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東大など、原子1層BCNを2インチウエハーで実証

半導体ニュース

東大などが原子1層BCNを2インチウエハーで成長させ、p型2次元半導体として実証。性能の意味、技術背景、量産に向けた課題を解説します。

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2026年10月1日、東京大学などの国際共同研究グループは、ホウ素・炭素・窒素からなる原子1層の材料「BCN(ホウ素炭素窒化物)」を2インチウエハー規模で成長させ、p型2次元半導体として動作するトランジスタを実証したと発表しました。研究論文は2026年9月30日にNatureでオンライン公開されています。ここでいう「実証」は研究用の素子で性能を確認したという意味であり、量産や製品化が完了したという意味ではありません。東京大学の発表、Nature論文

何が実現したのか

BCNは、絶縁体である六方晶窒化ホウ素(hBN)の原子1層格子に炭素を組み込んだ材料です。研究グループは、モノメチルアミンボラン(MMAB)とアンモニアボラン(AB)を原料に使い、銅の結晶面である銅(111)上に、低圧CVDによって単層BCNをエピタキシャル成長させました。

エピタキシャル成長とは、下地の結晶構造を手がかりに、上の材料の原子を規則正しく並べて成長させる方法です。原子分解能の観察などから、炭素原子や炭素対がBNの格子に取り込まれ、主に窒素の位置を置き換えていると報告されています。MMABとABの分解・表面反応の経路を調整し、銅表面で炭素が過度に凝集することを抑えながら、BN格子への取り込みを促した点が技術上の要点です。Nature論文

BCNのバンドギャップは走査トンネル分光で約1.90 eVと測定され、第一原理計算の約1.92 eVと整合しました。バンドギャップとは、電子が電気を運ぶ状態へ移るために必要なエネルギー差です。一般に、電流を制御する性質を考えるうえで重要ですが、実際のトランジスタ性能は結晶品質、欠陥、電極との接触などにも左右されます。Nature論文

トランジスタ性能をどう読むか

研究チームは、BCNに20 nm厚のHfO2ゲート絶縁膜とニッケル・金電極を組み合わせたFETを作製しました。FETは、ゲート電極に電圧をかけて半導体の電流を制御する基本的なトランジスタです。今回の素子は室温でp型動作を示し、電界効果正孔移動度は約100 cm²/Vs、オン電流は約0.9 mA/μm、オン・オフ電流比は約10の8乗、しきい値電圧は約−0.45 Vでした。東京大学の発表、Nature論文

正孔移動度は、正の電荷を持つように振る舞う「正孔」が材料中を動きやすいかを表す指標です。値が高いほど、同じ条件で電流を流しやすくなる傾向があります。オン・オフ比は、電流を流す状態と止める状態の差を示し、約10の8乗はスイッチとして高い電流制御性を示す値です。ただし、素子寸法、電極、絶縁膜、測定条件が異なるため、この数値だけで既存材料や製品用トランジスタとの優劣を決めることはできません。

さらに、3回の成長バッチから得た224個の素子を、2インチウエハー上の異なる位置で評価しました。評価した範囲では、素子間およびバッチ間の特性がそろっていることを支持する結果が得られています。これは大面積化に向けた重要な一歩ですが、全ウエハーの全位置、量産ラインの歩留まり、長期間の安定性まで保証する結果ではありません。東京大学の発表

なぜp型2次元半導体が重要なのか

2次元半導体は、原子層に近い薄さによってゲート電界で電流を制御しやすく、異なる材料を重ねる積層技術とも相性がよいと期待されています。特にCMOSと呼ばれる相補型回路には、電子を主に運ぶn型トランジスタだけでなく、正孔を主に運ぶp型トランジスタも必要です。

しかし2次元材料では、安定して高性能なp型材料を大面積で作ること、電極との接触抵抗を抑えること、材料と絶縁膜の界面を制御することが課題でした。今回のBCNは、hBNの規則的な格子を土台にしながら炭素を原子レベルで導入し、p型動作を示した点で、候補材料の幅を広げます。

hBNは、ホウ素と窒素からなる層状物質で、化学的・熱的に安定した電気絶縁体です。グラフェンなどの2次元材料を形成する基板や保護層としても重要です。今回のBCNは、hBNの原子配列を活用しつつ、炭素の置換によって電気的性質を変える材料設計として理解できます。物質・材料研究機構の解説

量産や3次元集積への課題

今回の成果は、BCNの量産や製品化が完了したことを示していません。主な成長は銅(111)面上で行われ、FET作製時にはBCN膜をHfO2上へ転写しています。成長、転写、電極形成を含む工程を、半導体工場の大面積プロセスとして安定運用できるかは、別途検証が必要です。

また、224素子の評価は、選ばれた3回の成長バッチと評価位置における均一性を示すものです。全領域の歩留まりや欠陥率を保証するデータではありません。炭素の置換量と正孔濃度、バンド構造、接触抵抗、動作寿命の関係も、今後さらに調べる必要があります。

研究グループは、BCNをn型2次元半導体と組み合わせた相補型回路や、立体的な基板への成膜、3次元集積へ展開できる可能性を示しています。ただし、これは将来展望であり、実用的な相補型回路、量産、製品搭載を実証したという意味ではありません。今後は、炭素の配置をどこまで再現性よく制御できるか、転写を含む工程を量産に適用できるか、長期信頼性と回路動作を確認できるかに注目されます。Nature論文

まとめ

今回のニュースの本質は、原子1層BCNを作ったことだけではなく、p型2次元半導体として動作させ、2インチウエハー上の224素子で均一性を評価したことです。p型材料の大面積化という課題に対する有力な研究結果ですが、量産や3次元回路の実現はこれからです。発表済みの性能値と、研究グループが示す将来計画を分けて読むことが重要です。

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