ステンシルシートの穴にスプレーを吹きつけて、文字を書いたことはありませんか。穴の太さは決まっているのに、できあがった文字は、少し太くなったり、縁がにじんだりします。
半導体の回路の線でも、似たことが起こります。設計どおりの太さで作ったはずなのに、できあがった線を測ると、少し太い。あるいは、少し細い。
先に答えを言うと、線の太さは、一つの工程だけで決まるわけではありません。光で形を写す、削る、測る。この途中で、少しずつ変わります。どこで変わったのかは、測って確かめないと分かりません。
ステンシルの例が合っているのは、「型どおりの太さにならないことがある」という点だけです。スプレーの仕組みと、半導体の工程の仕組みは、別のものです。
この記事でわかること
- この記事の目的:線の太さが、作る途中でどう変わるかと、測った数字の受け取り方を、つかむこと
- 「線幅」と「CD」という言葉の意味
- 線の太さが、作る途中で変わる理由
- 測った数字を、どう受け取ればよいか

- 設計:決めた線の太さ
- レジスト:光で形を写した後
- エッチ後:削った後。この二つの時点で測る
博士、線の太さがずれるって、設計図が間違っていたということですか?
そうとは限らんのじゃ。線は、光で形を写して、削って、最後に測る。その途中で、少しずつ太さが変わることがあるんじゃよ。
なるほど。じゃあ、どこで変わったのかを見つけるのが大事なんですね。
その通りじゃ。測った数字も、ある方法で見た結果にすぎん。順番に、やさしく見ていこう。
線幅(CD)とは、線の太さのこと
半導体の回路は、ウェハと呼ぶ薄い円盤の上に、とても細い線で作ります。この線の太さを「線幅」と呼びます。工場では、大切な寸法をまとめて「CD(シーディー)」とも呼びます。
CDは、「ウェハの上で、確実に作れて、確実に測れる、いちばん小さい寸法」のことだと、Averroesの解説は説明しています。線の太さのほかに、線と線のすき間や、穴の直径もCDに入ります。この記事では、まとめて「線の太さ」と書きます。
むずかしい言葉が出てきたら、「線の太さの話だな」と読み替えてください。それで十分に、この記事の中身がつかめます。
光で写して、削って、測る。太さは途中で変わる
回路の線は、次の順番で作ります。まず、レジストという、光に反応する膜に、光で線の形を写します。次に、エッチングという方法で、下の膜を削って、形を移します。この流れを「パターン転写」と呼びます。
形を移すたびに、線の太さは少しずつ変わることがあります。PTIの用語集は、エッチングで変わった寸法を「エッチングバイアス」と呼び、削る前のCDと、削ったあとのCDの差で表す、と説明しています。同じ資料は、数字で伝えるときには、「太くなったらプラスか、細くなったらプラスか」といった決まりを、はっきり書く必要があるとも述べています。
つまり、「ずれた」と言うだけでは、情報が足りません。いつの時点と比べて、どちら向きに、どれだけ変わったのかを、はっきりさせる必要があります。
削り方で、壁の形が変わる
削る方法は、大きく二つあります。一つは、薬液で溶かす方法です。ふつう、どの向きにも同じように削れるので、横にも削れてしまいます。これを「等方的」と呼びます。
もう一つは、プラズマという、電気を帯びた気体の中で削る方法です。ケンタッキー大学の設備紹介によると、この方法では、イオンという小さな粒が、ほぼ真上からウェハに当たります。そのため、壁が垂直に近い形に削れます。これを「異方性」と呼びます。

- 左:イオンがほぼ垂直に当たり、壁が垂直に近い
- 右:横にも削れる等方的な加工
圧力、電気の強さ、ガスなど、形を決める条件はいくつもあります。どれかが変われば、プラズマの状態も変わると考えられます。ただし、条件が少し変わると線の太さが何nm変わる、という関係は、この資料からは言えません。装置や、削る膜によって違うからです。
溝の幅や、削る場所でも、掘れ方が変わる
削る速さは、場所によって同じとは限りません。Samcoの解説は、シリコンを削る場合、溝が狭いほど、底まで届く「反応する粒」が減って、削る速さが遅くなる、と説明しています。これを「マイクロローディング」と呼びます。

- 狭い溝ほど、底に届く反応種が減る
- パターンの幅が狭いほど、掘れる速さが下がる
半導体製造装置メーカーのLam Researchの技術ブログも、似たことを述べています。設計のルールを守っていても、製造装置の力に限りがあるために、性能や歩留まり(良品の割合)が下がることがある、という内容です。
設計図どおりに作れば、そのままの形ができる、とは限りません。作る途中の条件によって、できあがりが変わります。
線の「縁」がギザギザになることもある
線の太さの平均が設計どおりでも、線の縁がギザギザしていることがあります。片側の縁のギザギザを「LER」、線の幅のばらつきを「LWR」と呼びます。名前は、いまは覚えなくて大丈夫です。

