前回は、リソグラフィでウェハ上に回路の模様を写すところまで見ました。
でも、リソグラフィで模様を写しただけでは、まだ膜そのものは削れていません。ウェハの上には、成膜で作った膜と、リソグラフィで作ったフォトレジストの模様があるだけです。
では、どうやって本当に回路の形を作るのでしょうか。そこで登場するのが、エッチングです。
リソグラフィで模様を写すところまでは、なんとなくわかりました。でも、写しただけで回路になるわけではないんですよね?
その通りです。リソグラフィは、どこを残してどこを削るかの目印を作る工程で、実際に膜を取り除くのがエッチングです。下書きと本番の加工のように考えると入口として近いですが、半導体のエッチングはカッターで削る機械加工ではありません。薬液や反応性ガス、プラズマを使って、材料を選んで取り除きます。
エッチングとは何か
エッチングとは、ウェハ上にある膜のうち、不要な部分を取り除く工程です。
半導体製造では、ウェハの上に酸化膜、窒化膜、金属膜、シリコン膜など、さまざまな膜を作ります。けれども、膜を全面に残したままでは回路になりません。必要な場所だけを残し、不要な場所を取り除く必要があります。
このとき、リソグラフィで作ったフォトレジストの模様が「守る場所」になります。レジストで覆われている部分は削られにくく、レジストが開いている部分だけがエッチングされます。
なぜエッチングが必要なのか
エッチングがないと、リソグラフィで作った模様を実際の材料に写せません。
たとえば、ウェハの上に絶縁膜を作ったとします。そこにリソグラフィで細い線の模様を作っても、絶縁膜そのものはまだ全面に残っています。エッチングで露出している絶縁膜を取り除くことで、ようやく「必要な場所だけに絶縁膜が残る」状態になります。
つまり、成膜は材料を足す工程、リソグラフィは形を指定する工程、エッチングはその指定に沿って材料を引く工程です。半導体製造は、この「足す・写す・削る」を何度も繰り返して、立体的な構造を作っていきます。
なるほど。成膜で全部に膜を作って、リソグラフィで削る場所を決めて、エッチングで本当に削る。これでやっと形になるんですね。
そうです。前工程の多くは、この流れを材料や目的を変えながら繰り返しています。
エッチングにはウェットとドライがある
エッチングには、大きく分けてウェットエッチングとドライエッチングがあります。
ウェットエッチング
ウェットエッチングは、薬液を使って材料を溶かすように取り除く方法です。比較的シンプルで、材料によっては有効な方法です。
ただし、液体は横方向にも回り込みやすいため、非常に細かい垂直な形を作るのは難しくなります。微細な構造では、狙った線幅や形が崩れる原因になります。
ドライエッチング
ドライエッチングは、反応性ガスやプラズマを使って材料を取り除く方法です。先端半導体では、縦方向に深く細く削る必要があるため、ドライエッチングが非常に重要になります。
特に、反応性イオンエッチング、RIEと呼ばれる技術では、プラズマ中のイオンや反応種を使って、材料を化学的・物理的に取り除きます。Lam Researchは、エッチング工程を「ウェハ上に堆積された膜や材料を選択的に取り除く工程」と説明し、RIEではイオンがウェハ表面を活性化して材料を除去すると説明しています。
エッチングで大事な3つの考え方
エッチングを理解するとき、初心者が最初に押さえるべき考え方は3つあります。
何を残す?
選択性削りたい材料だけを削り、残したい材料をできるだけ削らないことです。低いと、下地やマスクまで削ってしまいます。
どの方向へ削る?
異方性横に広がらず、できるだけ縦方向に削ることです。横へ回り込むと、狙った幅や形が崩れます。
どこでも同じ形にできる?
