運転中の車で、エンジンの音が、いつもと少し違う気がした。でも、警告灯はまだ点いていない。そんな経験はないでしょうか。車は、走っている間じゅう、速度や温度など、たくさんの数字を記録しています。警告灯が点く前の記録を見返せば、「いつ頃から、少しずつ変わっていたか」が分かるかもしれません。
半導体の製造装置でも、同じことが行われています。装置は、ウェハを処理している間じゅう、圧力や温度などの数字を、休みなく記録しています。この記録を使って、装置の異常や、その兆しを見つける方法が「FDC」です。先に答えを言うと、FDCは、装置の中を、数字の記録から見張る方法です。
車の例が合っているのは、「警告が出る前の記録に、変化の手がかりがある」という点だけです。車と、半導体の製造装置は、別のものです。
この記事でわかること
- この記事の目的:装置が記録する数字から、異常の兆しを見つけるFDCのしくみを、つかむこと
- FDC(装置の異常を見つけて分類する方法)と、装置のセンサー記録の意味
- 記録から「指標」を作り、基準と比べて異常に気づくしくみ
- 小さな変化が、歩留まりや電気の性能につながった事例

- 装置が処理しながら、センサーが数字を記録する
- 記録を指標にまとめて、基準と比べる
- 基準から外れたら、警報と原因調べにつなげる
博士、FDCって、何をするものですか?
装置が処理しながら記録した数字を使って、異常の兆しを見つけるんじゃ。
警報が出てからでは、遅いのですか?
警報の前の記録に、手がかりが残っていることがあるんじゃ。順に、見ていこう。
装置は、処理しながら、数字を記録している
半導体のウェハは、装置の中で、薄い膜をつけたり、削ったりして、少しずつ加工されます。装置の内側は、ふつうは外から見えません。そこで、装置には、たくさんのセンサーがついています。センサーとは、温度や圧力などを、数字として測る部品のことです。
PDF Solutions(半導体のデータ解析の会社)の解説によると、ウェハの処理中に、装置から集めた、時間の順に並んだセンサーの信号があります。圧力、温度、ガスの流量、RF電力(プラズマを作るための電気の力)、動き、タイミングなどです。この時間の順に並んだ数字の記録を、「トレース」と呼びます。
トレースだけでは、どの装置の、どの場面の記録か分かりません。そこで、「どの装置か」「どの部屋(チャンバー)か」「どのレシピ(作り方の手順書)か」「どのステップか」という情報も、一緒に残します。この二つが合わさると、「工程が、実際にどう進んだか」の詳しい記録になります。

- 横は時間、縦はセンサーの数字
- 決まった区間の平均などを、指標にまとめる
- 波形全体ではなく、指標で見張るのがふつう
FDCは、基準と比べて、異常に気づく方法
FDCは、Fault Detection and Classificationの略です。日本語にすると、「故障の検出と分類」です。装置の動きを見張り、異常を見つけ、その種類を分けることを指します。
ただし、波形を、毎回、すべて人の目で見るのは大変です。そこで、PDF Solutionsの解説によると、ふつうは、レシピの各ステップの中の、決まった時間の区間(ウィンドウ)から、「指標」を計算します。指標とは、波形を、少ない数字にまとめたものです。平均、最大、最小、ばらつき(標準偏差)、傾き、安定性などがあります。
次に、その指標を、過去の基準線や管理限界と比べます。基準は、「正常なときの装置の動き」を表すものです。品質の良い製品が得られた運転で集めたデータを、「良い装置状態」のデータとして基準にして、あとから集めたデータを、その基準と比べる、という考え方があります。
指標が限界を超えると、警報が出る
PDF Solutionsの解説は、従来のFDCが答える問いの例を挙げています。
- チャンバーの圧力は、想定の範囲に入っているか。
- RF電力は、ステップの間、安定しているか。
- ガスの流量は、想定どおりに立ち上がり、落ち着くか。
- 温度の動きは、確認済みの条件と合っているか。
指標が限界を超えると、警報が出ます。警報のあとは、そのウェハに印をつける、技術者に知らせる、チャンバーを止める、といった対応につながる場合があります。
本当に怖いのは、ゆっくりした変化
歩留まり(良品の割合)や電気の性能の問題は、いきなり壊れて始まるとは限りません。PDF Solutionsの解説は、多くの場合、装置の動きの、小さく、ゆっくりした変化から始まる、と説明しています。たとえば、次のようなものです。
- 少しずつずれていく「ドリフト」
- 同じ種類のチャンバーどうしの動きの違い
- 制御の反応が鈍くなること
- 保全(メンテナンス)のあとに起きる変化
こうしたずれは、警報にも、工程の途中の測定にも、長いあいだ見えないままのことがあります。それでも、ずれは積み重なって、あとで歩留まりや電気の性能に出ます。装置のトレースは、これらの変化を、いちばん早く見つけられる場所であることが多い、と書かれています。