- LER:片側の縁のゆらぎ
- LWR:線の幅のゆらぎ
Lam Researchの解説は、LERは先端の半導体で大切なばらつきの原因で、性能が下がったり、故障したりする原因になりうる、と述べています。ただし、この解説の結果は、コンピューターの上の仮想の実験で、実際に測った値ではありません。
測った数字は、形そのものではない
CDを測る代表的な装置が、CD-SEM(シーディーセム)です。電子顕微鏡の一種で、日立ハイテクの解説によると、画像の明るさの違いから、線の太さを計算します。測るのは、光で形を写した後と、削った後です。
ここで、大事なことがあります。線の断面が台形の場合、上の幅と下の幅は違います。日立ハイテクの解説は、どこの幅を測った値にするかは、測定の設定で決める、と説明しています。つまり、同じ線でも、測る高さによって、数字が変わります。
「数字が合っている」ことと、「形が合っている」ことは、別のことです。数字は、ある方法で、ある場所を見た結果だと考えましょう。
寸法のずれは、何が困るのか
線の太さや縁の形が変わると、電気の流れやすさなど、回路の性質が変わる可能性があります。ただし、「何nmずれたら不良」という決まりは、この記事の資料からは言えません。製品や工程によって違うからです。確認できた範囲は、縁のギザギザが、条件によって性能低下や故障につながりうる、というところまでです。
ずれの原因は、どうやって探すのか
現場で線の太さのずれを見つけたら、次のような順番で調べる、と考えられます。
- もう一度測る。測り方で、数字が変わることがあるためです。
- 比べる基準をそろえる。光で写した後と、削った後の、どちらを比べるのかを決めます。
- 場所の特徴を見る。ウェハのどこで、どの装置で、いつ作ったものかを整理します。
- 装置の記録を調べる。圧力や電気の強さなど、形を決める条件の記録と、点検の履歴を見比べます。
- 追加のデータで確かめる。たまたま同時に起きただけかもしれないので、確かめてから判断します。
設備の調整や復旧は、所属する工場やメーカーの正式な手順と、権限のある人の判断のもとで行います。この記事は、原因を考えるときの見方を紹介するもので、設備の操作を指示するものではありません。
この問題を追う仕事は、設備保全、生産技術、プロセス、計測・品質などの担当が分担します。製造業で、寸法の公差や工程の記録を扱った経験は、「どの時点の、何の寸法なのか」をそろえる力として活きる、と考えられます。仕事の全体像は、半導体製造の仕事を工程別に見てみるから確認できます。
ことばのおさらい
この記事に出てきた言葉を、やさしい言い方で、もう一度まとめます。
- 線幅・CD:線の太さのこと。穴の直径や、線のすき間も含みます。
- レジスト:光に反応する膜。ここに、光で線の形を写します。
- エッチング:膜を削って、写した形を下の膜へ移す工程です。
- LER・LWR:線の縁のギザギザと、線の幅のばらつきのことです。
- CD-SEM:線の太さを測る電子顕微鏡です。
よくある誤解
Q. 線は、細ければ細いほどよいのですか?
細さだけでは決まりません。太さの平均に加えて、縁のギザギザや、壁の形も関わります。この記事の資料からも、「小さければよい」と言える根拠は見つかっていません。
Q. CD-SEMの数字が設計どおりなら、形も設計どおりですか?
そうとは限りません。断面が台形なら、上と下で幅が違います。どこを測った数字なのかを、確かめる必要があります。
Q. 装置の設定が正常なら、ずれは装置のせいではないのですか?
設定の確認だけでは、足りません。同じ設定でも、溝の幅によって、削る速さが変わる例があるためです。設定、パターン、測り方の三つを合わせて見ます。
まとめ:線の太さのずれは、どこで変わったかを確かめる入口
線幅(CD)は、光で写す、削る、測る、という途中で、少しずつ変わることがあります。
測った数字は、ある方法で、ある場所を見た結果で、形そのものではありません。
原因は、測り直す、基準をそろえる、場所を見る、装置の記録を調べる、確かめる、の順で探します。
参考にした公式情報
- Averroes「What is Critical Dimension SEM」
- PTI「Etch Bias」
- University of Kentucky CENSE「Reactive Ion Etching」
- Samco「Loading Effect and Microloading Effect in Silicon DRIE」
- Lam Research「Accelerating Semiconductor Development with Virtual Twins」(2025年)
- Practical Electron Microscopy and Database「LER/LWR」
- Lam Research「Improving Line Edge Roughness Using Virtual Fabrication」
- 日立ハイテク「4. CD-SEM(測長SEM)とは」
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