スマホは、年々、速くなっています。それなのに、電池は、前よりも持つようになりました。不思議だと思いませんか。
その裏には、チップの中の、トランジスタの「形」の変化があります。長いあいだ、平らだったトランジスタが、立体に変わったのです。この形を、「FinFET(フィンフェット)」といいます。この記事では、なぜ平らな形では困ったのか、立体にすると何がよくなるのかを、順に説明します。
ホースの水を押さえるたとえが当てはまるのは、「上からだけでは止めきれず、まわりを囲むと止めやすい」という考え方の部分だけです。実際のトランジスタの中で、水が流れているわけではありません。
この記事でわかること
- この記事の目的:FinFETが、なぜ平らなトランジスタに代わったのかを、つかむこと
- 前半:平らなトランジスタが、小さくなると困る理由
- 後半:ゲートで三方向から囲む形と、その効果、課題

- 速くなるスマホ
- 電池は、持つようになった
- 裏には、トランジスタの形
博士、スマホは速くなったのに、どうして電池が持つようになったんですか?
理由のひとつは、トランジスタの形じゃ。平らだった形が、立体になったんじゃよ。
立体にすると、何がよくなりますか?
電気が漏れにくくなるんじゃ。順に、見ていこう。
トランジスタは、ずっと平らだった
トランジスタの中では、「ソース」から「ドレイン」へ、「通り道」を通って、電気が流れます。この通り道を、開けたり閉めたりするのが、「ゲート」です。IEEE Spectrumの記事では、トランジスタは、長いあいだ、二次元の、平らな構造だったと説明されています。ゲートと、そのすぐ下にある絶縁の膜が、平らな面の上に乗っている、というつくりです。平らなトランジスタでは、ゲートは、通り道の「上」にだけ、乗っています。
確認クイズ:平らなトランジスタで、ゲートは、通り道のどこにありますか?
答え:通り道の上に乗っています。
小さくなると、通り道の下から漏れる
トランジスタを小さくすると、ソースとドレインの距離も、短くなります。IEEE Spectrumの記事によると、この距離が短くなりすぎると、電気が、通り道の下の部分を通って、漏れてしまうようになりました。通り道の下は、上にあるゲートの力が、いちばん届きにくい場所です。そのため、スイッチを切ったつもりでも、電気が逃げていき、電力が無駄になります。
前々回のリーク電流の記事で説明した、切っても漏れる電気が、ここでも問題になっていました。ゲートから遠い、通り道の下の部分が、電気の逃げ道になっていたのです。

- 平らな形
- ゲートは、通り道の上だけ
- 下から電気が漏れる
確認クイズ:平らなトランジスタで、電気が漏れやすいのは、通り道のどの部分でしょう?
答え:ゲートの力が、いちばん届きにくい、通り道の下の部分です。
立体にするという発想
この問題を、たとえ話で考えてみましょう。ホースの水を止めたいとき、上から押さえるだけでは、押さえきれずに、下から水が漏れてしまいます。しっかり止めるには、上と左右の、まわりを囲んで押さえる方が、効果があります。
トランジスタでも、同じ考え方が使われました。IEEE Spectrumの記事では、設計者たちが、電気が、ゲートの管理から外れた場所へ逃げられない、立体的な設計に、目をつけたと説明されています。通り道を、平らな面から、立体に変えて、ゲートで囲む。これが、FinFETの発想です。通り道のどこにも、ゲートの力が届かない場所を、残さない。それが、立体にする目的です。ホースのたとえで、まわりを囲むほど押さえやすくなるのと、同じ考え方です。

- ホースを上から押さえる
- 下から水が漏れる
- まわりを囲むと、止めやすい
確認クイズ:ホースのたとえで、「上と左右から囲む」ことは、トランジスタの何にあたるでしょう?
答え:ゲートで、通り道のまわりを囲むことです。
フィン(ひれ)の上に、ゲートをかぶせる
IEEE Spectrumの記事では、IntelのFinFETは、シリコンの土台から、ひれ(フィン)のように突き出した、尾根状の通り道を使う設計だと説明されています。ゲートは、この通り道に対して、垂直に走り、通り道の上に、またがるようにかぶさります。こうして、通り道のまわりに、三つのゲートができあがります。Intelは、この構造を、「Tri-Gate(トライゲート)」と名づけました。
通り道の、上と左右の三方向を、ゲートが囲むため、電気が、ゲートの管理から外れた場所へ、逃げにくくなります。FinFETは、ひれ状の通り道を、ゲートで、三方向から囲む形のトランジスタです。