- 保全のあと、点が少しずつ上にずれる
- まだ上の線の内側なので、警報は出ない
- でも、並びを見ると、ずれ始めに気づける
この図は、説明のための模式図です。指標の点は、保全のあとで、ゆっくり上向きにずれています。それでも、上の線の内側にあるうちは、警報は出ません。
事例:保全のあとの小さなずれが、電気の性能とつながった
PDF Solutionsの解説には、ある顧客での事例が紹介されています。技術者たちは、FDCの指標と、電気試験の結果を組み合わせて、相関(一緒に動く関係)を並べて調べました。すると、トランジスタの「リーク電流」(流れてほしくない電流)と、スペーサーエッチという工程の特定のステップで測った「反射電力」の指標に、強い関係が見つかりました。
その指標の動きを時間の順に見ると、定期の予防保全(PM)の直後から、上向きにずれていました。そこで、指標の傾向から、元になった生のトレースへ掘り下げ、保全の前後で、センサーの動きを比べています。
この分析から、関連するセンサーの管理の規格を厳しくする、保全の手順を変える、慣らし運転(シーズニング)を足す、チャンバーを生産に戻す前にFDCの信号の安定を確かめる、といった対策がとられた、と書かれています。
測定と記録は、おたがいを補う
工程の途中で、できあがった寸法などを測る「工程内測定」は、人が決めた測定の手順に基づきます。そのため、工程の動きが変わっても、測定の結果は、安定したままのことがある、とPDF Solutionsは説明しています。測定の結果は、レシピが敏感に反応する部分を表すだけで、変化のすべてを映すとは限らないからです。
だから、装置の記録を見るFDCと、できあがりを測る測定は、おたがいを補い合います。
なお、SPC(数字を管理図に並べて見張る方法)だけでは、重要な異常を見逃すことがあります。仕組みはSPC(統計的工程管理)とは何かで紹介しています。その効果は、記録を要約した数字(指標)の質に、大きく左右されます。
PDF Solutionsの解説も、「指標の質は、モデルの複雑さより大切」と述べています。実際の工程の動きを反映していて、工程を理解した時間の区間で計算され、技術者が意味を読み取れる指標が必要、ということです。
設備の調整や復旧は、所属する工場やメーカーの正式な手順と、権限のある人の判断のもとで行います。この記事は、見方を紹介するもので、設備の操作を指示するものではありません。
ことばのおさらい
この記事に出てきた言葉を、やさしい言い方で、もう一度まとめます。むずかしく感じたら、この一覧に戻って、読み返してください。
- FDC:装置の記録から、異常を見つけて、種類を分ける方法です。
- センサー:温度や圧力などを、数字として測る部品です。
- トレース:センサーの数字を、時間の順に並べた記録です。
- レシピ:装置に、どう処理させるかを書いた、手順書です。
- チャンバー:ウェハを処理する、装置の中の部屋です。
- 指標:波形を、平均などの少ない数字にまとめたものです。
- ドリフト:数字が、ゆっくり、少しずつずれていくことです。
- 予防保全(PM):故障する前に、決めた時期に行う、点検や部品交換です。
よくある誤解
Q. 警報が出なければ、装置は正常ですか?
そうとは限りません。ゆっくりした変化は、警報にも、途中の測定にも、長いあいだ見えないことがあります。警報の前の記録に、手がかりが残っている場合があります。
Q. FDCは、センサーの波形を、すべて見ているのですか?
従来のFDCは、波形全体ではなく、ステップの中の決まった区間から計算した、平均などの指標を見るのがふつうです。波形そのものは、原因を調べるときに掘り下げて見ます。
Q. 測定をしていれば、FDCは要りませんか?
おたがいを補う関係です。測定の結果は、工程が変わっても、安定したままのことがあります。装置の記録は、その変化に気づく手がかりになります。
まとめ:FDCは、装置の記録から、異常の兆しを見つける
FDCは、装置が処理中に記録するセンサーの数字から、異常を見つけて分ける方法です。
記録から作った指標を、正常なときの基準と比べて、ゆっくりした変化にも気づきます。
測定とおたがいに補い合い、原因を調べる手がかりになります。
参考にした公式情報
- PDF Solutions「Analysis‑Ready FDC in the Age of AI and Big‑Data Semiconductor Manufacturing」
- Tokyo Electron特許 US 7,477,960 B2「Fault detection and classification (FDC) using a run-to-run controller」
- PDF Solutions特許 US 11,609,812 B2「Anomalous equipment trace detection and classification」
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