スマホを、使わずに置いておいただけなのに、気づくと、電池が少し減っている。そんな経験はありませんか。
画面が消えていても、スマホの中のチップでは、ほんの少しだけ、電気が使われ続けています。その原因のひとつが、「リーク電流」です。スイッチを切っても、少しだけ流れ続けてしまう電気のことです。この記事では、チップが小さくなるほど、なぜリーク電流が問題になるのかを、「水門」のたとえで説明します。
水門のたとえが当てはまるのは、「流れ始める基準の高さがある」「少しのすき間でも漏れる」という考え方の部分だけです。実際のトランジスタの中で、水が流れているわけではありません。
この記事でわかること
- この記事の目的:小さくするほど、速さと待機中の電気が引き換えになる理由を、つかむこと
- 前半:リーク電流とは何か、昔は問題にならなかった理由
- 後半:水門のたとえで見る、しきい電圧と、板ばさみの正体

- 使っていないスマホ
- 画面は消えている
- それでも電池が、少しずつ減る
博士、スマホを使っていないのに、どうして電池が減るんですか?
チップの中のスイッチから、電気が少しずつ漏れておるんじゃ。これを、リーク電流という。
スイッチを切ったら、止まるはずですよね?
そこが、今回のおもしろいところじゃ。水門のたとえで、順に見ていこう。
使っていないのに、電気が減る
半導体の中には、「トランジスタ」という、とても小さなスイッチが、たくさん入っています。トランジスタは、電気を流したり、止めたりして、0と1の信号をつくります。ところが、スイッチを切ったはずなのに、少しだけ電気が流れ続けることがあります。EE Times Japanの解説では、この切っているときの電流が、オフ電流、またはサブスレッショルドリーク電流と呼ばれ、増えると、待機中の消費電力が増えるとされています。リーク電流とは、スイッチを切っても、少しだけ流れ続ける電気のことです。
確認クイズ:リーク電流とは、どんな電気でしょう?
答え:スイッチを切っても、少しだけ流れ続ける電気です。
昔は、小さくするだけでよかった
半導体は、トランジスタを小さくするほど、性能が上がってきました。1970年代から1990年代までは、「デナード・スケーリング」という法則に沿って、小さくするだけで、回路が速くなり、消費電力もほとんど増えませんでした。この法則は、1974年に、IBMのデナード氏らが発表したものです。NVIDIAのBill Dally氏の講演を紹介した記事では、寸法を0.7倍にすると、同じ面積に入るトランジスタの数が2倍になり、速さは1.4倍になる、と説明されています。電圧も0.7倍に下げることで、消費電力は、ほとんど変わらずに済んだのです。
さらに、このころは、スイッチを切っているときの電力が、無視できるほど小さいものでした。そのため、リーク電流を、気にする必要がほとんどありませんでした。
1990年代の後半から、漏れが増え始める
ところが、1990年代の後半から、様子が変わります。小さくするにつれて、リーク電流が、急に増え始めたのです。その背景には、速さを保つための、ある事情がありました。次の章から、その事情を、水門にたとえて見ていきます。

- スイッチを切っている
- それでも少し流れる
- これが、リーク電流
確認クイズ:リーク電流が急に増え始めたのは、いつごろでしょう?
答え:1990年代の後半からです。
スイッチを、水門にたとえる
トランジスタを、川の水門だと考えてみてください。水門を持ち上げると、水が流れます。ただし、少し持ち上げただけでは、水は流れません。決まった高さを超えてから、はじめて流れ始めます。この、流れ始める高さが、「しきい電圧」です。そして、水門を持ち上げる力が、チップに加える電圧にあたります。
記事によると、流れる電流の大きさは、加える電圧と、しきい電圧の差で決まります。差が大きいほど、たくさん流れます。水門でいえば、基準の高さより、さらに高く持ち上げるほど、水が勢いよく流れる、ということです。

