三菱電機が2026年9月17日、量子コンピューター向け極低温増幅器などの研究開発開始を発表。マイクロ波ICの役割、冷却と発熱の課題、NEDO事業の日程、今後確認すべき性能を初心者向けに解説します。
9月17日の発表は、増幅器の完成ではなく研究開発の開始
三菱電機は2026年9月17日、NEDOの2件の採択を受け、量子コンピューターの大規模化に向けた研究開発を開始すると発表しました。対象は、超伝導型向けの極低温対応増幅器と、中性原子型・イオントラップ型向けのレーザーシステムです。半導体分野で注目したいのは、同社が持つマイクロ波IC技術を、量子計算を支える増幅器に活用する点です。三菱電機の発表
今回明らかになったのは開発方針であり、完成品の性能や量産実績ではありません。小型化、多チャネル化、低雑音化、極低温での動作はいずれも開発の目標です。これらを達成した製品が出荷された、あるいは量子計算機の性能向上が実証された、と読むことはできません。三菱電機の英語発表
日付にも区別が必要です。NEDOが該当区分の審査結果と実施予定先一覧を追加公表したのは2026年7月22日でした。9月17日は三菱電機による発表日であり、採択の内部決定日そのものを示す日付ではありません。NEDOの一覧では、同社の2案件は大規模量子コンピューター向けの部素材開発に位置づけられています。NEDOの更新履歴、実施予定先一覧
なぜ量子コンピューターに増幅器が必要なのか
量子コンピューターでは、量子ビットを操作するだけでなく、その状態を読み取る仕組みも必要です。超伝導型の読み出しでは、微弱な信号を増幅し、その後の処理で状態を判別します。増幅器はこの信号の通り道を支える電子部品であり、増幅器自体が量子計算を実行するわけではありません。IBM Researchの技術資料
低雑音増幅器とは、信号を大きくする際に、回路自身が加える余計な雑音を抑える増幅器です。小さな声を聞き取る場面にたとえると、声を大きくするだけでなく、機器が加える「サー」という音を少なくする役割に当たります。量子ビットからの信号が小さいため、増幅率だけでなく、どれだけ雑音を加えずに扱えるかが重要になります。読み出し回路と低雑音増幅器の説明
この課題は今回初めて登場したものではありません。IBM Researchが2023年に公開した論文紹介でも、将来の量子計算システムに向けて、制御・読み出し回路の拡張が課題として扱われています。量子ビット本体を増やすのと並行して、その周囲の電子回路も拡張できるようにする必要がある、という技術的背景があります。2023年の研究概要
マイクロ波ICと多チャネル化が担う役割
マイクロ波ICは、マイクロ波という高い周波数の電気信号を扱う集積回路です。三菱電機は、この技術を使って極低温でも動作する超小型・多チャネル・低雑音の増幅器モジュールを開発する方針です。量子コンピューター向け極低温増幅器の開発は、量子計算に必要な信号を扱う側から、装置の大規模化を支える取り組みと整理できます。増幅器の開発方針
多チャネルとは、複数の信号経路を扱えることです。例えば、一本の信号経路に対応する機能を、一つのモジュール内で複数経路分扱う方向を指します。ただし、今回の発表では具体的なチャネル数や寸法は確認できません。「多チャネルだから何量子ビットに対応できる」といった換算はできず、実際の接続方法や読み出し回路の構成を待つ必要があります。三菱電機が示した開発目標
半導体ニュースとしての意味は、量子計算機の進歩を、量子ビットの数だけで評価しない視点にあります。微弱信号の増幅や制御を担う電子回路も、システムを拡張するうえで必要です。今回の案件は、その周辺部品に日本企業の技術を投入する計画といえます。ただし、IBMの資料が裏づけるのは一般的な技術課題であり、三菱電機の設計や性能を検証したものではありません。NEDOの部素材開発案件、電子回路の技術背景
小型化と同時に問われる、冷却と発熱
極低温で使う回路は、小さくまとめればそれで十分というわけではありません。IBM Researchは、低温側への電子回路の集積が装置の複雑さや費用を減らす可能性を示す一方、冷却装置の限られた電力・熱の許容範囲に収める必要があると説明しています。回路が発生する熱も、システム設計の制約になるためです。IBM Researchの極低温電子回路研究
この背景から、今後の性能発表では、小型化と多チャネル化に加えて、消費電力、雑音、動作温度を併せて見ることが重要だと考えられます。今回の企業発表だけでは、それらの具体値や試作結果は確認できません。別の研究機関の回路例から、本件の動作温度、半導体材料、製造プロセスを補って推測することもできません。冷却条件に関する背景、今回の企業発表
極低温増幅器から、電気・計測の学び直しへ
増幅器の開発計画を読んだら、信号の大きさ、雑音、発熱、温度条件を別々の確認項目にします。研究開始を完成した製品の性能と混同せず、仕様と評価結果の公開を待つ姿勢が大切です。電気・計測の基礎を補う学習と、設備点検や評価経験を技術職の条件へ置き換える準備を併用できます。専用の極低温装置の操作は勤務先の教育で学び、一般の教材をその代わりにはしません。
レーザーとFPGAの開発は別の量子方式が対象
もう一つの採択案件は、中性原子型・イオントラップ型に向けたレーザーシステムです。三菱電機は加工機用レーザー技術と、FPGAなどによる低遅延制御技術を活用し、高出力・高安定なシステムを目指します。低遅延制御とは、制御に伴う時間の遅れを小さくすることです。ここでのFPGAによる制御はレーザー案件の説明に登場するもので、超伝導型向け増幅器へのFPGA搭載を示したものではありません。二つの開発テーマの説明
次は仕様の公開と、実機での技術検証に注目
三菱電機は、産総研をはじめとする研究機関と連携し、実用化に向けた技術検証を進めるとしています。これは今後の取り組みです。次の判断材料は、極低温での動作結果や雑音・消費電力の測定値、複数チャネルを組み込んだ際の実装条件などが示されるかどうかです。それらが公表されて初めて、大規模化への効果を具体的に評価しやすくなります。研究機関との連携方針、評価に関わる技術的制約
NEDOが示す事業期間は2026~2028年度で、2030年頃の産業化は事業全体の目標です。この日程は、三菱電機の増幅器の発売日や量産開始を保証するものではありません。現時点では、研究開発への採択と企業の開発方針を確認できた段階として、今後の試作・検証の成果を追うのが適切です。NEDOの事業説明
この記事の知識を、次の仕事・学習へつなげる
電気測定、温度監視、評価記録の経験を、対象・作業・確認した結果で整理します。担当範囲と必要経験、勤務地、勤務・出張、教育体制を比較すると、次に補う知識も具体的になります。
出典
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このニュースの背景となる電気を制御する半導体を、基礎から確認できます。
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