには保てないとして、考えを改めました。Applied Materialsの技術者は、ペリクルがあると、マスクの取り扱いや保管も、ずっと楽になる、と話しています。
EUV用のペリクルは、光をよく通しながら、強い光にも耐える必要があり、開発が難しい部品です。2016年の記事では、膜が、とても高い温度になることが、課題として挙げられていました。三井化学は、2021年に、オランダのASMLからライセンスを受けて、EUV用ペリクルの商業生産を始めています。
確認クイズ:EUV用のマスクは、光を通す板でしょうか、鏡でしょうか?
答え:鏡です。シリコンとモリブデンの層を、40〜50層重ねたものです。
次世代のペリクル:カーボンナノチューブ
MONOistの記事によると、次世代のEUV露光装置には、高い開口数と、600ワット以上の高出力が求められ、そのためには、過酷な露光に耐える新しい素材のペリクルが必要です。回路の線の幅が、7ナノメートル以下になる、超微細な半導体を作るために、EUV露光の採用が、広がっています。三井化学は、EUVの光を92%以上通し、1キロワットを超える露光出力にも耐える、カーボンナノチューブ(炭素でできた細い筒)の膜の、生産設備を設置することを、2024年に発表しました。年間5000枚を生産でき、完成は、2025年12月の予定とされています。いまのEUV用ペリクルの膜材は、シリコン系の素材で、カーボンナノチューブの製品は、それに加える、次世代の品ぞろえです。

- 光を、92%以上通す
- 強い光に、耐える
- 材料は、カーボンナノチューブ
確認クイズ:次世代のEUV用ペリクルに使われる、新しい膜の材料は、何でしょう?
答え:カーボンナノチューブです。
製造の全体像は、半導体の製造工程の全体像で紹介しています。なお、設備の調整や復旧は、所属する工場やメーカーの正式な手順と、権限のある人の判断のもとで行います。この記事は、考え方の紹介で、設備の操作を指示するものではありません。
ことばのおさらい
- フォトマスク:半導体の回路の形が描かれた、原版です。
- ブランク:フォトマスクの、透明な板の部分です。
- ペリクル:フォトマスクにかぶせる、薄くて透明なホコリよけの膜です。
- EUV:波長13.5ナノメートルの、極端紫外線です。
- カーボンナノチューブ:炭素でできた、細い筒状の材料です。
よくある誤解
Q. ペリクルは、フォトマスクの、光を通さない膜のことですか?
いいえ。光を通さない膜は、クロムなどで、回路の形を作る部分です。ペリクルは、そのマスクの上にかぶせる、ホコリよけの、透明な膜です。
Q. EUVのマスクも、光を通す板ですか?
いいえ。EUV用のマスクは、シリコンとモリブデンの層が重なった、光を反射する鏡です。
まとめ
フォトマスクは、回路の原版で、ホコリや傷があると、その欠陥が、ウェハに写ってしまいます。
ペリクルは、フォトマスクにかぶせる、薄くて透明なホコリよけの膜で、光は通し、ホコリは通しません。
最先端のEUVでは、光をよく通して、強い光にも耐える、カーボンナノチューブの膜の開発が、進んでいます。
この記事の図解は、Instagram(semicon_campus)にも、まとめて投稿しています。保存して、見返してください。
参考にした公式情報
- ウィーン工科大学 H. Kirchauer「2.4.1 Binary Masks」(マイクロエレクトロニクス研究所)
- MONOist「三井化学が次世代EUV露光用CNTペリクルの生産設備を山口県の工場に設置」(2024年)
- Semiconductor Engineering「Next EUV Challenge: Pellicles」(2016年)
質問・訂正フォーム
この記事の内容に誤りや、分かりにくい点があれば、下のフォームからお知らせください。確認して、記事を直します。