- 水門を持ち上げると
- 水が流れる
- スイッチを、水門にたとえる

- 流れ始める基準の高さ
- これが、しきい電圧
- 超えた分だけ、水が流れる
確認クイズ:水門のたとえで、「基準の高さ」にあたるものは何でしょう?
答え:しきい電圧です。
電圧を下げると、なぜ遅くなるのか
チップは、電気を節約するために、加える電圧を、小さくするたびに、下げてきました。ところが、しきい電圧は、小さくしても、あまり変わりません。すると、持ち上げる高さが、基準の高さに近づきます。つまり、加える電圧としきい電圧の差が縮まり、流れる電気が、減ってしまいます。EE Times Japanの記事では、流れる電流が、この差の2乗に比例すると説明されています。そのため、差が小さくなると、電流は、差の縮まり方以上に、大きく減ってしまうのです。
電気が減ると、次のスイッチが動き出すまでに、時間がかかります。回路の速さは、前のスイッチから流れる電気が、次のスイッチを動かすまでの時間に、大きく左右されるためです。だから、電圧を下げただけでは、チップが速くなりません。
確認クイズ:電圧を下げると、流れる電気が減るのは、なぜでしょう?
答え:加える電圧としきい電圧の差が、縮まるからです。
基準を低くすると、今度は漏れる
そこで考えられた方法が、しきい電圧を、下げることでした。基準の高さを低くすれば、少し持ち上げるだけで、水がしっかり流れるので、速さを保てます。電子情報通信学会の講演抄録でも、微細化に伴って、しきい電圧を下げながら、電源電圧を下げてきたことが、紹介されています。
ところが、基準が低いと、わずかなすき間からでも、水が通ってしまいます。閉じたはずの水門から、水がじわじわ漏れるのです。これが、リーク電流です。しきい電圧を下げるほど、切っているときに漏れる電気が、増えてしまいます。使っていないときも、電気が減っていくのは、このためです。
確認クイズ:しきい電圧を下げると、何が増えるでしょう?
答え:切っているときに漏れる電気、つまりリーク電流です。
下げなければ、動いているときの電気が増える
では、しきい電圧を、下げなければ、どうでしょう。漏れは増えません。でも今度は、加える電圧を下げられなくなります。電流を確保するには、電圧の差を保つ必要があるためです。すると、チップが動いているときの電気が、大きく増えてしまいます。
速さと待機中の電気は、引き換えになる
つまり、速さを取れば、待機中に漏れる。漏れを抑えれば、動いているときに電気を使う。チップは、この板ばさみになりました。EE Times Japanの記事では、この状況が、かつてのデナード・スケーリングの終わりとして説明されています。
この板ばさみから抜け出すために、トランジスタの形や、材料が、変えられてきました。電子情報通信学会の抄録でも、歪みシリコンや、Fin-FETなどが、性能を上げる方法として挙げられています。次回以降の記事で、その方法を、ひとつずつ見ていきます。

- 下げると、速さは保てる
- でも待機中に漏れる
- 下げないと、動作中の電気が増える
確認クイズ:チップが「板ばさみ」になった、とは、どういうことでしょう?
答え:速さを取ると、待機中に漏れる電気が増え、漏れを抑えると、動いているときの電気が増える、ということです。
製造の全体像は、半導体の製造工程の全体像で紹介しています。
ことばのおさらい
- トランジスタ:電気を流したり、止めたりする、とても小さなスイッチです。
- リーク電流:スイッチを切っても、少しだけ流れ続ける電気です。
- しきい電圧:スイッチが入り始める電圧です。水門でいえば、流れ始める基準の高さです。
- 待機中:チップが、何も処理をしていない状態です。
- 電源電圧:チップに加える電圧のことです。水門でいえば、持ち上げる力にあたります。
- 微細化:トランジスタを、小さく作ることです。
よくある誤解
Q. リーク電流は、スイッチが壊れているから起こるのですか?
いいえ。正常に動くトランジスタでも、切っているときに、少しだけ電気が流れます。しきい電圧を低くするほど、増えます。
Q. 電圧を下げれば、必ず速くなりますか?
いいえ。電圧を下げると、流れる電気が減って、かえって速さが上がらなくなります。
Q. しきい電圧を下げれば、問題は解決しますか?
いいえ。速さは保てますが、切っているときの漏れが増えて、待機中の電気が、増えてしまいます。しきい電圧を下げるかどうかは、速さと待機中の電気の、どちらを重くみるかという、引き換えの問題です。
まとめ
リーク電流は、スイッチを切っても、少しだけ流れ続ける電気で、1990年代の後半から、急に増え始めました。
速さを保つために、しきい電圧を下げると、切っているときに、漏れる電気が増えます。
しきい電圧を下げなければ、電圧を下げられず、動いているときの電気が増えるため、チップは、板ばさみになりました。
この記事の図解は、Instagram(semicon_campus)にも、まとめて投稿しています。保存して、見返してください。
参考にした公式情報
- EE Times Japan 福田昭「NVIDIAがMOSFETの比例縮小則(デナード則)を解説(前編)」(2017年)
- 電子情報通信学会 研究会 講演抄録 木村紳一郎「高速・低電力シリコンデバイスの現状と将来」(2007年)
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