均一性ウェハの中心でも端でも、できるだけ同じように削れることです。場所によって差が出ると、回路のばらつきにつながります。
1. 選択性: 目的の材料だけを削る
選択性とは、削りたい材料と削りたくない材料をどれだけ区別できるかです。
たとえば、酸化膜を削りたいけれど、その下のシリコンは削りたくない、という場面があります。このとき、酸化膜はよく削れるがシリコンは削れにくい条件を作る必要があります。
Applied Materialsも、選択的エッチングを原子スケールの除去として説明しています。つまり、最先端では「ざっくり削る」どころか、どの原子を取り除き、どれを残すかというレベルの制御が重要になっています。
2. 異方性: 横ではなく縦に削る
異方性とは、方向によって削れ方が違うことです。半導体では、横に広がって削れるよりも、縦方向にまっすぐ削れることが重要な場面が多くあります。
なぜなら、回路パターンは非常に細かく、横に削れが広がると線幅が変わってしまうからです。せっかくリソグラフィで細い模様を作っても、エッチングで横に広がってしまうと、設計どおりの形になりません。
3D NANDのように深い穴や溝を作る場合は、さらに難しくなります。深く、細く、まっすぐ削る必要があるため、プラズマ、ガス、温度、圧力、装置設計がすべて重要になります。
3. 均一性: ウェハ全体で同じように削る
半導体工場では、ウェハの中心だけうまく削れても意味がありません。ウェハ全体で、同じ深さ、同じ形、同じ寸法に近づける必要があります。
もし場所によって削れ方が違えば、同じウェハ上のチップでも性能や歩留まりが変わります。エッチングは、装置の安定性、ガスの流れ、プラズマの分布、温度管理、計測と密接につながっています。
エッチングは何を削るのか
エッチングで削る対象は一つではありません。工程によって、酸化膜、窒化膜、シリコン、金属膜、絶縁膜など、さまざまな材料を削ります。
どの材料を削るかによって、使うガス、プラズマ条件、装置、後処理が変わります。だからエッチングは、単に「削る工程」と言うより、「材料ごとに最適な削り方を作る工程」と考えたほうが近いです。
エッチングのあとに洗浄が必要な理由
エッチングが終わると、ウェハ上には反応生成物、レジスト残り、微粒子、薬液やガス由来の残渣が残ることがあります。
そのまま次の成膜やリソグラフィに進むと、膜がうまくつかなかったり、露光パターンが崩れたり、配線不良やショートの原因になったりします。
だから、エッチングのあとは洗浄が非常に重要になります。Lam Researchも、エッチング後のフォトレジストや残渣、粒子などを除去する工程として、strip and cleanを説明しています。
ここでやっと、水や洗浄の記事につながるんですね。削ったらゴミや残りが出る。だから洗わないと次の工程が崩れる。
その理解で大丈夫です。半導体製造は、工程そのものよりも、工程と工程のつながりを見ると急に見えやすくなります。
関連企業をざっくり見る
エッチングを理解すると、関連企業も見えやすくなります。
エッチングは、装置だけでなく、材料、ガス、計測、洗浄、歩留まり改善と強くつながっています。企業研究や転職の観点でも、かなり重要な工程です。工程ごとに会社を整理したい場合は、半導体企業マップ、仕事の種類を整理したい場合は半導体職種マップも参考になります。
関連する職種
エッチングに関わる仕事には、次のようなものがあります。
- エッチングプロセスエンジニア
- 半導体プロセスエンジニア
- 装置エンジニア
- フィールドサービスエンジニア
- 計測・検査エンジニア
- 歩留まり改善エンジニア
- 材料・ガス・薬液関連エンジニア
エッチング工程では、狙った形に削れているか、削りすぎていないか、残りがないか、ウェハ全体で均一か、といった問題を扱います。製造現場では、この条件出しと改善が非常に重要です。
まとめ: エッチングは回路の形を実際に作る工程
エッチングとは、リソグラフィで作ったレジストパターンを目印にして、露出した膜を取り除く工程です。
- 成膜は膜を作る工程
- リソグラフィは削る場所の目印を作る工程
- エッチングは露出した膜を取り除く工程
- ウェットエッチングは薬液を使う
- ドライエッチングは反応性ガスやプラズマを使う
- 重要なのは、選択性、異方性、均一性
- エッチング後は、残渣を減らすために洗浄が重要になる
リソグラフィとエッチングがつながると、半導体製造の見え方がかなり変わります。リソグラフィで模様を写し、エッチングでその模様を材料に刻む。この繰り返しが、AIチップやGPUの微細な構造を作っています。
参考にした公式情報
- Lam Research: Etch
- Lam Research: Etch Essentials
- Tokyo Electron: Etch Tactras Series
- Tokyo Electron: Products and Services
- Applied Materials: Etch
- Applied Materials: Selective Etch
- Applied Materials: RIE glossary
理解した内容を、仕事・求人票につなげる
半導体は、工程を学ぶほど「どの職種が、どの会社で、どんな言葉で募集されるか」が見えやすくなります。今読んでいる記事(エッチング工程)を、次の順番で仕事理解へつなげてください。