- 平らな形は、上だけ
- フィンの形は、三方向
- 逃げ場をなくす
確認クイズ:Intelの立体のトランジスタで、ゲートは、通り道を、いくつの面から囲むでしょう?
答え:上と左右の、三つの面から囲みます。
22ナノメートルで、速く、省エネに
IEEE Spectrumの記事によると、この立体のトランジスタは、Intelの「Ivy Bridge」という、22ナノメートルの世代のプロセッサで使われる、と紹介されました。Intelの発表では、従来の平らな32ナノメートルのトランジスタと比べて、低い電圧のときに、37%速く動き、消費電力は、半分以下になるとされています。電圧が低いときの性能が高いため、スマホのような、電池で動く機器に向いている、と記事は述べています。
ただし、この記事は、ニューヨーク・タイムズの記事を引いて、慎重な見方があったことも紹介しています。FinFETは、速さでは有利でも、電力の管理では、別の方式のほうが有利かもしれない、という、業界の推測です。Intelは、パソコンやサーバーでは強い一方、急成長するスマホやタブレットの市場には、入りこめていませんでした。そのため、この立体のトランジスタは、Intelにとって、大きな賭けだったとされています。
確認クイズ:Intelの発表で、立体のトランジスタは、低い電圧のとき、平らなものより、何%速いとされましたか?
答え:37%です。
FinFETとTri-Gateは、何が違うのか
Semiconductor Engineeringの記事(2012年)では、FinFETとTri-Gateの違いが説明されています。ひれの上にスペーサーがある、一般的なFinFETは、通り道の「二方向」にゲートがある、二重ゲートの素子です。これに対して、Tri-Gateは、通り道の「三方向」にゲートがあるため、その名前がついています。Intelの論文では、Tri-Gateは、条件がもっとも緩やかで、製造しやすいと主張されたそうです。Tri-Gateは、FinFETの一種ですが、ゲートが三方向にある点が違います。
IEEE Spectrumの記事も、IntelのTri-Gateを、FinFETの設計として説明しています。この記事でも、Intelの方式を、FinFETの一種として扱います。

- FinFETは、二方向
- Tri-Gateは、三方向
- Intelは三方向の方式
確認クイズ:Tri-Gateと、二重ゲートのFinFETの違いは、何でしょう?
答え:Tri-Gateは三方向、二重ゲートのFinFETは二方向に、ゲートがあります。
課題:ひれを薄くするほど、そろえにくい
立体にしても、すべてが解決したわけではありません。Semiconductor Engineeringの記事では、IMECの研究者の指摘として、ひれが薄くなるほど、「しきい電圧」を、そろえにくくなると紹介されています。しきい電圧とは、スイッチが入りはじめる電圧です。対策として、ゲートの金属の性質を調整する方法がありますが、そのぶん、製造の工程が増えます。
その後も、FinFETは使われ続けた
FinFETは、その後、広く使われるようになりました。TSMCの公式ページには、TSMCが、2022年に、3ナノメートルのFinFET(N3)を、世界で最初に、大量生産に移したと書かれています。2020年の5ナノメートル、2018年の7ナノメートルも、FinFETでした。長いあいだ、FinFETは、最先端のチップの、標準的な形だったのです。
製造の全体像は、半導体の製造工程の全体像で紹介しています。
ことばのおさらい
- ゲート:電圧を加えて、電気の通り道を開け閉めする部分です。
- 通り道(チャネル):ソースからドレインへ、電気が流れる部分です。
- フィン:ひれのように、細く高く立てた、シリコンの通り道です。
- FinFET:フィンを、ゲートで囲んだ、立体のトランジスタです。
- しきい電圧:スイッチが入りはじめる電圧です。
よくある誤解
Q. FinFETは、チップそのものを、立体にすることですか?
いいえ。立体になったのは、トランジスタの、電気の通り道の部分です。チップ全体を、積み重ねる技術とは、別の話です。
Q. ゲートで囲む面が増えると、何がよくなりますか?
通り道への、ゲートの力が届きやすくなり、スイッチを切ったときの、漏れが減りやすくなります。
Q. FinFETにすれば、漏れは、完全になくなりますか?
いいえ。ゲートで囲む面が増えることで、漏れが減りやすくなる、という話です。漏れがなくなる、という話ではありません。
まとめ
平らなトランジスタは、小さくなると、ゲートから遠い、通り道の下から、電気が漏れました。
FinFETは、ひれ状の通り道を、ゲートで三方向から囲んで、電気の逃げ道を減らした、立体の形です。
Intelは、22ナノメートルで、低い電圧のとき37%速く、消費電力は半分以下になると発表しました。
この記事の図解は、Instagram(semicon_campus)にも、まとめて投稿しています。保存して、見返してください。
参考にした公式情報
- IEEE Spectrum「Intel Transistors Enter the Third Dimension」
- Semiconductor Engineering「FinFET Vs. Tri-Gate」(2012年)
- TSMC「2nm Technology」
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