スマホで写真を撮ったら、ピントがずれて、ぼやけてしまった。あるいは、明るすぎて白く飛んだ。暗すぎて、よく見えない。そんな経験は、ありませんか。
半導体の回路を、光で「写す」工程でも、似たことが起こります。ピントがずれる。光の量が多すぎる、または少なすぎる。すると、写した線の太さや形が、設計とは違ってしまいます。
先に答えを言うと、光で写す工程では、「ピント」と「光の量」の二つが、ちょうどよい範囲に入っていないと、形がくずれます。だから、写して現像したあとに、すぐ測って、検査します。
カメラの例が合っているのは、「ピントと明るさがずれると、できあがりが変わる」という点だけです。カメラの仕組みと、半導体の露光装置の仕組みは、別のものです。
この記事でわかること
- この記事の目的:光で回路の形を写す工程で、ピントと光の量が形を決めること、そして写した直後に測る理由を、つかむこと
- リソグラフィという工程と、そこで使う道具の名前
- ピント(フォーカス)と光の量(ドーズ)が、形に影響する理由
- 写した直後に測って検査する理由と、現場で原因を探す考え方

- 光で写す:マスク越しに紫外線を当てて、レジストに形を写す
- 現像:写した形を残す
- 測る:現像のあとすぐに測る(ADI)
博士、光で写すだけなのに、なぜ形がくずれるのですか?
カメラと同じじゃよ。ピントがずれたり、光の量が合わなかったりすると、うまく写らんのじゃ。
なるほど。じゃあ、ちょうどよい範囲を見つけるのが大事なんですね。
その通りじゃ。写したあとにすぐ測れば、やり直しもできる。順番に、見ていこう。
リソグラフィとは、光で回路の形を写す工程
半導体の回路は、ウェハと呼ぶ薄い円盤の上に作ります。日立ハイテクの解説によると、回路の一層は、主に三つの工程でできます。薄い膜をつける「成膜」、光で形を写す「パターン転写」、膜を削って形に仕上げる「エッチング」です。この中の「パターン転写」が、リソグラフィ(フォトリソグラフィ)です。
リソグラフィでは、まず、ウェハの膜の上に、光に当たると性質が変わる膜を塗ります。これを「フォトレジスト」と呼びます。次に、「フォトマスク」を使います。フォトマスクは、回路の形を描いた、ガラス板の原版です。
露光装置が、フォトマスク越しに紫外線を当てます。マスクの、模様のない部分だけ、紫外線が通ります。紫外線が当たったフォトレジストは、感光して、化学的に変わります。模様は、レンズで数分の1に縮められて、ウェハの上に写されます。そのあと、「現像」をして、写した形を残します。
形を決める二つの条件、ピントと光の量
光で写すときに大切なのが、「フォーカス」と「ドーズ」です。フォーカスは、ピントのことです。ASMLの解説は、フォーカスを「像がどれだけシャープか」と説明しています。ドーズは、光の量のことで、レジストに与える露光のエネルギーを指します。
この二つは、写真のピントと明るさ(露出)に、よく似ています。ピントがずれると、像がぼやけます。光の量が多すぎたり、少なすぎたりすると、レジストの反応が足りなかったり、行きすぎたりします。
では、ちょうどよい値は、どう探すのでしょうか。カリフォルニア大学サンタバーバラ校のナノファブの資料は、「FEM(フォーカス・露光量マトリクス)」という試験を紹介しています。ドーズとフォーカスを、縦と横に少しずつ変えながら、格子の升目ごとに露光します。そして、升目ごとに、できた形が許容範囲に入っているかを調べます。失敗した升目では、パターンが何も見えないこともある、と書かれています。

- 縦:ピント、横:光の量
- 青い升目:合格。灰色:不合格
- 合格の範囲の、中心を選ぶ
ちょうどよい範囲「プロセスウィンドウ」
合格になった升目が集まった範囲を、「プロセスウィンドウ」と呼びます。窓のように、「この範囲なら、うまく写せる」という領域です。UCSBの資料は、窓の中心を選ぶことを勧めています。ドーズが高すぎる、低すぎる、フォーカスが高すぎる、低すぎる、という悪い結果を、すべて確かめてはじめて、窓の中心が分かります。
また、「いちばん良い升目」を選ばないよう、注意しています。いちばん良い升目は、窓の端にあることが多く、小さなばらつきでも、規格から外れてしまうからです。
ウィーン工科大学の博士論文も、同じ考え方を説明しています。フォーカスの影響は、ドーズによって変わるので、二つを一緒に動かして調べます。その結果をグラフにしたものを、「ボッスンプロット」と呼びます。グラフには、線の太さ(CD)のほか、壁の傾き(側壁角)や、レジストの減り(レジスト損失)も描けます。プロセスウィンドウは、これらがすべて規格に入る、フォーカスと光の量の組み合わせです。
さらに、この論文は、デフォーカス(ピントのずれ)が大きいと、ほかの誤差にも弱くなるので、実際に使えるピントの許容範囲は、理論の値より狭くなる、とも述べています。
光で写せる細かさにも、限りがある
ASMLの解説では、写せる最小の寸法(CD)は、「CD=k1×波長÷NA」と表されます。波長は、光の波の長さです。NA(開口数)は、レンズが光を集める力を表す数字です。k1は、工程によって決まる係数です。
この式から、光の波長が短いほど、また、レンズが光をよく集めるほど、細かい形を写せる、と読み取れます。
現像のあとに、すぐ測る。やり直しもできる
写した形が正しいかは、現像のあとに、測って確かめます。日立ハイテクの解説によると、現像のあとに、CD-SEM(線の太さを測る電子顕微鏡)で、寸法を測ります。この測定の工程を、「ADI」と呼ぶことがあります。After Development Inspection、つまり「現像後検査」の略です。エッチングのあとにも、同じように測ります。こちらは「AEI」で、「エッチング後検査」です。
なぜ、現像のあとに、すぐ測るのでしょうか。KLAという検査装置メーカーの発表によると、現像の直後なら、ウェハを「やり直し(リワーク)」できる状態で、検査できるからです。エッチングで膜を削ったあとは、同じようにはやり直せない、と考えられます。写す工程の不良は、削る前に見つけるほうが、ずっと得になります。
同じ発表は、写す工程の初期の不良は、確実に見つけるのが、むずかしかったとも述べています。測って、検査する技術が、大切な理由です。
位置のずれ「オーバーレイ」も、リソグラフィの不良
写した形の「太さ」や「かたち」だけでなく、「位置」も大切です。回路は、何層も重ねて作ります。ASMLの解説は、二つの層を合わせる精度を「オーバーレイ」と呼んでいます。

- 左:二つの層が合っている
- 右:二つの層がずれている
- ずれは、測って露光装置へ戻し、補正に使う
ピントとオーバーレイは、ウェハに印刷した、繰り返しの試験パターン(メトロロジーターゲット)が、どれだけうまく印刷されたかを測って、監視します。測った結果は、生産ラインに組み込まれた装置から、露光装置へ戻されて、補正に使われます。つまり、測ることは、記録を残すだけでなく、次の露光を直すためにも、使われます。
ずれの原因を、設備保全と生産技術はどう探すのか
現場で、写した形のずれを見つけたら、次のような順番で調べる、と考えられます。
- 現像後の測定結果を確認する。線の太さと位置が、どれくらい、どちらへずれているのかを見ます。
- フォーカスと光の量の記録を調べる。露光装置の設定と、実際に使われた値を、見比べます。
- 場所の特徴を整理する。ウェハのどこで、どのロットで、どの装置で、いつ起きたのかを、まとめます。
- 試験(FEM)で、プロセスウィンドウの位置を確かめる。今の条件が、窓の中心にあるのか、端にあるのかを見ます。
- 追加のデータで、確かめる。たまたま同時に起きただけかもしれないので、確かめてから判断します。
設備の調整や復旧は、所属する工場やメーカーの正式な手順と、権限のある人の判断のもとで行います。この記事は、原因を考えるときの見方を紹介するもので、設備の操作を指示するものではありません。
この問題を追う仕事は、プロセス、生産技術、設備保全、計測・検査などの担当が分担します。製造業で、条件の記録や、規格に対するばらつきを扱った経験は、「どの条件が、ちょうどよい範囲にあるか」を考える力として活きる、と考えられます。仕事の全体像は、半導体製造の仕事を工程別に見てみるから確認できます。
ことばのおさらい
この記事に出てきた言葉を、やさしい言い方で、もう一度まとめます。
- リソグラフィ:光で、回路の形を写す工程です。
- フォトレジスト:光に当たると性質が変わる膜。ここに形を写します。
- フォトマスク:回路の形を描いた、ガラス板の原版です。
- フォーカス:ピントのこと。像のシャープさです。
- ドーズ:光の量。レジストに与える露光のエネルギーです。
- プロセスウィンドウ:うまく写せる、ピントと光の量の範囲です。
- ADI:現像のあとに測って、検査することです。
- オーバーレイ:二つの層を合わせる精度のことです。
よくある誤解
Q. ピントが合っていれば、光の量は関係ありませんか?
関係あります。ピントの影響は、光の量によって変わります。だから、二つを一緒に変えて、うまく写せる範囲を調べます。
Q. いちばん良い結果が出た条件を使えば、安心ですか?
安心とは限りません。いちばん良い条件は、うまく写せる範囲の端にあることが多く、小さなばらつきで、規格から外れるためです。範囲の中心を選ぶのが、基本です。
Q. 現像のあとに測れば、エッチングのあとは測らなくてよいですか?
そうではありません。現像のあとも、エッチングのあとも、測ります。現像のあとは、やり直しができる段階の確認で、エッチングのあとは、削ったあとの形の確認です。
まとめ:写す工程は、ピントと光の量の「ちょうどよい範囲」で決まる
光で写す工程では、ピントと光の量が、ちょうどよい範囲に入っていないと、形がくずれます。
その範囲は、プロセスウィンドウと呼ばれ、いちばん良い点ではなく、中心を選びます。
現像のあとに、すぐ測って検査するのは、やり直しができる段階で、不良を見つけるためです。
参考にした公式情報
- 日立ハイテク「1. 半導体製造工程」
- ASML「Measuring accuracy」
- ASML「Rayleigh criterion」
- UCSB Nanofab「Lithography Calibration – Analyzing a Focus-Exposure Matrix」
- TU Wien(Kirchauer博士論文)「Focus Effects and Process Window」
- KLA「Voyager 1015 and Surfscan SP7」(プレスリリース)
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